モグラたたき(ワーム狩り)

 シロが穴の付近を狙って石を投げると、少しの間を置いて白色のミミズが出現した。


 ただし、体の太さはゆうに一〇センチはある怪物で、これがワームである。


「まずは一匹」


 ケントは三連突きでワームの体を切り刻む。


「もろいな……予想通りだが」


 ただのワームが《忍神》の攻撃に耐えられるはずがない。

 スキルの練習台だと割り切ろうと彼は思う。


「よし、どんどん穴の近くに石を投げてくれ」


「はーい」


 シロは石をいくつか拾うと、近い位置に穴から順番に投げて音を立てていく。

 その音に誘われてワームが順番に顔を出してくる。


「疾風剣!」


「四連斬り」


「燕返し」


 ケントは順番に異なるスキルを発動させながらワームを葬っていく。

 八匹くらい倒したところで彼はあることに気づいてしまった。


「……飽きてくるな、これ」


 やることは単純でモンスターも一種類しかない弊害だろう。


「一網打尽にするためには何か工夫したほうがいいな」


 八匹も倒せば充分な気はしているものの、彼はホワイトライダーという立場が生まれてしまっている。


 もう少し頑張らないと「手抜きをしたのでは?」と疑われるかもしれない。

 一度失った信頼を取り戻すのは大変だ。


(だから倒れるまで働いたんだが……)


 今回はもう少し頑張ったところで倒れる心配はいらないのがいい。

 ワームの頭部をとりあえずインフィニットストレージに放り込む。


 討伐証明がわりになってくれるだろう。


「じゃあ他にワームがいそうな場所に移動するか」

 

 まだまだ時間はあるし、討伐部位を買い取ってもらえたら金になる。


「はい。たぶんあっちです」


 とシロがさらに南を指さす。


「奥に行くほど人の目が届いていないんだろうな。ということは強いモンスターはいるかもしれないか」


 ケントはつぶやく。


 さすがにホワイトバード級はいないかもしれないが、レベル30台のモンスターはいてもいいのではないだろうか。

 

「ジャイアントワームくらいは出て来てほしいな」


 どのみち瞬殺コースだろうが、同一種しか出てこないのはさすがに興ざめだ。


「みんなジャイアントワームにおびえるのに、マスターはやっぱり違いますね」


 シロは何やらうれしそうに言う。

 彼女なりにケントの特異性を感じているのだろうか。


「まあな」


 否定してもわざとらしいだろうと考え、彼は適当にうなずいて奥へ歩いていく。

 無防備すぎる行動だったが、シロは笑顔で彼のあとに従う。


 彼らの足音を聞いたらしいワームが食らいつこうと出現するが、ケントはひょいと避けて忍刀で一刀両断する。


 何度かくり返しているうちに、彼はくすっと笑う。


「まるでモグラ叩きみたいだな。すこし楽しくなってきた」

 

 もっとも彼の標的はモグラではなくミミズなのだが、軽いゲーム感覚なのは違いない。


「マスター、私もやってもいいですか?」


 ケントの行動を見ていたシロは、興味を持ったらしく願い出る。


「ああ、かまわないぞ。狩ってはいけないモンスターなんて聞いてないしな」


 と彼は答えた。


 ファーゼのハンター組合は彼とシロのことをある程度把握しているのだから、注意事項があれば伝えていただろう。


「やった」


 シロは手を叩くと、さっそく彼から距離をとって大きな音を立てるように歩く。

 音に誘われるように顔を出したワーム、そしてモグラを彼女は手刀で屠る。


(ホワイトバードの武器はかぎ爪とくちばしのはずだが、人化した場合はどうなるんだ?)

 

 とケントはふと疑問を抱く。


 あるいは人間の手の形をしているようで、実はかぎ爪で切り裂いているのだろうか。


「頭部は一応回収しておいてくれ。討伐部位証明として出すから」


「わかりました……でも私の場合、そんなに持てません」


 シロはいやがらなかったが、自分の限界を訴える。


「ああ、そうだな。じゃあ持てるだけ俺に渡してくれ」


 とケントは言った。


 インフィニットストレージは便利だが、持ち主しか出し入れできないという特徴があった。


 防犯のための機能なのだが、こういう場合では不便だった。

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