第48話 レキの料理

 レキが借りている家は狭いが清潔感があった。


(俺の故郷で言うところの1DKってところか)

 

 あまり広くない中に入ったケントはそう感じる。

 豊かさとは無縁そうな小さい村に高望みをしてはいけないだろう。


 レキ自身不満そうにしていない。


「ヒューマンの料理を食べるのは久しぶりですねー」


 ドアを閉めて人目を気にする必要はなくなったと判断したか、シロは口を開いた。


「食べたことがあったのか?」


 この発言にはケントもレキも驚く。


「ええ。食べ物あげるから見逃してくれって言われたことがあって。ヒューマン食べても美味しくないだろうし、見逃しました」


 シロはあっけらかんとした顔で話す。


「動物やモンスターは捕食するが、ヒューマンは対象外ってことでいいのかな?」

  

 と聞いたレキの顔が若干ひきつっている。


 場合によってヒューマンも食うかもしれないと思えば、心穏やかではいられないのだろうなとケントは思う。


「ヒューマンを食べようと思ったことはないかな……」


 シロはいやそうに顔をしかめる。


「第一、それをやろうとしたらマスターに殺されちゃう」


 彼女はそれから恐ろしいものを語る顔になって、ちらりとケントを見た。


「あえて否定はしない」


 彼はきっぱりと言い切る。


「ほら」


 というシロの声は若干震えていた。


「そんなに怖いのか……たしかに怒らせたら怖そうなタイプな気はするが」


 レキは興味深そうにケントを見やる。


「そうかな?」


 彼は自分では分からないと首をひねった。


「怒ると相当怖いと思うよ」


 とシロはレキの意見を支持する。


「まあいい。料理を頼む」


「ああ。ちょっと待っていろ」


 ケントの言葉にレキはうなずき、調理器具と食材の準備をしていく。

 

(うーん、特に変わったところはないか)


 料理系のスキルは料理をする際に自動で発動する。

 レキもまた意識的に使おうとしているそぶりは見せない。

 

 そして自動で発動する以上、どういうスキルを持っているのか目視だけで見極めるのは難しい。


(失敗しやすくなるマイナススキルのほうだったら、まだわかったかもしれないが)


 どうやらレキはマイナススキルを持っていないようだった。


「ほいよ。魚の香草焼きだ。……こんなのでいいのか? 時間をくれるならもうちょっといいもんを出せると思うぞ?」


 レキはケントとシロの分の皿と、木で作られたフォークを出しながら言う。


「いいよ。貧しい村だというのはわかるから」


 とケントは答える。

 

(それに獲物は俺がとったほうが断然早いだろうからな)


 なんて言わずに胸の内にとどめた。


 あとで話題に出してみるのもいいだろうと思いつつ、彼の意識はいい匂いがする料理に向けられる。


「答えられるなら答えてくれ。レキはどんなスキルを持っているんだ?」


 とケントが聞くとレキは苦笑した。


「俺のスキルは大したことがないぜ? なんせ自分が調理したものを、長期保存するスキルと、調理失敗しないスキルしかないからな」


「そうなのか?」


 ケントは首をかしげる。


 調理した料理を長期保存するスキル、調理を失敗しないスキルのどちらも激震撃神では重要だった。


 なぜなら料理は基本ストレージに入れないと保存できないからで、スキルを使うことでストレージの空き容量を確保できたのだ。


 ケントのように課金してインフィニットストレージを手に入れたプレイヤーでもないかぎり、重宝したことだろう。


 調理失敗しないスキルも地味にあなどれるものではなく、やはりレベルが上がってより優秀なスキルを手にするまでお世話になったプレイヤーは多いはずだ。


「ケントは美食家じゃないのか? 味を改良できるスキルのほうが人気あると思うんだが」


 とレキが彼の反応を不思議がる。


「マスター、食べてもいいですか?」


 じれったそうにシロが割って入った。


「ああ、いいぞ」


 苦笑しながらケントは許可を出す。

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