第116話 おっさん、仇を見つける

 砥石の販売が好調で嫌になってきた。

 ダンジョンのハードスネイルが可哀そうに思える。

 何匹生贄にしたのやら。

 俺の癒しは子供達との触れ合いだ。

 言っとくけどロリコンじゃないからな。


「おじさん、遂に人相書きの男を見つけたよ」


 玩具を配っていたら、子供が駆け込んで来た。


「本当か。どこでだ」

「風呂屋でだよ」

「風呂屋かぁ。考えもしなかったな。よし、案内しろ」


 子供の情報網がヒットしたか。

 武器屋か酒場だと思っていたんだけどな。

 俺は子供の後について風呂屋に向かった。


「ここだよ」

「帰っていいぞ」

「スーパーボール1000個を忘れないでね」

「ああ」


 風呂屋の入口を少し離れた所で見張る。

 待てども待てどもあいつらは現れない。

 子供に騙されたのか。

 いや、子供は自信満々だった。

 なぜだろう。


 俺は意を決して風呂屋に入った。

 湯舟に浸かってみたが、それらしい奴はいない。

 普通に考えるなら、俺が到着するのが遅かったのだろう。


 出直して明日の朝から、張り込みだな。


 張り込むのに同じ場所に男がずうっと立っていたら、怪しまれるに違いない。

 さて、どうしたものか。

 俺が選んだのはお面屋だった。


 お面の露店を風呂屋の前で開く。

 もちろん俺もお面を被っている。

 風呂屋帰りの子供がお面を親にねだり、まずまずの売れ行きだ。

 売れたからと言ってどうということはないが、カモフラージュにはある程度売れないと。


「来ないな」

「おじさん酷いよ。約束のご褒美はどうなったんだよ。人相書きの男ならさっきも風呂の中で会ったよ。ぼやぼやしていると逃げちゃうよ」

「えっ、そんな奴は居なかったと思うのだが」

「人相書きの太った男だよ」


 ブライムか。

 その時、皮鎧を着て、目だけが見える兜を被った太った男が風呂屋から出て来た。

 くそぅ、俺がお面を被って変装しているのだから、相手だって変装する可能性がある。

 こんな単純な事に気づかないとは。


「おじさん、これから忙しい。ご褒美は明日な」

「絶対だよ」


 俺は露店を畳んで、店の場所を変えるふりをしてブライムらしき男の後をつけ始めた。

 到着したのは門番の宿舎。

 これじゃブライムかどうか分からない。

 そっくりさんだったら、目も当てられない。

 宿舎で待つ事一時間。

 夕方のシフトなのだろう。

 ブライムらしき男は門に向かって歩き始めた。

 やはり兜は被ったままだ。

 門の勤務を終え酒場に行っても兜を脱がない。

 口の所にある面頬の部品を外しただけだ。

 口の部分が見えても本人との確証は持てない。


 兜を脱がせる必要がある。

 勤務中はまず無理だな。

 風呂屋ぐらいか。

 風呂屋では切った張ったは迷惑だろう。

 風呂屋でばっさりは流石に不味いか。

 俺がお尋ね者になる事請け合いだ。


 俺には現代製品がついている。

 小型カメラをこそっと奴の部屋に仕掛ければ良いんだ。

 宿舎に入り込んでも問題ない職業は薬売りだな。

 俺は魔力通販でいくつか薬を仕入れ。

 ブライムらしき男が宿舎を出たのを見てから、建物に入った。

 入口の近くのドアを叩く。


「薬売りです。ご入用はありませんか」

「ないな」

「恰幅の良いえーと、誰だったかな。この頃物忘れがひどくて。その人から注文されたんですが、いなければ扉の前に置いてほしいと」

「ああ、デリクの奴ね。二階の一番奥の部屋だ」

「すいませんね。サービスに胃腸薬をどうぞ」

「ありがとよ」


 えーと、二階の一番奥ね。

 ここだな。


 針金片手に。


分解ディサセムブル


 開いたぞ。

 部屋は散らかっている。

 好都合だ。

 植木鉢の陰に小型カメラを仕込む。

 ミッションコンプリートだ。


 これで奴が帰ってきた後に居なくなったら、カメラを回収して分析だ。

 パソコンを魔力通販で買うのはハードスネイルを沢山生贄に捧げないと。

 大忙しだ。


 小型カメラの回収も上手くいきいよいよ顔がさらされた。

 うん、奴だな。

 ブライムだ。

 間違いない。


 見つけてくれた子供の家に行く。

 真っ先にお礼を言うべきだと思ったからだ。


「おじさん、スーパーボールはもう要らない」

「何かあったのか」

「母ちゃんが病気になっちゃって、メタシン草が必要なんだ」

「そうか、なら金貨1枚あげよう。とても感謝してるんだ」

「金貨1枚だとメタシン草100本分にしかならない。一生分のメタシン草がほしい」


 お金をありったけ渡すとしても一生分は無理だ。

 この子供を救いたいが、どうしよう。

 手か、手ならあるじゃないか。

 ダンジョンを攻略して魔力を吸い取れば、モンスターは弱体化する。

 メタシン草が採りやすくなって、値段も下がるに違いない。

 常用するのも難しくないはずだ。


「おじさんの精一杯は金貨一枚なんだ。許してほしい。ただな、神様っていうのは良い子の願いを叶えるものだ。たぶんだが、メタシン草の値段が下がって買いやすくなるさ」

「もういいよ。無理だとは分かってる」

「じゃあな」


 金貨一枚を押し付けてその場を後にした。

 ブライムをやったらダンジョンを攻略しよう。

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