第74話 おっさん、闇冒険者を撃退する

 ベンケイが家の外の犬小屋で盛んに吠える。

 お客さんかな。

 物体を感知してライトが自動的に点く。

 窓から外を見たが人影はない。

 誤作動かな。


 突如、窓ガラスが粉々になった。

 身代わり人形が塵になり、床に弾丸が音を立てて落ちた。

 銃撃されたのか。

 敵はどこだ。


 見回すがいない。

 銃を撃つ音が正面から聞こえる。

 弾丸が魔力壁に当たりぽとぽと落ちる。

 透明になるスキル持ちの仕業か。


 俺は赤外線ゴーグルをかけてみた。

 むっ、いないな。

 パソコンに接続してある監視カメラの映像を見ると、銃を構えた人が映っていた。


 おお、噂の認識阻害って奴か。

 見ても見なかった事にするんだな。

 精神魔法の一種だろうか。


 俺は玄関から出ると、銃撃されるのも構わずにベンケイを解き放った。

 ベンケイが吠える方向に石を投げる。

 石が何もない所で跳ね返る。


 いることは確かなんだな。

 俺はロープをアイテムボックスから出して薙いだ。

 ロープが何もない空間で巻き付く。

 場所が分かればこんなの容易い。

 トイレのすっぽんを出して殴り掛かると、パスコンと乾いた音がして黒ずくめの男が横たわった姿を現した。


 さて、警察が来る前に尋問してみるか。

 例の糊を掛けると縛られた男は芋虫みたいにもぞもぞと動いた。

 そして、温度が下がる魔力回路を貼った。


「どうだ。かゆいだろ。雇い主は分かっているが、念のためだ。吐いてもらおう」

「くそう、こんなの依頼の情報にない。銃が効かないなんて。かゆい、かゆい、かゆい」

「早く依頼主を吐け」

「山田虎時とらときだよ」

「やっぱりな。どこに居る」

「闇冒険者のアジトだよ」


 アジトの住所を聞き出し、俺は庭の水道にホースをつなぎ、男に掛けてやった。


 銃声を聞いて近所の人が通報。

 警察がやってきて、男を逮捕していった。

 虎時とらときは脱獄してまだ日本国内にいるのだな。

 とっくに高跳びしていると思った。

 転移が出来るのでいつでも逃げられるいう自信もあるのだろう。


 もはや、俺を殺しても遺産は手に入らないのにな。

 遺言書が書き換えられた事実を知らないのかもな。

 それとも山田一族を全て殺せばいいとでも思っているのか。

 遺産相続で殺人をすると法律で遺産は手に入らない事になっている。

 どういうつもり何だか。


 魔力回路の電撃トラップなんだが、通り道には仕掛けていない。

 来客が掛かると問題だからな。

 道を通らずに敷地に侵入しようとすると発動するようになっている。

 今後は何か考えないといけないな。


 俺は段ボールで窓を塞ぎ、もう寝る事にしたい。

 したいが二段構えだと不味い。

 俺は異世界で寝る事にした。


  ◆◆◆


 翌朝。

 さあ、異世界にせっかく来たのだから、魔道具とポーションの知識でも漁ろうか。

 記憶には限界があるが、アルマ達を召喚する時に持ってきてもらえばいい。

 デジカメで撮影すれば複写はあっという間だ。


 おっ、これなんか良いんじゃないか。

 ふむふむ、これと現代の物を組み合わせれば。


 認識阻害に対する対策も本に載っていた。


 魔力を吸い取る結界の魔道具を設置すると、そこに入った人間はスキルが使えなくなるとの事。

 これなら、近所の人が間違って来ても問題ないな。

 異世界の城には設置してあるそうだ。

 解除できる人間も魔力パターンで限定出来るみたいだ。

 異世界の魔法科学も捨てたもんじゃないな。


「なぁ、もし家族が殺しに来たらどうする」

「うちのおとんはクズやけど、殺そうとはおもわへん」

「俺もなぁ。法律うんぬんの前に踏ん切りがつかん」

「殺すまではできへのやろな」

「難しい問題ですね」


「どっか遠い国で暮らしてくれたらいいと思うんだけどな」

「異世界に飛ばすことができればいいのに」

「まったくだ。あいつに異世界の苦労を味合わせたら、きっとまともになるはずだ」


 管理者にならできそうだが、やってはくれないだろうな。


「呪術付加」

「呪いなんてあるのか」

「伝説ではあるみたい」


 伝説じゃあな。

 俺がやるとしたら、魔力回路を入れ墨にして永久に作動させるとかだな。

 そういえば異世界では入れ墨を見ないな。

 やったとしても、地球には入れ墨を除去する手術もあるんだよな。

 それに強制的に入れ墨をするのに加担する彫師なんていないだろう。

 異世界の知識と現代知識の融合でなんとかならないだろうか。

 地道に探してみるか。

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