第30話 おっさん、ボールペンを売る
トラップ・ダンジョンから帰還して、伝言のチェックで訪れたギルドでエイシスに絡まれもした。
奴らから絡んでこないうちはしばらく放っとこう。
復讐を諦めた訳ではない。
時期を見ているだけだ。
俺は紹介状があったのを思い出した。
その、商会へ行くと中から言い争う声が聞こえてくる。
「なんで、売らないのよ!!」
声は若い女でかなりヒステリックに叫んでる。
「いくら言っても分からない人だな。こちらも商売なんだよ!!」
突き放すような怒声は男だ。
「今までの長い付き合いでしょう。これ買えないと首なのよ。助けると思って……」
女の声に少し泣きが入った。
「そんな事言われましても。出来ない物はできません」
相変わらず突き放すような物言いの男。
俺はダンジョンの攻略が出来て気分が良かったのでちょっかいを出す事にした。
店に入り話しかける。
「こんにちは。羽ペンの話を聞きに来た」
俺は店員と思われた中年の男に紹介状を渡した。
「ああ、いらっしゃい。一足遅かったですな。羽ペンは既に高騰していて安く売れません」
「ちょっと、私の邪魔しないで。後から来て割り込まないでよ」
女が話に加わった。
彼女は眼鏡を掛けていて少し高飛車な感じがした。
「その方は気にしなくて良いです。商談は終わってます」
「高騰して羽ペンを買えなくて、無駄足になるのもしゃくだ。あなた、一つ話をしてみる気はないか。力になれるかも」
俺は彼女に話しかけた。
「私は、冒険者学校の事務員をしてるのだけど、発注の数を一桁少なく間違えてしまったのよ」
事務にありがちなミスだな。
「予算が10分の1にならなければ、やりようもあったのだけれど」
予算が減らされたのか。その責任を取らされてたのだろう。
これも宮勤めにありがちだな。
「あなた、私の希望の値段で羽ペン売ってくれるの?」
「羽ペンは持ってないが、代わりの物なら持ってる」
俺は彼女の疑問に答えた。
「見せてくれる?」
「はいよ。
俺はボールペンとコピー用紙を出して渡した。
「これインクはどう付けるの?」
「インクはいらないんで、そのままどうぞ」
興味津々でポールペンを走らせる事務員。
「良いわこれ。画期的じゃない」
「そうでしょ。今回はお近づきの印に一本銅貨10枚で売るよ」
遂に現代知識がなきゃ作れない商品を売ってしまった。
俺を拉致できる可能性は低いから、問題無いだろう。
大量に売り捌いて、産業の一部を衰退させる事になるが。
まあ、既得権益を敵に回す覚悟はレベル200になった時にもう済ませてあるから今更だろう。
「さっきから、見ていたが。あなた、油断のならない人だ。こんなのが市場に出回ったら、私達は商売できない」
店員は少し憤慨した様子で、俺に言った。
「あなた達にも、卸し価格で大量に売るよ。うちの商会は小売をなるべくしない方向でやってるから」
「ちょっと、私との商談がまだ済んでないわ」
「何本必要?」
「千本だけど大丈夫」
「時間をもらえれば用意できる」
「ここに品物持ってきて」
彼女はコピー用紙に住所を書いて、去って行った。
「ムニ商会の者が後から商談に来ると思うんでよろしく」
俺は店員にそう言うと、店員は大急ぎで羽ペンを売り抜かなきゃと叫んで慌てて出ていった。
◆◆◆
ポールペンを千本、魔力通販で買う。
魔力で買ったボールペンは魔力100で10本、1本当たり魔力10の物をチョイスした。
住所の場所を尋ねる。
やはりその場所は学校だった。
文官と商人を育成する学校らしい。
「今回はありがとう。ところで他の商品はないの」
商売を終えた事務員からそんな事を言われた。
文房具も需要がかなりあるなと思った。
「あるよ」
「どんなのがあるの」
「書いて消す事の出来る奴とか。水が少し掛かったぐらいでは消えない奴とか。インクを小さいタンクに補充して書く奴とかだな」
「売ってくれるのよね」
「小売はしない。出会った店に卸すつもりだ」
「ならいいわ。あの店に注文を出すのはしゃくだけど、あなたの店にもお金が入るなら問題ないわ」
「ああ、せいぜい
さて、商売を大々的にやるのならそろそろ店舗が必要だ。
店舗の件は雇っている人間に丸投げしよう。
ついでに貸し家も探してもらうか。
そして、もっと魔力が欲しいな。
魔石から魔石に魔力を移す魔道具は作れるな。
とすれば後は魔石が集まる場所、ダンジョンの出口で待ち構えて、モンスターから出た魔石から魔力を吸い取ろう。
よし、冒険者ギルドに行こう。
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