霊感少女カスミ~三つ又の呪い
あいる
~第一話~ カスミとタクマ
霊感少女カスミ
~三つ又の呪い~
カスミはお化けの話もファンタジーの話にも興味はなかった、現実問題として、自分の周りにはいつも誰かの気配がしていて、声さえ聞こえて来るのだから仕方がない。
霊感のない両親に話しても、気味悪がるだけだし、友達に言っても信じては貰えない。
唯一信じてくれたのは、亡くなったおばあちゃんだけだった。
鍵っ子だったカスミが家に帰るのは学童保育から帰る五時過ぎ。
母親が帰って来る時間は六時、ほんの一時間なのに、一人の部屋は寂しく心細かった。
カスミが小学校三年生で、タクマは五年生だった。
玄関を開けてすぐにある階段にいつもタクマは座っていた。
(あっ、また?)
現実世界に特に必要のないもの、それは——霊感——
影を無くした者たちの魂を察知する能力
「なんの用なん? 」
カスミはいつものように聞いてみる。
「…………」
返事をしないタクマに声を荒らげる
「だから! なんの用やねん、私、ヒマやないねん、用がなかったら出ていって~や」
困ったもので、カスミには霊感があり、この世に存在していない何かがみえる。
背後霊も常時三人はいるけど、浮遊霊であるタクマはカスミの背後霊になりたいらしいのだ。
「だから~今は満席やねん、次から次にホンマにもう!ヒマか? 幽霊ってヒマなのか? 」
カスミは関西弁でまくし立てる
それは普通の人間に対してもそうだし、相手が霊であっても変わらない。
この世に
理由は不明なのだが、それまでもずっとそうだったし、きっとこれからもそうなのだろう。
口が悪いカスミだが、誰よりも心優しい、現実世界でもイジメほど嫌いなものはない。
霊に対してもそうなのだから、本人は気が付かないところで霊界でもきっと人気(
カスミが苦労をして霊を成仏させたら、即座にその椅子取りゲームが始まる。
ようやくタクマが背後霊の椅子をゲットしたのはカスミが中学生になった夏の夜だった。
その頃には、浮遊霊だったタクマとは時々話をするようになっていた。
人見知りで引っ込み思案のタクマは交通事故でこの世を去った。心をこの世に残しているからいつまでも彷徨っている存在だった。
「カスミ~ちょっと聞いてくれよ」
死んだ人の思いを受け取るのは疲れる、しっかり話を聞くことや、やり残したことを一緒に叶えてあげれば成仏するのは知っているけれど、人間の世界、特に中学生のカスミには授業や学校行事やテストがある。
それほど暇ではない。
タクマから何度も聞いた話はこうだった。
土砂降りの雨の降る日だったことや、買って貰ったばかりの傘を持っていた事、自分が死んだことで家族がバラバラになったこと。大好きだった猫がいなくなったこと。
確かに、カスミの家でもほんの少しだけ、変わった事があると家の中のバランスが悪くなる。
一番に
部活帰りのカスミが家に帰るといつも「おかえり」と言ってくれる母親がいなかった。
スマホの充電が切れていたのカスミは帰宅後に気がついた。
充電機に接続しながら家族のグループLINEのトーク履歴を除くと、母親からのメッセージが残されていた。
「母さんちょっと調子が悪いから病院に言ってくるね、おやつは冷蔵庫に入ってる」
その後のメッセージには
「とりあえず入院することになった」
単身赴任中の父親のメッセージもある、父親は毎週末には帰宅する。
「カスミ頼んだぞ、今日の夜には帰る」
母親のメッセージには入院に必要なものが書かれていた、お腹が空いていたカスミはカップラーメンを急いでたべたあとに用意されていたおやつを食べて、必要な物を準備してから、バスで二十分掛かる病院へと急いだ。
熱を出したり、体調が悪い時はいつも連れて行かれた病院。
カスミはその病院が怖くて嫌だった。
もちろんカスミの後ろにはタクマがいる。
頼りないが、二人の守護霊だっている。
その頃カスミの守護霊の子ども枠には、小学3年生で亡くなったユカコちゃんというアイドルみたいに可愛い女の子がいた。
ツインテールでいつも水色のワンピースを着た女の子と、サラリーマン枠には、某お笑い芸人によく似た、ビール腹の40代の元営業マンがいる。
数年ぶりの病院はやはり薄暗く、空気は
「なんか、ちょっとヤバいですね」自分だってヤバい存在のはずのタクマはカスミの背中に隠れながら言う。
もちろんタクマの方が小さいのは、死んだ歳から成長しないからだ。
「邪悪な魂が渦巻いてる感じがしますね」
ふと現れたサラリーマン枠のカタヤマが、出っ張ったお腹をポヨンと揺らしながらカスミの横に立った。
ちょっと頼りないが、カスミの背後霊の中で唯一の大人ではある。
霊の中には悪いヤツもいる、人間にも、優しい人や意地悪な人がいるように、浮遊霊や地縛霊の中にも、最強に悪いヤツもいるのである。
そしてそれは死神のような存在になる。
本物の死神は神と付いているだけ、理不尽なやり方で人を死に至らしめることはない。
それなりの悪事を働いた人を
その死神ではないもっと邪悪な存在が目の前に現れた。
それは初めてカスミが怖いと思った存在だった。
カスミの後ろに隠れたまま、タクマは言った。
「あれはかなりヤバいね」
※つづく
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