徒浪塡 幻月環
思い返せば、もう誰もいない 朽ち果てる家屋の軒に 鳥が巣をこさえていたのだ。
累年の妙ではあるが、倒錯する思いだけが何事も成せずにいて。彼らにとっては安住の地であろう。屹度この先何があっても 後悔などはない 小さくて畏いもの。上手く飛立てたのであろうか、戻ってこれたのだろうか。これは彼らの
海へ沒む、浪に呑まれて深く潜る 生きは定かではないが。
必要も無い、開放された心地で囚われ幾重にも縋る。
私が私を見殺しにした、そのものを 思い出さざるを得ない。
「くだらないな」零しながら あぶくは 蒼空へ孵って言った。
だが杭に図れた 己が葦は腐れ一帯と生った。
なら私は何処までも私として
あれは穹を瞬く星屑の 暗幕を喰らう月光蝶の 鱗粉だけを捌けで散らした 姿を模したカラクリ仕掛けの宵の明星。海面に浮す堕天使達は 水母となりて ひとを貶め 咎を毒蛾に潜ませ、 情や欲に吊られた首が 姿形を擬態し海坊主にも至りますか、なら足を引くのは我が身の心と申し、明日も我が身と知らしめる。
これは、生みへ点くその灯り。誰の瞳であったか、海岸線では瓦礫に混じり 縋りつく貝殻の 声を永遠に聞かす者がいた。じつと動かず風に靡くは 人魚姫とも云えば善い、過去の柵を祝い続ける 哥は、掠れて結えない。
燃え尽きた生きはとうに寂びた楔、性は既に展の情。繋がれる魂は視力を遺して散った。ほら薄闇に光る暁光のこと、僥倖だって当然昇華
強欲の苑に羽搏かせた、頂きに堕ちた顛末、
今宵も又その
なすれば詭弁も参ろうと、いまここにひとひとと、出遭えた定まりに ひとときの愛慾に溺れて果てれば善し。成せれば埋めよ殖やせよ、蛆虫どもがわらわら集るもの、思いなり躰なり、祖の否の天は凡てを見透している、嘘も誠もここに
辺り一面の未知を踏み締める。紅葉たちが慶んでいるように囁かれる、それはそれはこそばゆい、 己が、心が馬鹿馬鹿しいが、別段誰も困るものもいないのだと、そのまま北風に背を任せ襟をかき合わせて行く。この際共に逆らわず ゆるゆる撒かれて仕舞えばよかったのか。ほどよく温まった陽に満ちる 色鮮やかなモノ達に耳を貸す。風は確かに泣いているのだ、しかし怨嗟でもなく唯張り付いた魂が 憑き物だったのか、否か、だれかもわからない。(徒浪塡)
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