1-3 枢密/67A2 5BC6
数少ないイヨを捉えた写真は、その
さて庭園に佇む目の前の少女は
「少しは休めているか?」
日誌の備考は続く。その声にハッと見返る、まだ引かぬ眉は反応を示すかのように跳ね上がり、大きな目は純黒の瞳を輝かせるようにささやかに見開かれ、小さく艶やかな薄紅の素唇を湛えた口も
「あ…… いえ、そちらこそ大丈夫なのですか」
「正直に述べれば、危険だったかもしれないな。こうして互いに無事なのは、お前さんの出自に
「……!」
己が身を守るために、命をかけた。その推測に確信を得たイヨの顔には、明確に驚愕が駆け回る。そうまでさせた自分の出自を少し恨むとともに、彼を救ったであろうそれに感謝と、なにより安堵の念が訪れる。
「……そんな。申し訳ない…… もしかしてわたしを追い救うために?」
「まさか。救った後に聞いただけで、
「そんなことはありません、きっと皇神の思し召しです…… きっと
「フン、実際な」
達観したかのような微笑みを浮かべた、この自然で虚無的な返しに、思わず首を
「お前さんの情報は教わったよ。身辺警護と保全を確保しだい、本国に送還する盟約の見返りに。……同時に開示させてくれない情報も多かったがな」
「……」
「元服と同時に宮に仕え、巫女としての訓練を受ける…… 巫女とは、高天原天網に接続し処理機関総体の人格の託宣を請い、時に各地の巫女と同時接続し議を論じ、国の運営を担う。いわば神の端末、可換機構だ。
お前さんは着任間もないが、儀礼に
「…………」
「物理的にも電子的にも秘匿性を
「機密……? 覚えがないわ」
「温室育ちのお嬢に想像がつかなくとも、神のお言葉なら欲しがる奴なんざいくらでもいるだろう。それが現世に影響をあた……」
「お言葉ですが!!」
張り上げたその声にケナは驚いていた。
「……いくら恩人といえども、境遇を
「やはり気にしているのか」
真顔でそう返され、こみ上げた反感が
「……いや、失礼。不必要な事項だった」
「本当に覚えがない…… となるとそれを証明するのも、それを聞き出すのも、わたしの記憶を解析し引き出す他ないわ。何しろわたしにも閲覧できない記憶だもの」
「必要ない。墓場まで持っていけないものをこれ以上増やす気にはなれなくてな」
「……? 持っていくものではなくて?」
「お前さんと同じだよ。自分の所有物にならないものなら意味がない。なにより俺は百禽国とは関わりのない出自なんだ」
「温室育ちには見えないけれど、なぜ?」
「色々と複雑でな。生まれてこのかた研究機関と縁が切れたことがない」
「本当にそうは見えないけれど…… でもそんなあなたならば開示してもいいかもしれない。後必要なのは、ヒムカさまの承認証明となる鍵のみ」
「断るが、なぜそうやすやすと自分の記憶を売れる」
「縁を感じるからよ。神が結びたもうた、相互的に謎を解くための繋がりを」
「…………理解できないし、別段欲しいものでもない。俺が欲しいのは、なぜそれを欲しがるのか、それを欲しがる人間が誰なのかの理由だ。それだけ知れれば機密になぞ用はない」
「確かに後者はこの取引で解明できないね……」
「立ち話が長くなったが、なぜお前さんが狙われたかの説明はした。休息できる今不安を煽りたくはないが、百禽の宮から連れ去られた一方奴らはこの国でも神々の目を欺いていた。靑鰉も安全ではない可能性がある。最低限の家探しをした後、俺の保護下に置いて狗奴への亡命措置を採る」
「わかった。よろしくお願いします」
「……なあ」
「へ?」
そうしてかなり神妙な顔で、わたしを直視する褐色の瞳は、純粋な興味の色を注いでいた。
「育ちがいいのは理解できるが、話が大人びすぎだ。お前本当に十一か?」
初めて知った。どうやら十一歳はこんなに賢くないらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます