第144話 決戦(四)
騎士団の防衛線を越えて来たアダムを見付けて、アンが走り寄って来た。
「アダム、至急話があるの」
「分かった。俺たちも急いでアラン・ゾイターク伯爵に話がある。一緒に付いて来てくれ」
アダムたちはアンも合流して騎士団を指揮するアラン・ゾイターク伯爵の元へ急いだ。
騎士団では負傷者の搬送と、ゴブリンの死骸を始末すると共に、新たな戦力を補充して戦線の立て直しをしていた。
駆け寄って来るアダムを見て、アントニオ・セルメンデスとネイアス・ガストリューも近寄って来る。アントニオはその中にアステリア・ガーメントを見付けて、黙って挨拶を交わした。
「アダム、オットー、状況を教えてくれ」
「アラン・ゾイターク伯爵、屋敷の中は今リンたち剣闘士奴隷が仕切り扉を閉めて待機中です。2階も含めて、玄関口の仕切り扉から奥の階段の手前までこちらで押さえました。奥の階段から裏口にはまだゴブリンが数匹と子供たちが隠れています。闇の司祭は書斎にも居間にもやはりいませんでした」
「良くやった、アダム。オットーも付け加える事があるかな」
「はい、床に穴を開けて1階に突入する際、アステリア・ガーメントの火魔法がとても有効でした。後、リンたち剣闘士奴隷も、犠牲になった仲間を救出しようと必死ですが、まだ母腹にされた女性たちは見つかっていません。自分も早く中に戻って捜索を続けたいと思います」
話を終えたアダムの袖を引っ張って、アンが慌てて声を掛けた。
「アダム、聞いて、闇の司祭について情報があるの」
みんなに合流して急いで話そうと慌てている様子が分かって、アラン・ゾイターク伯爵も黙って話を促した。
「救護所に管理人のザップさんが来ているの。彼の話では、小さな秘密の礼拝堂の入口は隠されていて、書斎の書棚をずらすと出て来る仕組みらしいの。ザップさんは知らないと絶対分からないって。てっきり買い手の執事だと思って、自分が闇の司祭に教えてしまったと嘆いていたわ」
「おい、アダムそれって、リンたちが危ないぞ! 急いで戻らないと」
アンの話に、リンたち剣闘士奴隷を残して来た事をドムトルは急に不安になって叫び声を上げた。
「お前たち、もう直ぐガイとの決戦が始まる。決着を着けないと入口には戻れないぞ」
慌てるドムトルをアントニオ・セルメンデスが止めた。最後の決戦に向けて両者の緊張は高まって来ていて、戻って来た時の様には行かないと言う。不用意なところから決戦が始まると、囲みを破って逃げられないとも限らない。
「アントニオの言う通りだ。ここはリンたち剣闘士奴隷を信じて、まずガイを何とかすることを優先しよう」
「分かりました、アラン・ゾイターク伯爵。もう一つ報告があります」
アダムは脱出する際に食堂を通って来たが、その時に見付けたゴブリンの死骸の話をした。
干からびて萎びた死骸は、最後の命の欠片までゴブリンの王であるガイに捧げたように見えた。その上で前庭の戦いで死んだゴブリンの死骸を見ても、全く同じような特徴がある。ククロウの目を通じて見ていると、傷ついたゴブリンはみな最後に、ガイだった者を望み祈るように死んで行くのが見えたのだった。
「王であるガイと臣下のゴブリンに強固な共生関係があるように思います。配下のゴブリンが異常に進化しているのもそうですが、ガイは臣下の魔素エネルギーを自由に吸収して、肉体を強化したり再生機能を高めているのではないかと思うのです」
「アダムの言う通り、確かに彼奴の活力は異常だ。俺が傷付けた手首の傷も気合ひとつで薄っすら跡が見える程度に治っている」
アダムの話にアントニオ・セルメンデスも同意する。ガイだった者の斬撃は強烈で普通の騎士団の団員ではまともに正面から受けられない。だがその代わりに脇腹を晒すような無防備な攻撃に、騎士団員も必死の反撃を返しているのだ。無傷で戦い続けていられるはずが無い。
「ゴブリンの戦いには幾つかの集団が塊となって戦っています。ガイを主力とする塊をこちらも主力で押さえて無理をせず、他の臣下であるゴブリンの数を減らす事に専念してはどうでしょうか。囲みをあまり縮めるのでは無くて、真ん中を火壁で焼いて分断し、向かって来る配下を叩く。ガイを受け持つ主力は大変でしょうが、臣下のゴブリンが減って行けば、ガイもその力を発揮できなくなると思います」
アダムの提案にアラン・ゾイターク伯爵はアントニオ・セルメンデスを見て、彼が頷くのを確認した。
「良し、俺とアントニオでガイを止めて見よう。アステリアは真ん中を火壁で焼いてくれ。アダムたちも手伝うんだ。騎士団員を焼かないように気を付けてくれ。群れを分断しよう。アンは救護所まで下がっていてくれ。君に危険が及ぶのが一番心配だ」
アンの命の宝珠や魔法は、闇の御子との戦いにおいては鍵になるものだ。それまでは無闇に危険にさらす訳にはいかない。アラン・ゾイターク伯爵の考えにアダムも全く同意だった。
ガイだった者との最終決着が近づいているのだった。
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