最低(F)ランクの最強指揮官(コマンダー)
藤色緋色
第1話 それぞれのプロローグ
◆◆アキラ◆◆
「手強い。流石だな。だが!!」
大小12枚の翼を持つ真紅の鎧。
GENEral-purpose・Chrono-system-loading・Individual・Combat・Equipment、汎用クロノ・システム搭載型個人戦闘装備、
"戦いの神に対抗するもの"という意味を持つその
相手は近寄られるのを嫌って、バラ撒けるものをありったけバラ撒いて弾幕を張る。
だがそれも予測済みだ。
背中のポッドから
「引っ掛からんよ、そんなもの」
向こうもこちらも、飛び道具は残り少ない筈。ならば!!
背中のウェポンラッチからウィングドスピア抜き放ち猛ダッシュ。文字通りの
『三式弾、装填。主砲、撃て』
この相手も、ダメージは見られない。
ならば、この攻撃の意味は?
重力とは空間の歪みの度合いで、重力子は、その歪みを発生させる粒子。
それがバラ撒かれたこの空間は、云わば重力異常地帯。その中で素早く動く事は困難を極める。
つまりこの攻撃の意図は、相手の足留め。
その足留めされた相手に向かって、今度こそ
相手は空振りさせられた大剣を切り返して迎撃しようとしているが……
「遅い!!」
俺の槍が相手の胸を貫いた。
槍は身体を貫通し、槍先が地面へと突き刺さり相手を縫い付ける。
その槍を離し、後退しつつ両腕前腕部に
そして、まだ何かをしようとしていた相手の両腕を切り落とし、胴を横に薙いで身体を上下真っ二つにし、更に頭を耳のラインで輪切りにした後、最後に真上から真下に切り下ろして左右に斬って落とした。
確実にトドメを刺した事を確認して、両腕のブレードを解除した。
過剰な攻撃なように思えるかもしれないが、トドメを刺すまでか戦闘。そう、あれだ、"帰るまでが遠足"と同じだな。最後まで油断大敵。
「シア、いい援護だった。流石は"
『"そしゃげ"。女の子が、砲塔背負って、海で戦うやつ』
先程、絶妙なタイミングで援護してくれたのは、俺と将来を誓いあった機械の身体を持つ少女、シア。
銀色のショートヘアと緋色の瞳が魅力的な小柄な少女で、元は俺の創った量子AI搭載型の
その彼女を、俺は人として育てる事にして、様々な教育、経験を積ませた結果、何故か俺の嫁になると言い出した。
これはあれか? "大きくなったらお父さんのお嫁さんになるぅ"ってやつか? 俺にとってシアは娘同然だしな。
まあ、美人の娘(←自画自賛)にそう言われて悪い気はしない。
でも、左手の薬指に指輪を要求された時は流石に困った。世間体もあるし。
悩んでいる俺を見てどう捉えたのか、シアが俺の服の裾を掴んで、上目遣いで俺を見上げてきた。
あの時のシアの顔は今でも忘れない。
シアにそんな顔をさせてはいけないと思った俺は、世間体を重力子ブレードで光子に変わるまで切り刻んで、指輪を買ってきた。
そして、二人だけの結婚式。
指輪を交換し、誓いの口づけをして、シアは娘から
あ、スマン。つい
まぁ、そういう事で、息ぴったりのシアの援護のお蔭で、今日も無事に帰る事が出来そう……
ズズズズズズ……
振動?! チィッ!!
「シア!!」
『センサーで、確認中……地下約50mに、Cリアクター反応、確認。暴走状態と推察。このエネルギー量は、次元崩壊の危険性、かなり大』
アイツめ、自分が死ぬと同時に施設が自爆するようにセットしていたな?
「シア、待避してくれ。前に話し合った、非常時の行動に従って、まずはあそこで待っていてくれ」
『了解。アキラ、気を付けて』
「ああ。アンタレスを着けているんだ、大丈夫さ。シアも、迎えに来てくれる時は世界線と時間軸に注意してくれ」
『そうじゃなくて、変な女に、気を付けて』
「そっちかよ!! 大丈夫だ。お前より可愛い女なんている訳ないんだからな」
『恥ずかしい。けど嬉しい。分かった。ビーコンの信号、待ってるから』
「ああ、それじゃ、さっさと片付る」
シアの乗った純白の機体、スターラスター型高次元航行強襲輸送艇シネラリアが反転、離脱するのを見送って、俺は宙に舞い上がった。
「いくぞ。Cリアクター、
前に突き出した両腕の先に漆黒の球体が現れ、それがどんどん大きさを増していく。そしてその直径が10メートルを超えたところで眼下の地面へと撃ち下ろす。
「行け! 【グラヴィトン・スフィア】!!」
放たれたその力が導くは虚無。取り込んだ全てを光子にまで分解し、それにより生じたエネルギーを、それ自らが破砕した空間より次元の挟間へと流出させる。
その破壊の奔流が収まると同時に、今度は砕かれた空間自体が、その傷を塞ぐ為に周りの全てを飲み込み始める。その力を放った、俺を含めて。
その流れには逆らわず、次元の狭間に放り出され、力の流れが安定したところで体勢を立て直して自分の状態を確認する。
損傷はない。
もし、フィールドを展開していなかったら、俺の身体はアンタレスごと、力一杯絞ったボロ雑巾の様にネジ切れてしまう事になる。
さて、問題はここからだ。
アンタレスのエネルギー源、
今のアンタレスの状態だと、シアの待つ場所に辿り着くのは難しい。
ここは一旦近くの世界に降りて、アンタレスを簡易メンテナンスするのが得策だろう。無理をして、リアクターが
俺はフィールドの中と外の時間の流れを同調させていく。この、自分と世界の時間の流れをピタリと合わせる事、つまり相対時流速を0にする事で、その世界に自分が現れる事が出来る。ちなみにこれを"現界する"という。
後は、降りた世界が地獄のような場所でない事を祈るだけだ。
相対時流速0.3、0.2、0.1、現界。
俺の目に飛び込んできたのは、彼方まで続く緑の森だった。少なくとも、見掛けは地獄ではなさそうだ。
そろそろリアクターの限界が近い。何処かに着地出来ると有難いが……
次元遷移フィールドを解除して、空中から辺りを確認する。
夕闇迫る森は暗く、目視ではよく見えない。
だが、アンタレスなら何ら障害にはならない。音、光、熱、そして重力の複合センサーからの情報を処理し、脳の視覚野へ信号を送る事で視界を補完してくれる。
森の所々にテーブルマウンテンのような岩山が頭を出しているのが見えた。
手頃な岩山に着地し、アンタレス・ユニットを量子化して収容する。
メンテナンスといっても、量子化して収容してやれば自己修復されていく。要は、
アンタレス・ユニットを解除すると、黒のソフトレザースーツに濃いグレーのプロテクターを着けた、軽装な防具姿になる。この状態を、俺やシア、これの設計開発に協力してくれた"あの人"はアンダーアーマーと呼んでいる。
この状態でも、複合センサーは半径10kmくらいの範囲を検知出来る。
まずはこの世界の様子を把握して、可能なら休息を取れる場所を確保したい。
センサーで確認すると、日が沈んだ方向を西と仮定して、南西に8キロメートル程の場所に人間の体温くらいの熱源反応が多数ある。街だろうか?
それと、北(仮)の方角から、人間とおぼしき反応が2つと、人間の3分の2程の大きさの反応が8つ、こちらに向かって接近してきている。
念の為、
やがて、崖下の拓けた場所に姿を現した二人は、崖を見渡した後、来た方向へと向き直り身構えるのが見えた。
なるほど。あの二人は何かに追われて逃げていた訳か。なら、手助けしてやれば、街の情報くらいは得られるかもしれない。
「そこの二人! 手助けが必要か?!」
俺は声を掛けてみた。追われているように見えて、実は囮になる作戦だったなどと揉めても困るしな。
△△アイ△△
はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、
ひたすら薄暗い森の中を駆ける。少しでも早くあそこから遠ざかる為に。
私はアイ。アイ=ロスチャイルド。この国では3番目くらいに大きいシェルフィルド魔術学校を、今年次席で卒業した魔術士だ。
魔術とは、世界に空気と共に満ちている
何もないところからいきなり火を出して薪に火を点けたり、桶に水を汲んでみたり、光を集めて敵対する相手に攻撃したり出来る。
その私が、何故森の中で全力疾走しているのか?
簡単に言うと、仕事に失敗したのだ。
私は、いえ、私の後ろを同じように走っている
討伐、ではなく、偵察。巣の周りの地形や、見張りの数や様子を確認してギルドに報告するだけの簡単なお仕事。の筈だった。
だけど私達は巣の中まで調べようとした。最近、ギルドでのランクが最低のFからEに上がり、調子に乗っていた。
ゴブリンは、多少知恵が回る以外は大して強くもない、ごくありふれた魔物だ。同数ならまず負けないし、倍の数いたとしても、まぁ、何とかなる程度の。
だけど、その油断が命取りだった。
私達が見落としていた横道からゴブリンが現れ、狭い通路で挟み撃ちにされてしまった。
数は10匹以上。私達の3倍はいた。
私とスノウは、パーティーリーダーの
ゴブリンには雄しかいない。それは、ゴブリンが他種族の雌を犯して繁殖する事を意味する。ロイド達が私達を逃がしたのも、せめてそれを防ごうと考えたからだ。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、どうにか、逃げ切れた、かしら?」
「はぁ、はぁ、そうでも、ない、みたいよ。まだ近くは、ないけど、追ってきてる、気配が、あるわ。どだい、森の中、で、あいつらを、巻くなんて、無理よ」
森はゴブリンにとってはホームグラウンド。しかもゴブリンは夜目と鼻が利く。日が落ちて、夜の帳が降りつつあるこの場所で、私達が逃げ切れる可能性は殆どなかった。
「だったら、何処か、拓けた、場所で、迎え撃った、方が、まだ、目かありそう、ね」
「あいつらの、子供、産まされる、くらいなら、死んだ方が、マシってね」
と、森が急に拓けて、目の前に崖が現れた。紫色の空をバックに見える崖のシルエットから、その高さは20mはありそうだ。左右を見ても、暗すぎて、その崖がどのくらい続いているのかは分からなかった。
どうやら覚悟を決めなければならないみたいだ。
私達が息を整えつつ、自分達が来た方向へと向き直り、それぞれの武器を構えた、その時だった。
「そこの二人! 手助けが必要か?」
神様をあまり信仰していない私でさえ、それはまるで、天からの声に聞こえた。
▲▲スノウ▲▲
アタシはスノウ。スノウフラウ=ホリィツリー。親しい人はスノウと呼んでくれている。
私と、そしてパーティーメンバーの一人、魔術士のアイ=ロスチャイルドは森の中を必死に逃げていた。
森の中といってもクマからではなく、多数のゴブリンに追われていた。
冒険者ギルドの仕事でゴブリンの巣の偵察をしに来て、調子に載って巣に侵入して、ゴブリン達に出し抜かれて挟み撃ちされ、パーティーリーダーのロイドともう一人が引き付けてくれている間に何とか突破して逃げ出してきた。
ロイドの指示だったとはいえ、仲間を見捨てて逃げ出してきた。冒険者としては最低だ。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、どうにか、逃げ切れた、かしら?」
一緒に走るアイが、息を切らせながら聞いてきた。彼女は魔術士。頭は回るが気配を読んだりは苦手だからアタシに聞いてきたのだろう。
「はぁ、はぁ、そうでも、ない、みたいよ。まだ近くは、ないけど、追ってきてる、気配が、あるわ。どだい、森の中、で、あいつらを、巻くなんて、無理よ」
相手が疲れて諦めてくれない限り、森の中の追い駆けっこでゴブリンに勝つなんてまず無理。
だけど、ここで諦めても、ゴブリンに
「だったら、何処か、拓けた、場所で、迎え撃った、方が、まだ、目かありそう、ね」
「あいつらの、子供、産まされる、くらいなら、死んだ方が、マシってね」
行く手に拓けた場所が見える。そこに向かって走ると、拓けたことは拓けたけど、目の前に崖が
息を整えてから振り返り、
さぁ、ゴブちゃんズ、犯られるくらいなら死ぬまで戦ってあげるから覚悟なさい!
アタシが悲壮な覚悟を決めたその時だった。
「そこの二人! 手助けが必要か?」
正に天啓。アタシ、神様信じてないけど、今日から一応祈っとこうかしら。
◇◇シア◇◇
アキラの指示に従って、私はある世界にやってきた。
ここは全ての世界から同じ距離にある場所。
世界としては広くない。少し飛べば、世界の境界に達してしまう。
その世界に、一軒だけの宿屋がある。
"微風亭"という看板が掲げかれている宿屋。ここが非常時の集合場所だ。
前にアキラに聞いたら、あの看板は"そよかぜてい"と読むと教えてもらった。
「こんにちは、大将さん。お久しぶり、です」
「やぁ、シアさん、久しぶり。一人なんて珍しいね。旦那は?」
ここの大将さんは、私の見掛けが幼くても"ちゃん"付けで呼ばないし、アキラと私は夫婦だと扱ってくれる。だから、居心地がよくて好き。
ちなみに、"大将さん"と呼んでるのは、アキラがそう言ってたから。
「アキラは、"アイツ"の残した"オマケ"の処理。なので、ここで待たせて欲しい」
「あぁ、いいとも。部屋の準備をしてくるから、少し食堂で待っててくれるかな?」
「うん、分かった」
言われた通りに食堂に向かう。カウンター席に座ると、何も言ってないのに、目の前に飲み物が置かれた。
「シアさん、久しぶりね。元気そうで何よりだわ。あ、これ、私からのサービスよ。バナナジュース、好きだったわよね?」
カウンターから顔を出したのは、マスターの奥さん。アキラは"女将さん"と呼んでた。
「はい、大好きです。ありがとう、ございます、女将さん」
「あらあら、相変わらす礼儀正しい
「アキラは、"アイツ"の、置いていった、"オマケ"の、後処理中、です」
「なるほどぉ、それなら確かに、ここで待ってるのが一番ね。ゆっくりしていってちょうだいね」
おかみさんは、私の頭をわしゃわしゃと撫でると、厨房の奥に入っていった。
ちゅるちゅるちゅるちゅる
バナナジュース、おいしい。
ジュースを飲みながら、改めて食堂を見回してみる。
何十人も入れる食堂だけど、今は私と、男女のカップルが一組、男一人に女が三人のグループが一組しかいない。ご飯の時間じゃないからかな?
しばらくすると、4人グループの方が席を立ち、外へと出ていった。
しばらくして、バナナジュースを飲み終わったのとちょうど同じタイミングで、マスターが戻ってきた。
「ほい、シアさん、部屋の用意出来たよ。これカギね」
ちゃりん、と部屋番号の書かれた木札の付いたカギが私の手元に置かれた。
「ありがとう、ございます、大将さん。女将さん、ごちそうさま、でした。おいしかったです」
「仕事の後だ。ゆっくり休むといい。あいつの事だから、お前さんを休ませる為に、二日くらいは連絡寄越さないんじゃないか?」
「そうだねぇ。アキラくんはそういう気が回る子だから、そうかもしれないね。あ、食事の時間はいつも通りだから、食べにおいで」
「ありがとう、ございます。それでは、休ませて、もらいますね」
カギを受け取り、二人に礼を告げて立ち上がる。ふと、ある事を思い出したので聞いてみる。
「大将さん、女将さん、最近、"あの人"、見ました? 少し、用事、あります」
私がそう尋ねると、マスターとおかみさんは顔を見合わせた。
「さっきまで向こうに座ってたけど、気付かなかった? いつものあの
「え……?」
さっき出ていった人たちだ!後を追わないと!
「私、探しに、行って、きます!!」
私は微風亭を飛び出して、駐機場へと向かった。後ろから、「あぁ、おい、待てって!」とマスターの声がしていたけれど、気にせずに走る。
"あの人"にお願いして、アキラと同じ身体にしてもらって、もっとアキラと夫婦らしい事をいっぱいするんだ!!
私はそれしか頭になかった。
MISSION "あの人を捜せ" START
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