第6話 妹も雨に濡れた

 璃奈の帰りは遅かった。


 母親は、夜遅くなると言っていたし、父親は火曜日まで帰ってこないのだから、外食にしてもよかったし、そのほうが面倒もない。


 でも、テーブルの上には、

「ご飯を炊いて、戸棚にあるレトルトのカレーを食べて」

という母親からの伝言があったから、そうするよりほかになかった。


 かたつむりを食べろだとか、サソリを食べろだとかそんなことを言われていたらさすがに食べなかったとは思うが、一般的に食材として受け入れられているものであれば、何でも食べただろう。


 俺は何かを食べたいという欲はなかったが、無性に腹が減っていた。


 俺は、言われたとおりに米を炊き、カレーを食べた。



 食器を片付け、風呂に入ろうとしたころに、璃奈がやっと帰ってきた。


 傘を持って行ったようだったし、雨は気づかないくらい弱くなっていたのに、璃奈の前髪からは、滴が垂れている。


 「おかえり。」

「ただいま。」

「濡れてるみたいだし、先お風呂入れよ。出てくるタイミングに合わせてカレー作っとくから。」

「わかった。」

璃奈はそれだけ言って、風呂場へと向かった。


 「あ、ちょっと待て。甘口と中辛どっちだ?」

「中辛。」

璃奈はドア越しに答えた。


 「わかった。」

やっぱりなと思いながら、俺はキッチンへと戻った。


 璃奈が歩いていたところは、濡れていた。


 足の形に床が濡れているような、びしょぬれではない。はだしで踏んでやっとわかるくらい微かに濡れていた。


 前まで白かったのに、昨日見たらちょっぴり青くなっていた紫陽花を思い出した。

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