第68話 ※性的な描写あり。
二つあるシャワーの前にそれぞれ座り身体を流す。長方形の湯船に足からゆっくりと入っていく。肩まで湯に浸かると、言い知れぬ爽快感と共に負の物が湯に流れ出ていくようだった。
「あーいいお湯……こりゃ癖になりそうだ」
「ほんと、いいお湯ですねえ。そうだ恭弥さん」
神楽の方を見やると、透明な湯の中に、秘める物の無くなった暴力的なまでの肢体が目に入ってしまった。努めてそれから目を離し、神楽の目を見て「なんだ?」と言う。
「せっかくだから洗いっ子しましょうよ」
「……どんどん旅行がピンク色のお店のサービス内容に近づいていくな」
「流石にローションは用意してないでしょうけど、用意させますか?」
「なんでソープの事知ってんだよ。そういう意味で言ったんじゃないよ」
「私はどんなプレイもばっちこいですよ」
「最初くらい普通にしようという気はないのかね、君は」
「私はヤれればなんでもいいです。あ、もちろんゴムは無しですよ。これだけは譲れませんから」
「いや普通逆じゃない? 男側がゴム拒否るならわかるけど、そっちが拒否るってどんなだよ……」
「絶対、ゴム無しです!」
「嫌だよー。子供出来たらどうせ婿入りさせるつもりだろう? 俺絶対椎名だけは行きたくないよー」
「中に出さなかったらセーフ!」
「アウトだよ! くそう、何が悲しくて旅行に来てまでこんな下世話な話をせにゃならんのじゃ」
「男子学生の頭の中なんて年中ピンク色なんですから、むしろ喜ぶべき事ですよ」
「俺を一緒にするな!」
神楽はふふふ、と笑うと、それまでのからかうような表情から一変感慨深いような表情を浮かべてこう言った。
「私たまに思うんです。退魔師なんかじゃなく、普通の子として生まれてたらって。特にこういう、等身大のやり取りをしている時とかに。私が普通の子に生まれてたらどんな子になってたと思います?」
「……おてんばな娘に育ってたろうさ」
「かもしれませんね。お父様もお母様も普通の人で、普通に学校に行って、土日は遊園地に行ったり、お買い物をしたり。そんな、あったかもしれないIFの世界を想像しちゃうと、私って何やってるんだろうってたまに思っちゃうんです」
「その考えは、退魔師なら誰もが通る道かもな」
「そうなんでしょうか。私が剣を握りだした頃は人なんて絶対に殺せなかったですけど、今はそれが必要な事なら迷わず私は殺します。恭弥さん私によく言いますよね。退魔師の思想に染まり過ぎだって」
「人を殺す事に躊躇が無い人間とは、友達にはなれないだろうからな。俺は神楽にはそうなってほしくないと思ってる」
恭弥の言葉を聞いた神楽は哀しい笑みを浮かべた。
「無理ですよ。恭弥さんだって、もう何人も人を切り捨ててきたはずですよ」
切り捨ててきた。その言葉には二つの意味が込められている事がすぐにわかった。文字通り人を切り殺してきた数と、大を救うために小を見捨てる行為。そのどちらも、結果的に人を殺している事に変わりはない。
「まあ、確かにな。でも俺は、情けないから未だによく悩むよ。その時の気分次第で人を見捨てる事になんの感慨も抱かない時もあれば、猛烈に後悔する時もある」
「それが恭弥さんの魅力でもあり、弱点でもあるんでしょうね。退魔師としては珍しいタイプです」
「どっち付かずのクソ野郎なだけさ。女に尻を蹴られないと、自分がやりたい事すら見えなくなる意志薄弱さに自分で吐き気がする」
「恭弥さんは支えてくれる人が必要ですもんね。そこでなんですけど」
唐突に元気を取り戻した神楽に嫌な予感がしつつも、黙って言葉の続きを聞く。
「やっぱり恭弥さんハーレム作りません?」
「俺達結構真剣な話をしてたはずだよな? 話題の転換酷くない?」
「だってどう考えても恭弥さんはハーレム向きなんですよ。基本的に情けないからお尻を蹴ってくれる人が必要ですし。でも私達はいつ死ぬかわからない訳ですから、それの予備として複数人囲っちゃうっていうのは名案だと思うんですよ」
「尻を蹴ってくれる人が必要なのは認めるがなんでハーレムになるのかわからない」
「じゃあこう言いましょう。側室を作りましょう」
「意味一緒だよ! あーあ、真面目に考えて受け答えしてたのがアホらし。そろそろのぼせてきたし上がるわ」
「あ、待ってくださいよー。洗いっ子するって約束したじゃないですかー」
「わかったわかった。洗いっ子でもなんでも付き合うから、タオルを引っ張るのはやめろ。マイサンがポロリしちゃうだろ」
「どうせこの後いっぱい見るんですから隠さなくてもいいですよ」
「お前には羞恥心というものがないのか!」
「そんなものは犬に食べさせちゃいましたもんねー」
暖簾に腕押しとはこの事だ。諦めた恭弥はさっさと椅子に腰掛けて頭にシャワーをかけた。
「ダメですって! 洗いっ子なんですから頭も私が洗います」
「えー、マジかよ」
「いいからいいから、私に任せてください」
神楽はシャンプーを手に取ると、シャコシャコと恭弥の頭を洗っていく。
「かゆいところはありませんか」
「おー、大丈夫。それにしても神楽頭洗うの上手いな」
「たまに犬のシャンプーしてますから、そのおかげですかね。それに人に洗ってもらうと気持ちいいものですよ」
「あー美容室とかそうだよな」
「そうですね。流しますよ。ちゃんと目をつむっててくださいね」
シャワーで泡が流されていく。完全に泡が流れ落ちると、毛穴の汚れが綺麗サッパリ落ちたのではないかと錯覚するほど爽快感を覚えた。
「はい、お終いです。次は身体洗いましょうねー」
神楽はボディソープをボトルごと手に取ると、カシュカシュと大量に出して身体に塗りたくっていった。
「おい、まさかとは思うが」
「そのまさかでーす」
恭弥の背中にむにゅりと神楽の乳房が押し付けられる。上下に擦られると、コリコリとした乳首が甘く引っ掻くような感触をもたらし、なんともむず痒かった。
背中の感触に意識が持っていかれていると、脇の下からにゅっと伸びてきた泡だらけの手が恭弥の胸板を優しく撫でていく。時折人差し指で乳首を刺激するその動作からは、身体を洗う気など微塵も感じられなかった。
「じゃあ次は前向きましょうか」
クルリとなすがままになっている恭弥の身体を反転させると、神楽は太腿にまたがって前後に動き出す。
ぴっちりと閉じた桃の筋が時折花開き、恭弥の太腿を厭らしく擦っていく。しっかりと整えられた陰毛がワカメのように揺れ動き、毛先がツンツンと肌に触れる。
「前へ進んでー後ろに下がるー」
「おい、調子に乗り過ぎだぞ」
「ダメですよー。今動いたら二人共転んじゃいますからね」
そうして焦らしに焦らしぬかれた末に、遂に神楽のしなやかな指が肉茎を甘く撫で上げた。唐突に訪れた直接的な刺激に身体がビクリと反応する。
恭弥の反応に気を良くした神楽は人差し指で亀頭の根本をくるくると弄ると、今度は輪っかを作って上下にゆるく擦り始めた。
緩やかに登ってくる射精感。腰を引いて逃れようにも、神楽は空いた手で腰をしっかりとホールドしているため逃げ場が無い。力強くしごかれるのであれば肛門に力を入れて耐える事も出来たろうが、こうも甘く擦られるととても耐えられそうになかった。
「ちょ、それ以上はマジでマズイ」
「いいんですよ、ぴゅっぴゅしちゃっても」
いよいよ射精感を抑えられなくなった。尿道から凄まじい勢いで精が放出された。
天高く飛び上がった白濁液は神楽の頬にべったりと付着した。ドロリと口元まで垂れてきたそれを、神楽は真っ赤な舌で舐め取った。その行為はより一層恭弥を興奮させた。
辛抱堪らなくなった恭弥は神楽を抱きしめようとしたが、するりと躱されてしまう。
「ダメですよ。洗いっ子なんだから。続きは私の事を洗ってからです」
「うぬぬ……まさか年下にここまで翻弄されるとは」
「エッチに年上も年下も関係ないですもんねー。いいからほら、私の頭洗ってください」
寸止めを食らった気持ちのまま、恭弥はしょうがなく神楽の頭を泡だらけにしていく。普段から手入れが行き届いている姉同様の白銀の髪は、少量のシャンプーでも泡立ちがよかった。決して指が絡まる事など滑らかな肌触りだった。
「流すぞ」
「はーい」
シャワーで濯いでいく。泡が完全に落ちきると、神楽は長い髪をぷるぷると犬のように振り回して水を払った。
「あっ、バカやろ。目に入っただろ」
「ああ、ごめんなさい。つい普段の癖で」
「お前は犬か。ったく、身体洗うぞ」
「あ、タオルは使わないでください」
「寸止めしといてそういう事言う」
「違いますよぉ。私普段から身体洗う時はタオル使わないんです。ゴシゴシされるの好きじゃないんですよ」
「しょうがないな」
シュコシュコと手にボディソープを取る。軽く泡立てて神楽の背中を洗っていく。
シミ一つ無い美しい肌だ。退魔師だけあって程よく筋肉がついているが、女性特有のしなやかで柔らかな肉付きをしている。臀部までのラインが綺麗な弓なりになっており、まさに完成された造形美だった。
(こんなに細い身体のどこからあの力が出てくるのやら……)
「ほい終わり。前は自分で洗えよ」
「そうはいきませんよ! 私だって洗ったんですから洗ってください!」
神楽は素早く振り向いて恭弥の手を取ると、自らの胸へと導いた。力強くその豊満な乳房に手を押し付けさせると、ニコリと微笑んだ。
「頼むから勘弁してくれ……」
そうは言いつつも、逃れられない事を悟った恭弥は極力目を逸らしながら神楽の身体を洗うのだった。
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