第69話 聖獣飛翔
「……。まずいな、どこが攻められてる?」
太公望がコンピューターの操作盤を叩き、確認する。
「警告――蓬莱山周辺にて、異常な陽の数値を示す反応を多数確認」
コンピューターから音声が警告を示す音声が流れるのだが、
「機械から声が!」
「まさか、この箱に人が入ってんのか!?」
京とアイシャが挙動不審になる。まだレコードすら珍しい時代の事だ。音楽や音声を記録する媒体が存在するなど思っても見なかったのだから。
ちなみに世界初のレコードは発明王と称されたエジソンの発明である。
「お前ら、録音された音声が珍しいからって呑気に騒いでる場合じゃねェぞ」
太公望が功夫遣い二人に騒ぐなという、緊急事態なのは明らかだ。
「異常な陽の数値というのが気になりますが……」
フェイはまだ冷静だった。西洋の機械に触れている分、カルチャーショックを受けづらいのだろう。
「恐らく、コイツはキョンシーだ」
「!?」
太公望が発した言葉に京は声を出せなかった。師である錬が死を選ばざるを得なかった原因を作りした死者たちだ。
「キョンシーってのは道術の下法を用いて造り出す、陽の《氣》を注ぎ込みさらに対象の心を縛る事で傀儡にしたゾンビの事だが、まだ存在していたのか」
「先帝の時代に完全に禁止したのだがな。まだこのような下法を使う者がいたというのか……」
フェイが怒りに震える。キョンシーは兵器ではなく遺族の元に返す輸送手段だったのだが、錬の死因となった兵器としての使役、突然の暴走もあり禁止されていた。
「そんな、死者を無理やり使役するなんて酷いですよ」
スープーは怒りに震えていた。死者を傀儡にしてまで酷使するなど人のすることではないからだ。
「急ぎましょう! もしキョンシーの中に道士や功夫遣いがいたら!」
「気持ちはわかる。だが、ここからでは遠すぎる……!」
フェイが落ち着けと京を諭した。距離を鑑みればわかる話だ。早馬を使っても五日以上はかかってしまう。
「じゃあこのままじっとしてろっていうのか、早くしないと皆キョンシーに殺されちまうぞ!」
と、癇癪を起したアイシャがコンピューターを叩くのだが、太公望は冷や汗をかかされる。
「あぶねェ……、異常なしだよ。コイツは繊細なんだ、いきなり殴るな」
太公望が焦り、メンテナンスのための画面を開く、運よく壊れなかったようだ。
「あーだこーだ言ってる場合じゃねェぞ」
「落ち着け、アイシャちゃんよ。おい、スープー!」
太公望はアイシャをなだめつつ、スープーの名前を呼んだ。
「はい、太公望先生」
名前を呼ばれたスープーが威勢よく返事を返す。スープーはまだ麒麟の姿のままだ。
「といわけでお前の出番だ。急いで連中を止めに行くぞ!」
「はァ? どうやってだよ!」
アイシャが怒鳴るのだが、太公望はチッチッと指を振り、
「スープーは麒麟の霊獣で龍だ。っと、その前にハッチを開く、飛ぶには邪魔だからな」
太公望は操作盤を取り外し、キーを叩く。どうやら離れていても操作を受け付ける模様だ。
「?」
三人は不思議な顔をするのだが、意味はすぐに分かった。
「え? ……浮いてる?」
身体が浮遊し、轟音と共に地面がせり上がる様な感覚を覚える。
上に上がっているのだ、そして部屋が停止するのだが――、
「天井が開いた!?」
いきなり天井が開閉したことにアイシャが驚く。この遺跡にはどこまで大がかりな機械があるのかと思わせる。
「飛行機械が離発着するための基地にする予定だったが、飛行するために必要な力が判然としなくてな、頓挫しちまった。だから飛行する霊獣の発着場として活用してたって訳さ」
さすがに古代の科学力をもってしても飛行機のような乗り物は作れなかったようだ。揚力はまだ未知の領域であり、1903年にライト兄弟が成功させるまで待つことなる。
「僕が皆さんを崑崙山の付近まで運びます、乗ってください」
スープーは自分の背に乗るように促した。
「了解、わかったわ!」
三人はスープーに言われるがままにその背に跨り、そして太公望が最後に跨ると。
「よし、頼むぞ!」
「はいッ!」
四人を乗せたスープーは太公望の声に応えるように空高く飛翔したのだ。
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