第5話 マリアの本性(※マリア視点)
私は生まれた時からこの家のお姫様だった。
私が欲しいと言えばお父様はなんでも買ってくださったし、私が笑えば使用人は天使のように愛らしいと褒めてくれた。
お姉様が厳しく教育をされているというのは、すぐに分かった。それは私には必要のない事だというのも。だって、私は教育なんてされなくても他の人に愛されているのだから。
お母様とお姉様も私に優しかった。だけど、お母様は時々悲しそうな顔をするし、お姉様は笑うのが下手で、一緒にいると気分が悪くなるから近付かなかった。
結果的にお姉様の邪魔をしないいい子と言われたし、お母様の悲しい顔の理由は分からなかったけれど、特に虐められたりはしなかったから時々媚を売っておいた。天使のように笑えば、お母様だって笑い返さざるをえないんですもの。大人ってチョロいのね、と思っていた。
少し大きくなると、姉が時々どこかへめかしこんて出かけている事に気付くようになった。悔しいけど、めかしこんでいる時のお姉様は本当に綺麗。私は可愛いけれど、姉は綺麗、そんな違い。
姉がどこに行ってるのかを使用人に聞いてみると、まだ正式では無いのですが、と前置きして婚約者であるモーガン・イグレット公爵子息様とパーティーやお茶会に出ているのだという。
「えっ! そんなのマリア聞いてないよ!」
あっと、いけない。気を抜くと自分のことをマリアと言ってしまう幼い癖が抜けないのだ。
でも、公爵子息様と婚約するなんて……。
私は婚約者がいないのに。お姫様なのに。この家で一番愛されているのはお母様でもお姉様でもなく私じゃなきゃいけないのに!
しかも、公爵子息? 冗談でしょう、そんなの私が結婚するのは王族しか認められないわ。お姉様よりいい物を、いつだって私は持っていなきゃいけないの。これからも、この先もよ。
でも、私は伯爵家の子として婿をとらなきゃいけない、だからお父様は私の事を溺愛してくれているのくらいは分かるのよ。お姉様みたいに教育を受けてなくてもね。
王族の男子が伯爵家に降家する? 馬鹿馬鹿しい、そんなのあり得ないじゃない。
私が社交界デビューすれば、それなりの、家柄の釣り合った男性から婚約が殺到するのは分かってる。私は可愛いからね。それに、公爵家と繋がりのある伯爵家なんて優良な条件に飛びつかない人は居ないわ。
だから私は社交界デビューしなかった。そして、モーガン様とあいまみえる日をじりじりと待ったの。
モーガン様は見た目はまぁまぁ、性格は優しくて……純朴だった。私の笑顔にコロッと騙されて、姉よりも私を見ていたのを覚えている。
その日から母は具合が悪くなった。病気が移るのが嫌だからお見舞いなんて行かなかったし、母に構い付けるこの家の空気も気に入らなかった。でも、引き篭もっていれば皆私を見てくれるのだ、という事は学んだ。
お母様が亡くなって……3ヶ月も顔を合わせなかった私はお母様への情なんて無かった。もともと無かったのかもしれない。私を見て手放しで褒めてくれる人以外、私は興味を持てないみたいだわ。
部屋に篭るようになった。いえ、した。屋敷の中は部屋以外はお通夜状態で、お父様とお姉様が仕事をして、私を褒めそやすような空気は無かったから。
そんな中、モーガン様が訪ねてくださるようになったので、これはいい機会だと思った。あまり好きになれなかったお母様だけど、この事には感謝しないとね。
「実は……お姉様に虐められて……、お母様が亡くなったのは私のせいだ、なんて八つ当たりが酷くて……、お姉様もショックなんだと思います。いつにもまして表情が硬いのですもの……。だから、私は部屋に篭る事にしました……晩餐も、一人でここで……モーガン様は当たられたりしていませんか?」
モーガン様はそれはショックを受けた顔をされていたわ。少し脚色したけれど、嘘は言ってないもの。そう、ほんの少し脚色はしたけれどね。
八つ当たりなんてされていないし、顔を合わせるたびに悲しげな顔でお姉様は私を気遣ってくれている。部屋に篭ることにしたのは私の意思で間違ってないし、晩餐も部屋で一人、豪華な物を食べているわ。お父様もお姉様も、お母様の喪が明けるまでは質素な物ばかり食べているけれどね。あんな料理に付き合ってられないもの。
「ジュリアがそんな……、いや、きっとまだショックなんだろう。マリアがまた屋敷の中を自由に歩けるようになるまで、私がお見舞いに来よう。お土産は何がいい?」
そう言ってモーガン様は、お姉様へのお見舞いと称して私の部屋へ贈り物と一緒に足繁く通ってくださるようになったわ。
このままいけば……モーガン様は私のもの。お姉様、ごめんなさい。お姉様よりいい物を持ってないと、私、我慢がならないの。
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