第53話
あれは……
「シーキーか」
「えっ……!?」
「シーキー!」
「うそ、ちょっ、し、シーキーちゃーん!!」
駆け寄る俺たちに、シーキーは答えない。
抱き起こしてみると――よかった、息はあるようだ。
頬や衣服に赤い血がついているが、シーキー自身に目立った外傷はない。まわりのモンスターの血なのだろう。
「シーキーが倒したのか? すごいな、やるじゃないか」
「いえお師匠さま、さすがにそれは……F組ですし」
「俺もそうだぞ?」
「ですからお師匠さまあ」
「シーキー、おいシーキー。……ダメだな、目を覚まさな――」
ガガンンン!!
間近で轟音が響き渡り、俺は顔を上げた。
石の台座――雨ざらしの神殿とでもいうか、まるで用途の思いつかないそれの端に、男が吹き飛んできた。
どうにか足を踏ん張って、ぎりぎり落ちずに耐えきっている。
髪の長い、特徴的な後ろ姿。
銀色の
あれは。
「ファズマ!」
彼は振り返るそぶりすら見せなかった。
しかし、俺の声はちゃんと届いているらしい。
「おお……! その声は、おまえか! レジードか!」
「ああ。そこで何をしてる? ここはいったい何だ?」
「おれ様の知識を炸裂させて教えてやりたいところだが、今は取り込み中でな! そこに転がってるバカを拾って逃げてくれんか!」
「逃げる? ファズマ――」
ファズマの槍となにかがぶつかった。
風を切る音と打撃音、加えてファズマの、決して耳に心地よくはないうめきも。
俺は石段を駆けあがった。
台座の上に跳び上がると――思ったより、ずっと広い。
四隅に巨大な石柱が配置され、屋根さえあれば本当に神殿のようだ。
しかし。
「やはりか……魔族!」
ファズマが槍を手に、必死で立ち回っている相手。
バケモノだ。
巨大なヒキガエルのような体に、何本もの長い触手が生えている。頭があるべきだろう場所からは、人型の上半身だけが突き出ていた。
うぎゃ、と背後でパルルがうめいた。
「き、キッショいですう……! 素直にイヤですう!」
「同感だな」
「でも、お師匠さま! あの魔族、これまであしらってきたやつらとは、ぜんぜん!」
「ああ。俺にでもわかる、ケタ違いだな。この台座の上の空気にまで、重い力が満ちている」
「まわりの魔力濃度を高めてしまうほどの……! これだけでも人間にはキツいはずですう! あのファズマとかいうあんぽんたん、だいじょぶですかあ!?」
「俺の心配はしてくれないのか」
「する意味ないですう!」
なぜだ。俺も今ちょっと息苦しいぞ。
「ファズマ!」
「気持ちだけ受け取っておくありがとう、早く逃げろ!」
「話の早さには感心するが、この状況のファズマをほうっておけると思うか」
「見てわからんのか!? このウネウネガエルはもう、魔族のレベルじゃない! ほとんど魔王だ!」
「魔王……!?」
「ああ! 王国の把握している情報にはなかったはずだがな、こんなうっとうしい見た目のヤツは!」
ファズマが槍を腰だめにかまえた。
正面にとらえた魔王に、突き出しながら叫ぶ。
「<スティングシールド>!!」
巨大な盾のかたちに出現した光が、魔王に向かって突進した。
激突する寸前、盾から無数の光の槍が伸び、魔王の力とせめぎあう――攻撃と防御を兼ねる技か。初めて見た。
さすがAクラス槍兵だが、しかしファズマは肩で息をしていた。
よく見ると、装備がどれもぼろぼろだ。
体のほうまで、相当なダメージが通っているに違いない。
こうまでなっているのに……なぜ、ファズマは踏みとどまっているんだ?
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