48 決戦の前に
紆余曲折を経て蜘蛛の協力を取り付けた所でラーテルを倒す方法を改めて考えよう。
冷静に考えれば倒す方法はそれなりに存在する。例えば分解されるより速く攻撃を当てるとか魔法の許容量を超える大質量攻撃とか。それこそ戦車の主砲でも当てれば間違いなく殺せるはずだ。逆に言えばそれほどの兵器でもない限り大したダメージは与えられない。
物質を当てずに攻撃する方法、例えば蛇の毒弾や人間の魔法ならラーテルの魔法には干渉されない。それでも素の防御力は高く、神経毒への抵抗性まであるラーテルには効果が薄い。どこのどいつだこんな訳の分からない生命体を作った奴は。ダーウィンさんに文句の四つくらいは言いたい。
当然だが蜘蛛の魔法も意味はないだろう。あっさり分解される。今まで戦った中で有効そうなのはヤシガニとヒトモドキくらいか? いっそヒトモドキと共闘するのも……ないな。ついさっきまで殺し合ってた連中と協力できるのは漫画やアニメだけだろ。あいつら自分たち以外の魔物を目の敵にしているみたいだし。
まあ結論としてはいつものあれだ。
そう、火だ。
今まさに蟻の巣をつついた騒ぎとなった我らがホームではラーテルに対する様々な対処法が検討されていた。
「これが火か。確かに熱いな」
火を見たことがなかった蜘蛛に火の扱い方について説明する。もう地下牢から出しているが逃げ出す気配はない。しっかり働いてもらおう。
「んで、こいつをラーテルに押し当てれば燃え移る。こんな風に」
焚火から木の枝に火を移す。口で言うより見た方がわかりやすいのは全世界共通だ。蜘蛛も目を白黒させて火を見守っている。蟻も最初に火を見たときはこんな感じだったな。もはや懐かしさすら感じる。
人間の場合、体の三割ほどの火傷を負えば死亡する可能性が高いと聞いたことがある。全身火だるまになればまず死ぬ。魔物でも火には弱いことは様々な戦いを経てよくわかっている。
「どうやってラーテルに火を当てるつもりじゃ?」
問題なのはまさにそれ。火は燃え移るのにわずかに時間がかかる。毛皮がどの程度燃えやすいかはわからないがのんびり近づけばラーテルにあっさり殺される。ならば遠くから火を点ければいい。
作るべきなのは火矢だ。
いままで火矢を作るという発想はなかった。何しろここは森の中。下手に使えば森火事になることは目に見えている。だが今はそんなことを言っていられる状況じゃない。最悪この果樹園を焼き払ってでも奴を倒す。
だがいきなり問題発生。鏃に木をくっつけただけでは矢の勢いが強すぎて、風圧で火が消えてしまう。これでは何の意味もない。
仕方なく鏃につける木の量を増やしたうえで燃やす木に酒を染みこませることで簡単には火が消えないようにした。
重量が増えてしまったことで命中率と射程距離が大幅に下がってしまったので、ラーテルなら数秒で詰められる距離まで近づかなければならなくなった。実に本末転倒だ。それでもただ突撃させるだけよりはましなはず。
だが問題はまだある。厄介なことに魔法によって矢が分解されるためどのくらい火とラーテルが接触させられるかわからない。動き回るラーテルを相手に本当に火が燃え移るのかはぶっつけ本番になる。
などなど、蜘蛛にきちんと説明する。
「問題が山積みではないか」
「言われるまでもなくわかってるよ」
もう時間がない。そろそろ配置につかないと。
尾行させている蟻によると、ラーテルは一直線にこの巣に向かってはいるが途中で木の実などを食べているらしい。もし奴が夏眠明けならそうとう腹が減っていて、凶暴なはずだ。それがオレの巣を襲う理由であり、歩みが遅い理由でもある。どうせなら人里に行けばもっと食い物があるのに。
食い物か。食い物を使った罠……いやそう簡単には引っかかるはずが………。
「それで妾に何をさせるつもりじゃ?」
一旦思考を打ち切って蜘蛛用の武器を運ばせた。
「ほら、これだよ」
取り出したのは円錐に蔦で作った紐が刺してあり、爆弾にも見える。もちろんそんな上等な物じゃない。中にはシードルが入っているアルコールランプもどきの道具だ。
明かりが必要になるかもしれないと思って作ってみたが、もともとあまり視力に頼らないうえ、夜目も効く蟻にとっては役立つものじゃなかった。アルコール度数が低いせいか蔦でできた芯も燃え尽きることが多い。はっきり言って不用品かつ欠陥品だが、武器に転用できたのは幸運だった。
「これを火炎瓶代わりにする。要するに火を点けてからラーテルに投げろ」
きちんと割れるかどうかは考えなくていい。何しろラーテルの魔法は固体ならすべてを分解するので、ただ触れさせるだけで中身のシードルは飛散し、燃え上がる。
蟻達がスリングで投げるよりも蜘蛛の方が上手く当てられるはずだ。
む? 酒を浴びせる……この策ならいけるか?
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