第96話 意外な加勢

「最上位の天使とはいえ、殺しの罪悪感に苛まされている奴が実力を出し切れるかな?」

「ちッ……」

 ソロネは舌打ち、柄ではないのだが、どうにもアーサーという女の言葉はいちいち癪に触ると感じさせた。

「はァッ!」

「くッ!」

 銃に取り付けた近接武器による斬撃だ。ソロネは距離を取るが、それもアーサーの狙いだった。

「死ね!」

 銃のトリガーを引き、ソロネに向けて撃った。

「ふん、鉛の弾で殺せると思ったか」

 ソロネは掠めただけだと鼻で笑う。天使もまた《霊》と同じ霊的存在だからであり、電気的な性質を持たない鉛の銃弾では当然殺せないのだが――。

「う……ッ」

 ソロネが急にもだえ苦しみ始め、その場に倒れた。

「ソロネッ! 何をしたのです!?」

 クロウリーの悲痛な叫び、そしてアーサーに銃口を向ける。

「霊的存在を殺せる銃がいくつかあってね。《黒き銃》には遠く及ばないが、霊的存在の実体を保てなくさせる改良を施してある」

「このまま消されるか――ッ!」

 ソロネは背の車輪を回転させ魔力を高めると、剣から炎がほとばしった。

「むッ! ふむ……、なるほどね」

 ソロネの煉獄の炎がアーサーを包む。しばらく燃えたのだが、恐ろしい事に無傷だった。

 その白衣も燃えた様子もない。


「燃やし尽くせなかったようだな。やはり、殺すことへの罪悪感が邪魔をしたか?」

 

「バカな……」

 ソロネは炎で殺せなかったことに愕然とさせられた。白衣も体も傷ついている様子がない。

 そして、絶望してソロネはこの世界から消え去った。命が尽きた訳ではないが、敗北には違いない。

「言っただろう? エリクシル《銀の水》を飲んでいるし、肉体改造も施していると」

 アーサーは消えたソロネをせせら笑う。そして、愕然としているクロウリーとブレットに顔を向け。

「さて、僕に銃を向けた罰として死んでもらおうか」

 アーサーは歪な笑みを浮かべ銃口をクロウリーとブレットに向けるのだが。


「撃ち方、始め。一斉射!」


 渋さを感じさせる男の声が聞こえて来た。それと同時に凄まじい銃声が響く。

「ヤンか?」

「いいえ」

 銃弾を避けたアーサーがいぶかしんだが、声の主はいいえと首を横に振り、

「初めまして、ブオといいます。あなたが再定義派首魁のアーサーですね」

 声の主は、軍帽を被った精悍な男――博で、この参謀はアーサーの超人的な身体能力を見ても余裕の笑みを湛えていた。 

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