第17話 おっさん、姉妹の奴隷を買う

「詳しい話をする前に、座ってくれ」


 二人をテーブルの椅子に着かせ。アイテムボックスからアルマが点てておいたお茶を出した。

 お茶を一口含むと爽やかな香りがして、すこし頭がすっきりした。

 うーん、奴隷かぁ。どうするべきか、悩むなぁ。

 アルマにも相談してみよう。


「おかあさんの病気は治ったのたけど、借金があってどうにもならないのよ」

「借金苦」

「それで、俺の所に来たのか?」


「元からポーションの代金を払う為に奴隷になるつもりでした」

「計画」

「さっきから妹さん一言しか喋らないけど大丈夫か?」


「いつもの事よ。変わってるけど気にしないで」

「心配無用」

「そうか」


「金なら余裕があるから問題ないけど、俺で良いのか」


 俺は少し考え申し出について念を押した。


「あなた、炊き出しのお金出しているそうじゃない」

「篤志家」

「別に人の為にやっているんじゃない。自分の為だ」


 ノックの音が聞こえた。

 今度は誰だ。


「開いているよ」


 入って来たのはアルマだった。

 姉妹はアルマの胸の辺りを見ると悔しそうな表情を浮かべる。


「失礼します。お邪魔やった?」

「いや、ちょうど良い。アルマの意見が聞きたかった。この二人エリナとモニカが俺の奴隷になりたいらしい」

「よろしいかと。人手も欲しいところやし」


 動噴の運用に人手が欲しいのは確かなんだよ。

 契約社員だと思えば良いな。


「よし、二人を買うよ」

「奴隷になるにあたって条件があります」

「特約事項」


「言ってみてくれ。駄目なら考えよう」

「私達、姉妹を離さないようにして下さい。それと、少なくて良いのでおかあさんに仕送りさせて」

「別離反対。親孝行」

「それなら、問題ない」


「私達を買う金額は借金の総額と奴隷になる手数料を足したものよ」

「金額提示」

「問題ないと思う」


 とりあえず風呂だな。


「アルマ、この宿の人間に話をして、二人を風呂に入れてやってくれ。シャンプー、リンスはまだあるよな」

「ええ問題はあらへん。二人共風呂に行きまっせ」


  ◆◆◆


 しばらくして風呂から上がった二人はボサボサの頭がまとまっていて、垢まみれの肌も綺麗なピンク色に上気していた。

 見違えるようだ。


「格差社会を感じました」

「巨乳羨望」


 俺の視線を感じたのか姉は妹をかばう様に位置取りする。


「誤解のない様に言っておくが夜の仕事は求めてない。モンスター退治の手助けが欲しいだけだ」


 俺の言葉に安心したのか二人の顔のこわばりが幾分緩んだ。


「モンスターは倒した事がないんだけど」

「初心者」


「問題ない。アルマもその状態から始めた。なにコツをつかめば出来るよ」

「何事も試してみないと」

「挑戦精神」


「次は服だな。アルマ頼む」

「任しとき。二人共行きまっせ」


 アルマに連れられて宿を出て行く三人。


  ◆◆◆


 帰って来た二人を見て思う。

 着ていたのは野暮ったいワンピースだが、なんとなく気品がある。

 これなら普通の街娘として通るな。

 いや、貴族のお忍びでも通るかもしれない。

 とても、スラムの住人とは思えない姿になった。


「よし商業ギルドに行くぞ」


 商業ギルドの借金の肩代わりだが、何の保障もせずに行うという事はしない。

 仕組みはこうだ。

 奴隷になる人は自分を売った金で借金を返済する。

 ところが大抵の場合借金の方が大きい。

 そこで、差額を商業ギルドが肩代わりして払う。

 その際、商業ギルドは差額の返済を奴隷に求める。

 だが、奴隷の給料なんか高が知れている。

 返済が滞ると奴隷になった時の保証人が支払う。


 そうなのだ。

 借金奴隷には保証人が必要なのだ。

 しかも、ギルドは肩代わりの期限まで設けてある。


 奴隷にする時に商業ギルドは手数料を取る。

 商業ギルドは損しない仕組みになっていた。

 借金奴隷になれなかった者は、国に売られる事になり奴隷兵、鉱山奴隷、娼婦、人体実験などに回される。

 どちらにしろ禄でもない結果しかない。


 奴隷の首輪は主人の命令に背けないように精神魔法が常に掛かるよう設計されている。

 溢れ出る魔力で動いているので、精神魔法は奴隷が死なない限り解けない。


 ひとつ疑問がある。

 スラムの人間が借金できたのが凄い不思議だ。

 彼女達は偉い人の血筋だったりしてな。

 ケイムもおかしいところがある。

 見返りもなしに彼女の母親の病気を治すために奔走していた。

 なんか突くと蛇が出そうだ。

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