第46話 帝の裁定

「皆の者、帝の御前である。頭が高い、控え――」

「いや、それは別に構わない」

 帝に控えていた精鋭の兵が鶴の一声で怒鳴るのだが、髭を生やし、頬に傷のある美丈夫が馬から降りて言う。

 この美丈夫こそが最近帝位に就いた皇帝のフェイなのだろう。皇帝らしからぬ傷ついた西洋風のコートが印象的だ。

「し、しかし……」

「話をするのに民も帝もないだろう」

 精鋭の兵は慌てるのだが、フェイはフッと笑い気にするなといった。

 そして、それでも頭を下げる陣たちに視線を向ける。

「以前から不穏な動きありと気に掛けてはいたが、まさかあの連中の拠点だったとは」

「連中って一体……」

 アイシャが独り言ちると、フェイは顎に手を当て。

「西洋から来たシロアリ共の事だ。連中は錬金術師アルケミストなどとのたまっているがな」

 人とみなさないほど錬金術師アルケミストに対するフェイの憎悪は強い。その口ぶりからして戦役とも関わりがあるのではないかと勘繰りたくもなる。

 ――いい得て妙、かしらね。侮蔑っちゃ侮蔑だけどさ……、

 シロアリは彼らの白衣から連想したのだと京は思った。

「シロアリ共は戦役の時代からこの国の各地で非道な実験を行っているらしい。この村もそのひとつだったというわけだ」

「皇帝陛下、この村の処遇は……どうなさいますか?」

 村長がおずおずと前に出る。

「この国を裏切ってきたのは事実です、私はどうなっても構いませぬ。ですから、村の者には寛大な処置を……」

「私からもお願いします」

 京も村長を庇うようにして前に出た。

「そうか、あなたが叔母上か……。肖像画でその姿は見た事があるが、会うのは初めてだな」

「今、私は市井の者ですから。それに、まず私よりこの村の事です」

 京の変わらぬ姿に驚くフェイに京は冷静に話を進めるように諭す。

 皇帝を前に京は無礼かとは思ったが、幸いフェイは気にしていないようだ。

 ――龍とも違うようね。

 時の帝と龍は京の兄だ。しかし、フェイは龍と違い穏やかな顔立ちではない。身に纏う傷ついたコートも相まって皇帝でありながら歴戦の兵を思わせるほどの強面だ。

「この村の処遇だが……。こうなるまで国が放置していたのも事実であるが、生贄を出し続けた事も重罪だ。故に――」

 一同は固唾を飲み、フェイの言葉を待つ。


「そちらの青年の助言を聞き、国の支援を受け、この村を再生させよ。これがお前たちに課す罰だ。――心せよ」


「――!」

 フェイの言葉に村長が身を震わせる。青年も驚いていた。

「斬首ではないのですか……!?」

 一番驚いたのは村長だろう、斬首は覚悟していたのだから。だが、フェイはただ情で裁きを下したわけでもないようだ。

「村の者を全員斬首をしたところで、この村は滅びを迎えるだけだ。この村はシロアリ共の実験が示した通り龍脈が豊富。この龍脈を生かし土地を豊かに出来る方法があれば、土壌の再生は可能と見ている」

「そのような事が可能なのですかい!?」

 村人の一人が声を上げる。

「龍脈は元は大地のエネルギーというべきもので、それでもこの土地がやせ細っているのはその流れ滞っているからだ。国はそれを正常に流せる方法の研究もしている」

 形こそ変わったがフェイは龍の役目を引き継いでいるのだと感じた。

「重いとがを背負い生きる事はただ死ぬよりも辛い処罰となるだろうが、この村を豊かにするため尽力してほしい……!」

「あ、ありがとうございます……!」

 フェイが村長の肩に手を置くと、村長はむせび泣く。

「どうやら解決したようね……」

 京がホッと胸をなでおろす。

「どうなる事かと思ったが、割とやるじゃねェか」

「ええ。どうやら、人に恵まれたようね」

 アイシャの言葉に京は頷くのだった。


 この村を襲った悲劇は、どうやら収束しそうだ。無論これは最善ではないかもしれないが、最悪でもないだろうと思う。

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