第121話 おっさん、パスワードを突き止める

 異世界ベティナに戻った俺は旅を進めた。

 途中、道路脇にビルが建っている。

 俺はビッグスクーターを停めて仰ぎ見る。

 こりゃ遺跡だな。


「ちょっと寄ってみてもいいか」

「ええ、数時間程度なら」


 俺は遺跡の1階に足を踏み入れた。

 土ぼこりが酷くて、足跡も沢山ある。

 発掘は既にされているようだ。


 俺は階段を上り2階の廊下に出た。

 扉をどこも壊されていて、たぶんオフィスビルだったと思うが、見る影もない。

 部屋の中はがらんとしてて家具など一つもない。

 もう出よう。


「どう。お宝はあった?」

「いや、発掘済みみたいだ」

「昇降機を取り外したら売れないかしら」

「金属を取るには確かにいいかもしれないけど。ケーブルを切ったら、ゴンドラが落下して大惨事だな。危険な気がする」

「例のアクセスキーで、昇降機を動かせないかしら」

「あれね。それで聞きたかったんだけど。ルート7って場所はある」

「知らないわ」


「そうか、ヒントは無しか。まだ約束の時間にはなってないから、挑戦するけどいいか」

「ええ」


 ゴンドラは5階に止まっていた。

 扉をこじ開けて中に入る。


「ロック解除」

「管理者パスワードをどうぞ」

「ルート7を10個」

「パスワードが間違っています」


 駄目か。

 金属板を差し込める様なスロットを探す。

 ある訳ないよな。

 俺だったらパスワードは誕生日とか、年表の年号とかにするな。

 名詞って線も捨てがたいが。

 持っているヒントがルート7を10個辿れだ。


 あれ、俺はさっきなんて言った。

 ルート7を10個だ。

 友達で円周率をパスワードにしていた奴がいたな。

 ルート7って平方根の7ってことじゃないのか。


 翻訳が不正確でルート7を10桁辿れだとすれば。

 ええと、電卓を出して計算する。

 2.645751311だな。


「ロック解除」

「管理者パスワードをどうぞ」

「2645751311」

「ロック解除します」


「やったぞ」

「凄いわ」


 1階のボタンを押すと、エレベーターは静かに動き始めた。

 チンと鳴って扉が開く。


「アクセスキーの謎を解くなんて。あなた、きっと学者になれると思う」

「遺跡のエレベーターが全て動くとすれば、凄い利権だな。管理者はなんで金属の板にヒントを刻んだのだろう」

「忘れた時の用心の為じゃない」

「それなら紙にメモすりゃいい」

「そうね。色んなダンジョンに金属の板をばらまいたって言うのはどう」

「ダンジョンに物を落とすと分解するか、ドロップ品になって現れる。という事はわざとやったのか」


 それなら、別のダンジョンで同じ物が出てくるのも納得できる。

 何の為に。

 もちろん保存の為だ。

 悪用されない為にヒントのみにしたんだろう。

 たぶんどっかの一族に『ダンジョンにお宝は隠した探すがいい』みたいな伝承が伝わっていても不思議じゃあない。

 『ヒントと数学知識を合わせよ』とか伝わっているのかもな。


「ダカードも同じ物を持っているのよね」

「ああ」

「不味いわね」

「何が不味いんだ。借金を返し易くなるだろう」

「不味いのよ」


 何が不味いのか分からん。

 何を知っているのやら。

 ダカードが功績を立てると不味いのか。

 目立って追跡がかえってやりやすいと思うんだが。

 分からん。


「ダカードに謎が解けるとも思えないな。ヘイホウコンだぜ」

「私もヘイホウコンなんて言葉初めて聞いたわ」

「俺の地方の方言だ。土地の面積を現す平方に根っこだな」

「言葉もないほど知られていない。それなら安心ね」


 この管理者パスワードはどこまで使えるのだろう。

 伝説にある通り全ての発掘品に使えるのだろうか。


「発掘品を何か持ってないか」

「それならコンロがあるわ」


 コンロを前に首をひねる。

 試すだけやってみよう。


「管理者パスワードを入力」


 コンロはうんともすんとも言わない。

 やっぱり大ぼらだな。

 ビルの管理が良いところだな。

 だが、遺跡の全てを管理できるのなら、凄い物だ。

 物凄い利権になるに違いない。

 管理者パスワードは心に秘めておく事にしよう。


 ダカードを追うヒントになるのは古代文字と数学の関係だな。

 そこで張っていれば現れるに違いない。


「古代文字と数学の最先端はどこだ」

「学園都市フォルドゥね」

「ダカードはたぶんそこだ」

「ライニーアは通り道だから、このまま進みましょう」


 ダカード、首を洗って待ってろよ。

 俺はお前の尻尾を掴んだぞ。

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