第3話 帰省

道、道、道いくら歩いても道は続く


四時間も歩いている経丸はご飯をお預けされている犬くらい不機嫌そうに


「士郎、まだ着かないの?」


 士郎はイラっとしながら


「着くわけないじゃん、城から二十キロくらいあるんだから」


「まだかぁ、きついなぁ」


「勝手に付いて来たんだから文句言うな」


「何よ、その言い方!私文句言ってないじゃん」


「おい、疲れるから喧嘩はよそうぜ」


「士郎が喧嘩の原因作ったんでしょ」


「いいや、経丸が不機嫌そうにそれがしに聞いてきたのが原因だ」


「そりゃこんなに歩いてもまだ着かないのかと思ったから」


「経丸昔、南妙寺で修行してたんだからわかるでしょ城からの距離くらい」


「十年も昔だからこんな遠いこと忘れちゃったよ」


「じゃあ、忘れた経丸が悪い」


「士郎ってホント最低!」




 話は少し前にさかのぼる。


 士郎と経丸は城を出る準備をして片倉に


「片倉さん、今から出かけて来ます」


「どこへ行くのですか殿?」


「士郎の喘息の薬を一緒に取りに行きます」


「おっ、なるほどいいですね。二人っきりならデートですね」


経丸は慌てて顔を真っ赤にしながら


「デートじゃありません。士郎一人じゃ心配だから付き添うだけです」


士郎は頭を掻きながら


「まぁ、付き添いなんかいらないんだけどどうしても付いていくって言って聞かないから連れていってあげるんだよ」


「人の好意に対してろくなこと言わない士郎って、ホント最低‼」


片倉はあきれながら


「もう二人とも素直になればいいのに」


 士郎と経丸は声を揃えて


「何が!」「何がですか!」


「別に何でもありません」


そう言って片倉はそそくさとその場を退散した。


 そして現在に至るのである。


 経丸は水筒に口を当てて水を飲もうとしたが


 あっ、こんな歩くと思ってなかったから水


飲み切っちゃてたよどうしよう喉乾いたのに


士郎は経丸が水筒に口をつけたのに困った表情をしてるのを見て


「経丸、それがしのでよければやるよ」


 士郎は自分の水筒を経丸に差し出した。


「えっ、でも士郎が困るじゃん」


「さっきの喧嘩それがしが悪かったから罪滅ぼし」


「士郎、私もさっき悪かった」


二人は仲直りをし仲良く喋りながらしばらく歩いていると経丸がいきなり立ち止まり


「ああ‼ここ見覚えあるあーあ‼ここだ‼」


「思い出した?経丸。もうすぐ着くよ」


「ねぇねぇ、士郎ここから走ってもいい?」


「えっ、なんで走るの?」


「なんか走りたい気分だから」


「しかたねぇなぁここからなら距離も近いし南妙寺まで走るか」


 そう言って士郎と経丸は仲良く山道を走り出した。


走り出して五分くらいすると二人の前に門が現れた。


 経丸は門の前に立ち止まり


「あっ、懐かしい」


「経丸、懐かしがってないで早く中入ろうぜ」


「まったく人が感傷に浸っているのに」


 寺の入口にの湖の上から滴か落ちて綺麗な


 波紋が広がっているような砂紋を経丸は見て


「あっ、懐かしいここで士郎が砂遊びしてめちゃくちゃおばさんに怒られてたよね」


「経丸、余計な事思い出すなさっさと行くぞ」


「行くってどこに兄貴?」


「シロピロ?」


士郎は振り向くと顔も背も全てのパーツが小さい黒髪ショートの女の子が


「兄貴、今までどこに行ってたの?」


「うわぁー!凜‼」


 士郎はビックリして尻餅をついた。


「どうも、士郎の妹凜です。初めまして」


経丸は目の前に隕石が落ちたかのように驚いた顔で


「えっ凜ちゃん‼久しぶり‼」


 凜は小鳥のさえずりみたいな小さな声で


「えっ?もしかして経丸様ですか?」


経丸は初対面の相手が地元一緒だった時みたいな興奮の仕方で


「そう、経丸」


 経丸は興奮のあまり凜に抱き着いた。


「凜ちゃん大きくなって元気してた?」


「はい、おかげさまで」


 士郎は死んだ魚のような目で二人を見ながら


「おかげさまって別に経丸にはなんも世話になっ


てないじゃん」


 凜は慌てて士郎の頭を掴み激しく上下させ


「すみません、兄貴は教養がないので無礼を


 働いてしまいすみません」


 経丸は天使のような顔で凜に優しく微笑み


「大丈夫よ、これいつものことだから」


「士郎はいつもこのような無礼な事をしているのですか、本当にすみません」


 凜は深く頭を下げた。


 経丸は士郎を冷ややかな目で睨みながら


「いや、凜ちゃんが気にする事じゃないよ」


 士郎はなぜか得意げに


「そうだ、こんな事気にする必要なんかないんだ」


 凜は呆れた感じで士郎を睨みつけて大きく


 ため息をついた。


「あっそうだ、お母さんに士郎が帰って来た事言わないと」


「いや、凜言わなくていい」


 凜は士郎の言葉を聞かずに走って寺の中に入って行った。


 凜がしばらくしてたか子を連れて戻って来た。


たか子は「士郎‼」と叫びながら走って来


て右手を思いっきり振りかぶり士郎の頬を大きく広げた手のひらでジャストミートさせて静けさを切り裂くような衝撃的な音を


させた。


「いってぇー何すんだよ」


「今までどこほっつき歩いてたの心配かけて」


「それは悪かったけど、ビンタする事ないだろ」


「あんたが悪い、だから文句言わない」


「たか子めっちゃ、理不尽」


経丸と凜は志摩子の迫力に震えている。


「はい、私に渡すものあるでしょ」


「渡すもの?」


「あんた、こんなにほっつき歩いててお土産の一つもないの?」


士郎は真顔で


「ないよ」


「じゃあさっきのビンタこれでチャラね」


「ヤバっ、めっちゃ理不尽」


 凜は母親に震える声で


「お母さん、経丸様が来てるんだよ」


 たか子は慌てて優しい表情に変わり


「経丸様、遠いところからわざわざ来て下さって」


 怖がる経丸の横で士郎が


「たか子、今の経丸全部見てたよ」


 たか子は再び慌てて


「経丸様お見苦しいところをお見せして申し訳ございません」


 経丸は顔を引きつらせながら震えた声で


「いえ、大丈夫です」


「この前の戦の勝利おめでとうございます」


「ありがとうございます。おかげさまでなんとか都賀に嫁がないですみました」


「士郎も経丸様以上に凄く喜んでいると思いますよねぇ士郎」


「余計な事言うな!たか子」


「えっ、私以上に喜んでいるってどういうこと?」


「何でもねぇよ」


「ねぇ、教えてよ」


 士郎は顔を真っ赤にしながら


「あーうるさい、うるさい」


 士郎は走ってその場を逃げ出したのであった。

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