第87話  将軍VS魔術師

 ヤン将軍旗下の本隊は順調に歩を進めているのだがが、進軍速度を遅らせているのはやはり森に立ち込める霧だった。


「絡繰兵に後れは取らぬッ!」


 絡繰兵はいくつか撃破できたものの、主力であろう魔術師メイガス所属の


「敵襲ッ!?」

 慌てた姜治が怒鳴る。

 博のアドバイス通り、必要以上に周囲に気を配れという助言は当たっていた。

「……」

 現われた魔術師メイガス所属の偵察兵スカウトはヤンたちの様に叫ぶことなく、手に持つナイフで的確に狙ってくる。

 森林迷彩をまとう偵察兵の動きはまるで暗殺者のようだ

「ッ!」

 姜治が偃月刀を振るう。三国志の名将である関羽に憧れて振るっているらしい。

 銃は携帯しているが、この霧での射撃は難しいのもあるが。

「美髭公よ、あなたの力をお貸ください!」

 関羽の異名を叫び、ふたたび振るう。

「ぐッ!」

 偵察兵もさすがに斬られてしまっては引かざるを得ない。

 だが、魔術師側もただやられているわけではない。

「ぐうッ!」

 隣にいる同僚の兵士の身体が跳ね上がったのだ。もんどりうって倒れる。

 幸い死は避けられようだが、重症なのは間違いない。

「衛生兵ッ!」

 もう一人の兵士が救援を求める。

「あれが西洋の狙撃手スナイパーなのか! まるで仙術ではないか……ッ!」

 姜治が驚愕に固まる。

 博によれば魔術師たちは超古代文明の遺跡から出土した兵器を使用しているのだが、実のところ仙人の宝貝やフェイの使用している超兵器などではない。

「行け! 行け!」

 彼らが手に持つのは現代で見られるような重火器、ナイフなどの近接武器であり、魔術はあくまで補助的なものにすぎない。

 当然、詠唱が長い魔術は敵に壊滅的な損害を与えられるが、詠唱中は当然ながら隙ができる。

 詠唱を必要としない魔術を用いられるようになるのは必然だったのだ。


 一方遺跡より少し離れた魔術師の本陣では――。

「よし、そのままヤン将軍の部隊を包囲、降伏を迫る」

 ベレー帽を被った男が手に持つ機械――通信機ごしに話しかける。どうやら遠隔地にいる人間と話ができるようだ。

 クロウリーの代わりに狙撃兵、偵察兵を直接指揮している男に違いなかった。

「流石ですね。ブレット」

 クロウリーが男――ブレットに近づく。修道服ではなく、迷彩服なのは戦うつもりがあるからだろうか。

「いえ、日々の訓練の賜物です。しかし、召喚術を発動されているのに……」

 敬礼を返すが、クロウリーが前線に出ていることを気にした。太公望の言う通り維持には大量の氣を必要とする。

 前線に出るのは

「いえ、部下や召喚した者たちが皆、戦っているというのに。私だけ安全地帯でのうのうとしているわけには参りませんから」

「……なるほど。しかし、指揮官であるクロウリー殿がみだりに出ては……」

 クロウリーの決意が窺える言葉にブレットは頭を抱えさせられる。ただ批難しているわけではなく、責任感があまりにも強すぎるのだと。


「わかっています。……今回の戦いは異能者の撃退ではなく、生存戦争ですから」


 クロウリーの言葉は穏やかだが、悲壮感に満ちていた。

 異端審問のひとつ魔術師メイガスは元は異能を悪用する異能者を裁くために設立されたものだが、教会の異能者排除の機運が高まり国を追われる羽目になった。

 クロウリーを含め魔術師たちはほとんどは異能者であり迫害されてきた側であり、アーサーの話に乗ったのは、安住の地の確保のためだ。

「……」

 沈黙が辺りを包むのだが、長くは続かない。

「報告、ヤンが包囲を突破!」

 狙撃兵からの通信だった。ヤンが包囲を突破したらしい。

「なるほど、常識が通じない兵士たちというわけか」

 ブレットが息を吐き出し、狙撃銃を構える。古代遺跡から出土したハンティングライフルだ。

 無論ただ使っているわけではない。技術水準が現代からかけ離れているわけではないため習熟に時間が掛からない。

「よし」

「貸してください」

 ブレットが通信機で指示を出そうとしたのだが、クロウリーが指示を出すと頼み。

「狙撃隊は的確に動き、敵に位置を悟らせないよう、動いてください。この戦いに……勝利を――ッ!」

 これはただの声ではない、魔術師でもあり聖女でもあるクロウリーの声は魔術的な要素を含み、聞いたものを奮起させる効力がある。


「我々は負けるわけには参りません。いざ!」

 

 これが、反撃開始となる。

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