たそがれメセナ


 夕暮れは虹色の未来を映し、曇天な過去を模造する。何処へ向かうのかその視界をのせて、何を泣いているのか、何故に枯れ葉散るのか。ひとつの木に漂着した夢を見た、気かする。靄の中を奔り続けたような無駄に狂おしい憐憫を残して余りある時を、それでも尾をひくばかりの振動に微睡みながら此処まで、斜陽はとめどなく列車を曳き。

 そこで車窓の飽いた隙間から零れた生温い世迷言と、その日最後の光が散った。

 ほら今日の弧の火は偶然か必然か、やつれた蝶が死んだ。憐れでもなく儚くもなく、唯堕ちて失くしたものである。ただいきていた、だけだった、ウンディーネと躱す、こともなく 泣いていた。


 のぞいてごらんよ、各駅停車の開かれた扉から人々はゆきかえりを繰り返している。

 その輪を潜り抜けて奥の座席に腰を据えた初老の男の前に、白亜の翅を抱いた寂れた女がふらふらと腰を下ろした。明いた隙間に身を寄せたと云っても過言ではないが。やつれた少女のようでもあり鏤められた光だけ吸い込んだような眼を滑らせ、荷ひとつも持たず特に語る様子もなく、身を寄せたのだと、

お前は知っているのかい。

 この水葬の楽団は、あぶくを吐き続ける玩具の出目金ども。しばし、ひらつかせた、表皮は解けはじめていた。

 投棄の霜柱はしゃんと刺さっていたのか? 甘い蜜をしゃくしゃくと足蹴にしたものの、有難い咀嚼を訊いたか? 乱される夜ヨの色の綻びが散って 華になるのか……

カタコトノハコニワよ。

 土、と。風が・哭いてくれたので! 眠りに衝くことができましょう、か、なんて [シラベヲ頂戴ナ] なんて、まあ まあ、大きな口ですこと。

 がみがみ癖なヲヲカミが、針の筵で拵えましたガミには、包ませられた八重歯に由って緒ってさ。ニヤリと哂って暮れたものです。


 眠っていた君の翅を毟り、頬に烙印を授けたのは誰だろうね。もし腐肉をも喰らう食虫植物だったとして、そりゃあ可愛いかな、だからなのか なんでも口に入れてしまうのは癖のようなものですの。

 こりゃあ魔女が拾ったばかりの種がこの手にしがみついて目に余る芽を出しました。包み込める程度の平に瞬くものはやはり大きく伸びをして。そのあいまいなあいまに開いた眼から読み取られ、照らし出された君らは、即座に飲み込まれていくのよ。


 棚に上げられた臭気瓶に差し込む言の葉は乾いた音を立て風化して、仕舞われる、これら空想を羽搏かせる永遠の蛹に或りたい。空瓶に差し替えられた 何度目かわからないほどの欠伸のかけらを掬い取り、気が遠くなるほど遥かな旅をも要していたのは、彼だけではなかったようです。

 これは暗き闇白き光、幽かな魂たちだけですが、

 それは儂の手に余るほどの、わがままな太陽でした。

 向日葵のよう しなだれても活き、熱帯夜にもしとどに揺蕩う、小さな部屋で育まれた大輪の花火。溢れては零れ散る、呪いであり祝いに模した魔法でひと括る ひとときだったのかもしれません。

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