第5話 クズ男はためらわない
依頼人・舞華とその彼氏・純が座るベンチの裏側……花壇に腰掛けていたストーキング助手たる孝幸は、ため息をついた。
花壇の草花とベンチの背もたれを挟んで背中を合わせている、舞華と男の会話を思い返して、孝之はため息をもう一度、つく。もちろん、音を立てないように。
袖に忍ばせたスマホを一応、花壇の草花の隙間を狙って舞華と男の方に向けて動画を撮っているからだ。
(あ~分ッかりやすい、クズ男の見本だな。いっそ動画をアレだ、小中学校にでも売り込みたいねー思春期女子には立派な教材になるって、コレ)
舞華と男は、次のデート場所について話始めている。
(男をとりあえず殴ってスッキリして、全部忘れたいトコだが……そうもいかねぇー俺は今は、あの人形師の助手なわけだからな~)
とはいえ、このまま張り込み続けているのもしんどい。
どうしようかと思い始めたところで、男のじゃーねーという声が聞こえた。かすかに微かに背後を振り返ると、ベンチを立った男が手を挙げて、歩いていくのが見えた。
(あのクソ彼氏、浮気って言ってたよな……なら)
舞華の言葉が本当かどうか確かめようと、孝幸は尾行相手を男に切り替えた。
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舞華に金を借りて別れた後、人形師・助手に言わせればクソ彼氏の
ざっと店内を見回す。並んでいるテーブル席に、目的の人物を見つけた。
(あー居た居た……ちょっとは怒ってるかな)
思いながら、純は店員に待ち合わせであることを目線と指さしで示し、女の待っていた席に歩く。
(舞華から借りた金で大体のトコで遊べる……その後で、彼女の家まで行けるかどうか)
自分が思ったことに、純自身、クズだとも感じていた。
脳裏に浮かぶのは、舞華の顔。
舞華は初めての彼女だった。彼女のお陰で自分は容姿に恵まれているらしいと、遅ればせながら、確信できた。恵まれているのならば、使える内に使い倒すべきだとも。
で、本当に遊び倒してみると、いつしか、舞華への罪悪感は薄れていった。
きっと金を借りることを……実際には貰ってしまうわけだが……を覚えて生活が楽になったからだろう。舞華以外にもそうした女を増やして、今は貯金さえ出来てしまっている。将来、就活なんてしなくても良いのかもしれない。
そうして更に確信したのは、クズは楽しいということだ。
(ま、楽しく迷わず、クズろうっと)
女の正面の席に座る前に、
「この席、空いてますか?」
とか、しょうもないことを言っておく。
内容は何でも良いのだ。
恵まれているらしい自身の顔で、
「うん、キミの予約席だよ」
だいたいの女は笑ってくれる……少し馬鹿らしいくらいに。でも見た目がモノを言う恋愛なんて、そもそも馬鹿らしいのだろう。
そんなことを思ってしまうことが、何故だか、悲しかった。
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