ワームの群れ
シロがすこし大きめの石を取り出して、まとまっている穴に投げようとしたのをケントが手で制止する。
「スキルの練習を兼ねて俺がやろう」
音を出すならいくつか適当な忍法があると、ここにきて考え直したのだ。
「風遁、烈風の術」
彼が発動させたのは中級忍法の、突風のような風を巻き起こす術である。
激震撃神では派手だけでダメージがあまり稼げない、上級忍法を覚えるつなぎという扱いだった。
こちらの世界でも激しい風が生まれ、一気に平原を吹き抜けていく。
「んんー」
シロがいやそうな顔をして、耳を両手でふさいだ。
「ちょっとやかましかったかな」
ケントは《忍神》の優れた聴覚を持ちながらも平然としている。
(自分の忍法でマイナス影響は受けないという都合のいいゲーム設定、こっちでもいきてるか……フレンドリーファイアーと一緒でなくなってそうだったんだが)
と彼は少し意外に思う。
一応可能性を考慮していたので、ダメージを減らせるように前方にしか風が生まれない術を選んだのだ。
効果はてきめんだったのか、地鳴りのような音が聞こえてワームの二倍くらいの体格を持った巨大なモンスターが次々に現れる。
「成功だな」
「おめでとうございます」
それでもケントとシロに恐怖や緊張はない。
彼らからすればお目当てのジャイアントワームが出ただけだし、しかも彼らにとってはデカいだけの獲物にすぎなかった。
「十匹もいればさすがに壮観だな」
とケントはお目当ての動物を見つけた、観光客のような顔で言う。
「これだけ食べたらお腹いっぱいになりますね。全部は入らないかな?」
対するシロは多すぎるご飯を見たような反応だった。
彼らの余裕すぎる態度が気に入らなかったのか、ジャイアントワームたちはガアアと声を荒げて威嚇する。
「食べたいなら全部食べていいぞ。首から下はな」
「あ、頭部は持って帰るんですね。了解です」
ケントに許可をもらったシロはうれしそうに答えた。
「三日月斬り!」
最初に使ったスキルは文字通り三日月を描くように斬撃を放つものだ。
斬撃の軌道にいた五匹の首が斬り飛ばされる。
「燕返し!」
次に放ったのは斬撃を一度くり出した後、Vの字を描くように反転させるスキルだ。
これによってさらに二匹を仕留める。
「残りは三匹だな」
とケントはつぶやく。
この時になってようやくジャイアントワームたちは、彼との圧倒的な力の差に気づいたようで、おびえて大きな体を震わせる。
「地下に逃げられてもめんどうだ。動きを封じようか」
彼は一瞬考えてから、忍法を使うことにした。
「土遁、環獄の術」
土で環状の拘束を作って相手の動きを封じ込めるスキルである。
地上に出ている部分を固めるだけでも、ジャイアントワームたちへの効果は絶大だった。
そしてあとは通常の斬撃で三匹の頭部を斬り飛ばす。
「頭を回収したら、食事にしていいぞ」
「ありがとうございます!」
シロは喜び、張り切って頭部を回収してケントに渡していく。
「て言っても、やっぱり全部は食べられないなぁ」
彼女は残された胴体を見て残念そうにつぶやいた。
「まあまたどこかモンスター狩りに行くだろうから、食事はその時だな」
とケントが言った時、先ほどよりもひと回り大きい地鳴りが聞こえる。
「うん? めぼしいワームは全部片づけたと思ったが」
時間差で出現するのはどういうことだろうか。
ケントが疑問を口にするとシロが「あー」とうめく。
「お父さんから聞いた話ですけど、ジャイアントワームがいっぱいいる場所には、マザーワームがいるかもって」
「ああ、マザーワームか」
ケントはこっちの世界にもいるのかと納得する。
その直後、彼の前に地面を突き破るようにして一匹のモンスターが現れた。
ジャイアントワームよりもひと回り大きい体と、赤い皮膚を持ったワームである。
「たしかにマザーワームだな」
と彼は言った。
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