漆黒竜王との邂逅
冒険者ギルドに入った四人、パーティー名「白銀竜王」の面々は受付嬢のところへ向かう。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
受付嬢は言う。
「クエストの受注をしたいんです」
そうシアは言った。
「はい。クエストの受注ですね」
「それからパーティー名の変更を」
「わかりました。こちら、二枚の紙に記載してください。一枚目は受注票。二枚目はパーティーの変更届です」
そう言って受付嬢は紙を受け取る。
「はい」
シアは二枚の紙を受け取って、カウンターで記載する。
「はい。ありがとうございます……えーと。Fランクの冒険者パーティーで名前は『白銀竜王』ですね……くすっ」
受付嬢はくすりと笑みを浮かべた。
「い、いえ。申し訳ありません。笑っちゃ失礼ですよね。すみません。随分と強そうなお名前だったもので」
受付嬢は笑ったが、別に彼女が特別性格の悪い反応をしたというわけではない。通常の反応だろう。大言壮語も甚だしい。そう普通の冒険者、あるいはギルドの関係者ならそういう反応をする。
「あらっ……白銀竜王ですって。随分と大層なお名前じゃない」
「全くだ」
後ろから声がした。
「あっ、あなた達は!」
シアは言った。
「この王国に2チームしかいない、Sランク冒険者パーティー『漆黒竜王』のメンバーの方々!」
後ろにいたのは四人ほどのパーティーだった。漆黒の鎧を着た男が一人。そして漆黒のローブを着た魔法使い風の女性が一人。
「その情報は過去のものだ。今ではこの王国にはSランクの冒険者パーティーは一つしかいない。つまりは俺達、漆黒竜王の一チームだけだ」
そうか。クラインは納得する。どうやらかつてSランク冒険者パーティーとして名を馳せていた紅蓮獅王は降格したらしい。恐らくはAランクの冒険者パーティーに格下げされている。だからこそ、必死にクラインを引き戻しに彼らはかかっていたのだ。
漆黒の甲冑を着た男には見覚えがあった。
この王国最強の剣士と呼ばれる男だ。名をアルタイル・ロイヤル。アルタイルは暗黒騎士のジョブについている。暗黒騎士とは巧みな剣技が使えるのみにあらず、馬などの騎乗スキルを併せ持ち、それでいて尚且つ暗黒系の魔法まで使えるという。前衛でありながら器用にそれに留まらない対応ができる、対応力に長けたジョブである。
「そうそう。私達と同じ、竜王を名乗るとは良い度胸ね。それもFランクの冒険者パーティーが」
女が言う。女の名はロザミア・ハープネス。漆黒のローブに実を包んだ暗黒魔術師(ソーサラー)だ。より攻撃魔法に特化した、魔法使いの最上位職である。
美しい女性ではあったが、それでいて妖艶さが滲み出ている女性でもあった。
その他二人もこの王国でも有数の冒険者であり、有名人であった。
紅蓮獅王がクラインの精霊魔法の結果としての実績だった事を考えると、彼らは掛け値のない、正真正銘のSランク冒険者パーティーという事になる。
その醸し出される圧倒的な強者感から、四人は思わず気圧されていた。
「……な、なんですか。別に良いではないですか。あなた達の専売特許だとでもいうんですか」シアは言う。
「別に責めているわけではない。だが、その名を名乗るのなら、それに恥じない働きをしろ、そう言っているのだ」そう、アルタイルは言う。
「……いつか、肩を並べて闘いましょう」
ちゅっ、っと投げキッスをロザミアが言ってきた。雑魚パーティーに用はないのだろう。そう言って、漆黒竜王の面々はその場を去って行った。他に目的があるのだろう。彼らとて暇ではないのだ。
「あれが、漆黒竜王」
シアは完全に飲まれていた。他の三人も同様だった。
「飲み込まれるな。あれが俺達が目指さなければならない、そして乗り越えていかなければならないSランク冒険者パーティーの姿だ」
「……くっはっはっはっはっはっは! 何を強そうなパーティー名を名乗っていると思ったら、ろくでなしの連中じゃねぇか。おい。なんだ、その名前は。何かの冗談か?」
漆黒竜王がいなくなった後、一人の男がそう言って絡んでくる。男の名はトーマスと言う。 Cランク程度の普通の冒険者だ。冒険者としての活動歴が長いだけのただの中堅冒険者である。だが、その為冒険者事情については詳しかった。
「な、なんだ。お前は」
「……俺は知っているんだよ。お前達が役立たずだからパーティーを追放されたろくでなしって事に。俺はな、お前達(恐らくはシア達の事だろう)が所属していたパーティーに所属していた事があるんだよ。そしたらそいつら、揃いも揃ってお前達が使えなかったって嘆いていたよ。そんな奴らが集まって、そんな大層なパーティー名を名乗るなんてな。とんだお笑い草だ」
トーマスは言う。
「なんだと! 貴様!」
リアラは激昂し、ダガーを構える。
「やめろリアラ。ここは冒険者ギルドの中だ。もめ事を起こせば今後の仕事に差し支える」
セシルはそう言って、リアラを抑えた。
「……クックック。なんだ。俺とやるってのか? 落ちこぼれ風情が」
トーマスは挑発する。しかし、リアラはそれを抑えた。
「トーマスさんでしたか。俺の仲間を侮辱するのはやめてくれませんか?」
クラインは言う。
「なんだ! 貴様! ……貴様は、クックック。知ってるぞ。ついこないだまでSランクパーティーをしていた紅蓮獅王の荷物持ちをしていたクラインじゃないか! Sランクパーティーの荷物持ちをしていたってだけなのに、随分と強気じゃねぇか。貴様も結局足手まといだからクビになった口だろ! そいつらと別に何も変わらないじゃねぇか!」
「一ヶ月」
「ん? なんだ? 一ヶ月?」
「いや。二週間あればいい。この場であなたをどうこうするつもりはない。ただ、結果で俺達に舐めた口をきけなくしてやりますよ」
「ず、随分と大層な口叩くじゃねぇか。いいだろう。二週間で何が出来るかしらねぇが。その時を楽しみにしているぜ」
トーマスはそう言って、その場を去って行った。
「……クラインさん」
「良いさ、別に。最初からこうなるのはわかっていた。だからこそこのパーティー名にしたんだ」
クラインは語る。
「言葉で語る必要はない。結果を出し続ければ良い。そうすれば必ず俺達の評価も変わる。それだけの事だ」
「はい。そうですね」
シアは笑みを浮かべる。
「それじゃあ、クエストに出るか。昇格クエストだ。これをクリアすればEランクにあがれるんだ」
クラインは語った。
「「「はい」」」
四人はこうしてFランクとして恐らくは最後になるであろうクエストに向かっていった。
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