第61話 叡智眠る古代遺跡

 功夫で岩を砕くのは正解だったようだ。

 太公望が自身の逸話になぞらえ、大岩を用いてこの古代遺跡を封印したということだ。

「功夫で岩をぶっ壊すってのがありえねェ……」

 アイシャは呆れている。アイシャやフェイだけでなく、錬金術師アルケミストにも時の帝にもその発想はなかったのだから。

「錬師範は普通にやってたけどねェ。むしろ功夫遣いの常識だと思ってた」

 京は師もやっていたとケラケラと笑うのだから始末に負えない。

「いやそれ、普通じゃねェし……」

「雑談は後だ。これが逸話になぞらえた封印ならば太公望が目覚めたともいえるかもしれない」

 フェイが雑談を始めた二人を諫めると前に出る。

「封印されていた古代遺跡だ。何が襲ってくるかわからん、行くぞ」

 フェイが銃から熱剣に持ち替えた。遺失叡智イーシー・ルイジー部隊の近接における標準装備である。

 遺跡内は狭く突撃銃でもとっさの対応が難しいからだ。



「いやらしい配置ッ! 熊猫拳シュンマオチュアンッ!」

 京が絡繰兵の腹部に穴をあける。

 銃を括りつけた固定砲台の前に絡繰兵を配置するという基本に忠実な戦術的な配置だ。

「なるほど、太公望って優秀な軍師だったよな、そういや! 鉄肘ティジュウ!」

 もう一体に肘撃ちを食らわせつつアイシャが怒鳴る。

 先日の兵器工場は通常の方法では斃せない《霊》であることと絡繰兵の数に任せた配置だったが、陣形の定石通り、効率的な配置で待ち構えていたようだった。

「なかなかやる。熟練の兵士と戦っているようだなッ!」

 絡繰兵の青龍刀を熱剣で受け止める。その練度は以前戦った紅機と近いと思わせる。

 しかしフェイも負けてはいない絡繰兵の青龍刀を勢いよく弾き、熱した刃で両断する。

「行くぞ!」

 熱剣を振るう。

「ロックオン完了――」

 固定砲台の合成音声が聞こえてきた。

「うわわッ」 

「クソッ!」

 京とアイシャはすんでのところで固定砲台の射撃をかわす。当然当たればタダでは済まないからだ。

「防戦一方だと思うなッ!」

 フェイがすかさず試作ライフルを構え、引き金を絞る。

 固定砲台なのが幸いし、銃口から放たれた雷は配置された砲台を次々と貫く。

「しゃあッ!」

 京が残った絡繰兵に蹴りを埋め、消滅させた。

「殲滅完了だ。流石だな」

 ライフル銃を終い、フェイがねぎらいの言葉をかける。親指を指を立てる、西洋の労いのジェスチャーでサムズアップというらしい

「帝サマもな」

 アイシャがフッと笑い、互いの健闘を称える。

「しかし、ここもまた兵器製造工場のようだな。見てくれ」

 と、以前も見かけた四角い箱を見た。やはり正面にはガラスを思わせるような透明な板が張り付いている。

「これはコンピューターというそうだ。電気を流す事で映像を映し出す機械でな」

「……これも西洋の機械なの?」

 京は首を傾げつつ、質問をする。

「西洋で研究はされていているようだが、まだ普及までには至っていないものらしい。このコンピューターには工場の稼働状況が記されているようだ。見てみるぞ」

 コンピューターに映し出された言葉自体は読めるものだった。

「ぬう……。国土すべてを焦土と化すほどの超広域爆薬に、汎用絡繰兵に、決戦仕様の巨大絡繰兵まで存在していたのか……!」

 フェイが端末を操作して下にスクロールすると様々な兵器の一覧が記されているのだが、

「でもすべて開発中止になっているわね」

 京の言う通り全ての兵器は開発中止と記されていた。 


「ええ。当時、殷と周との戦争は古代遺跡に眠る超兵器により凄惨を極めていましたから」


 爽やかさを感じさせる青年の声が聞こえた。無論それはこの場にいる三人ではないのは明白だった。

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