第83話 魔術師《メイガス》、そして再定義《ディファイン》

 一方、不帰の森にある古代遺跡を攻める策を練るためフェイたち軍部は周辺地図を睨んでいた。

「濃霧をどうにかしないことにはこの状況を打破できないか……」

 厄介なのはやはり辺りを漂う原因不明の濃霧だ。先だって偵察兵スカウトを派遣するも濃霧と伏兵により撤退せざるを得なかった。

「フェイ。太公望殿や妲己は濃霧が発生した原因を知ってるのでは?」

 陣が友でもあるフェイに提案をするのだが、フェイは首を横に振り、

「無論、そうしてみたが、まったくわからないらしい。ただ、派遣した偵察兵が気になることを言っていた」

「気になる事とは?」

 陣が鸚鵡返しに訊ねる。

「不帰の森の南に強すぎる火と水の《氣》を感じると言っていた。そこに鍵があるかもしれない」

 偵察兵は功夫遣いでもあったようで、《氣》を感じ取っていたようだ。

「なるほど……。ならば強い《氣》のあるところに精鋭である我々が向かうべきですな」

 強い《氣》のある個所は何かしら厄介な事象が起こっていると陣は提案した。

「ああ、あとは兵站を潰せれば言う事はないが。あの古代遺跡は食料の生産施設まで備えている。補給路を断つのは至難の技だ」

 これは妲己から太公望経由で聞いた話だ。古代遺跡は治療施設や生産施設があるという。錬金術師アルケミストが独自の技術で改良したのだと思われた。

「あとはシロアリ共に協力している軍関係者がどのような連中か、ですな」

 陣がそういった時だ。

「失礼いたします、陛下」

厳めしい顔をし、西洋の軍帽を被る軍人が部屋に入ってきた。

ブォ参謀!」

 陣が立ち上がり博に敬礼をする。軍人――博は敬礼を返し、席に座った。

 博――この厳めしい軍人は先帝の時代から参謀として仕えており、いちはやく西洋の戦術を取り入れた。

 先見性と冷酷さを持ち合わせており、当時は一介の兵士だったフェイの持つ才覚に気づいた男だ。陣と同じくフェイの忠臣の一人でもある。

「フェイ陛下、シロアリ共に協力している軍関係者と、錬金術師アルケミスト再定義派ディファイン・ファクションについて報告します」

「再定義派? それは一体……」

 フェイが首を傾げる。どうやら錬金術師は一枚岩ではなかったらしい。

「はい。実はさきほど古代遺跡から逃げおおせた錬金術師の一員を捕らえ、情報を得る事に成功いたしました」

「参謀。捕虜に対して拷問はしなかっただろうな?」

 フェイが博を睨む。博は暗部にも通じており、手段をいとわない男でもある。フェイは良くも悪くも先帝の思想を一部を受け継いでいる、拷問など許容できない。

「必要もありませんでした。キョンシーを用いるなど首謀者のやり方に疑問を持った様子でしたので」

「そうか。だが、できれば拷問は避けてくれ」

 博が拷問をするつもりであることを匂わせているのを感じ取り、フェイは頭を抱えさせられる。

 ――博は軍のために手を汚してくれてる、それは理解しているが。

 分かってはいるのだ、拷問は必要悪であることは。しかし、拷問をしなくてもいいよう変えなければならない。

「よし、まずその軍関係者の話から聞こう」

 しかし今はその時ではない、錬金術師を一掃しなければならないからだ。

「わかりました。彼らは魔術師メイガスという組織で、自国の古代遺跡から出土した兵器を用いて軍事力を強化していますが、統制が取れており、烏合の衆と侮ることは出来ません」

 超古代文明の遺跡があるのはこの国だけではないと博はいう。とはいえこれは不思議ではない、絡繰兵の事を見知っていたのだから。

「なるほど……厄介だな。それでシロアリ共の一派だという再定義派とは何だ?」

 ここも気になるところだとフェイは言った。

「再定義派は、文字通り。人類を再定義するための研究をしている一派なのだそうです」

「人類の再定義? それはどういう話だ」

 博の話にフェイも陣も胡散臭い顔をさせられる。


「今までの話を総合するに。再定義派は絡繰兵や我が国の仙術や医術を用い、新たな人類を造り出し、それになろうとしているのだと思われます」


 自らが新たな人類となる――それがアーサーや時の帝の狙いだと、そういったのだ。

「馬鹿な! 新たな人類を作り出すなどとなぜそんな真似を!」

 フェイは声を荒げ、机に拳を叩きつける。生命の倫理に反しているからだ。

「これは私の推測ではあるのですが、人に生まれた事を絶望しているゆえと思われます」

「参謀、それはどういう意味なのですか」

 まだ冷静さを保っていた陣が博に訊ねる。

「充実している人生を送られているみなさまにはわかり辛い話でしょうが。人は己の人生に絶望すると生まれ変わることを切望したくなるものです。それを叶えるためでしょう」

 この厳めしい参謀は心理学にも通じているようだった。拷問や相手の狙いを見抜くために鍛えられた能力であるのは想像に難くない。

「わかった。……シロアリ共の狙いがそうならば余計に止めねばなるまい」

 そしてフェイは拳を振り上げる。


「出撃だ。準備ができ次第、皆を呼んでくれ!」


 

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