第103話 慟哭
「たった一人の軍人に……」
アーサーからすれば、自慢のオートマトンが仙人でも功夫遣いでもない
そして、クロウリーや兵の撤退まで時間を稼がされた挙句、
「オートマトンが弱い……?」
ズーハンを除くオートマトンはすべて撃退されてしまっている。アーサーは考えをめぐらすのだが、その答えは妲己からもたらされた。
「オートマトンと戦って思い知ったことがある。経験の圧倒的な差だ」
「経験……ね」
理解はしている。実は
とはいえ厄介なことに学習のために生存しなければならなければ意味がないという致命的な欠点を孕んでおり、それらを共有するためのネットワーク化まではできていない。
「だが、今のズーハンの動きの鈍さは説明がつかないぞ……!?」
ズーハンの動きは鈍い。支配下に置かれてしまっているとはいえ、アーサーのいう通り戦闘経験はかなりあり、博相手に後れを取るとは思えない。
「それは、たぶん!」
メイズがオートマトンの腹に拳を埋めつつ叫ぶ。
「意に沿わないことをされているからですよ!」
「……チッ」
アーサーは舌打ち。こうなるとアーサーも反論できなかった。ズーハンはオートマトンの枠を超えた存在であり、その支配に抵抗しているのだと。
――妲己の提案を受けるべきじゃなかったのか……?
瀕死の娘の脳をオートマトンの人工脳として移植するというアーサーでも考えつかなかった提案だったが、成功したもののそれがアーサーの首を絞めることになった。
しかし――
「妲己、大丈夫!?」
「!」
ズーハンの瞳に火が灯る。しかしそれは――。
「京……ッ!」
凄まじい技の猛攻だった。魂が抜けていたような先ほどとは違い、それは燃え盛る炎を思わせる。
「ッ!」
「ズーハンッ!?」
妲己が驚愕に固まる。ここまでの猛攻は見たことがなかった。
「どうして……!?」
ズーハンの極陰の功夫が京に炸裂する。生命力に作用する陰の《氣》であるから触れただけで生命力を奪う。
冷静さを欠いたその執拗な攻撃は今までのズーハンとは思えないものだった。
「へェ……」
ズーハンがあらぶっている様子を見てアーサーは含み笑い。
支配には抵抗しているが、アーサーの仕掛けた策は意外なところで成功していたのだ。
「私はあなたと違って妲己様から奥義を教えてもらってないッ!」
ズーハンは技の名前を叫ぶことも忘れて京を執拗に狙う。
「待って何の話!? そもそも教えてもらってなんかいない!」
京からすれば寝耳に水でしかない。奥義を誰かに教えてもらったわけではなく、太公望と対峙した時、半ば無理やり
しかし、ズーハンは耳を貸さない。いや、そんな余裕がない。
「私は別に人形でも構わなかった! 生きてたって病気じゃ口減らしのために捨てられる。こんな私に生きる意味を下さった」
「ズーハン、まさか記憶が……!?」
ズーハンが語るのはまだ病弱な少女だった時の記憶に違いないと妲己は確信する。
「つらい過去を背負う私を気遣って記憶を消してくださったのも思い出しました。でも……でも……」
ズーハンの目から、おそらく自身の血液としている銀の水なのかもしれないが、流れている。
「あの
これは、ズーハンの慟哭だった。それが森の中に響き渡る。
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