第119話「何れ菖蒲か杜若」

――――由梨花視点


 結界で抑えているとはいえ直下の対策本部の揺れは凄い。ライブ会場は千堂グループの設備とマリンの結界でバレないようにしているが外に出たらバレバレだ。一応は政府に話を七海さんが通してくれていて今も調整中の挨拶回りらしい。


「だから、問題は無い」


「な、なるほど……」


 仁人さんがそう言うと改めて母さんや義父、それに快利の凄さを思い知らされる。きっと自分一人ならこんな雲の上の人に会う事すら無かっただろう……と、昔の自分なら考えていたはずだ。自分が母さんや妹の絵梨花のように優秀じゃないのは、どこかで血縁上の父親のせいだと思っていたからだ。


「ユリ姉ぇ?」


「ううん、何でもない……皆は大丈夫かなって、ね?」


 その価値観をここ数ヵ月ですっかり変えてくれたのが快利だ。人の事を初恋だのと言って甘えて来るようになって、魔王との戦いではドサクサに紛れて強引にキスまでしてきて、この間も治療と言って瑠理香と一緒にキスまでされてしまった。


(少し手が早いのが心配よね……もし今度迫られたら私だって……)


「この反応は!?」


 そんな感じで戦闘とは関係無い事を考えていたら仁人さんが叫んだ。絵梨花が聞くと上空の観測用ドローンが全機消滅したそうで中の状況が欠片も分からなくなったらしい。


「じゃあ私が……うそ、フラッシュとグラスのステータスが……」


 私は咄嗟に上空で戦っている私の眷属の竜たちと感覚を繋げようとしたら二人から返事が無く咄嗟にステータスを確認するとグラスとフラッシュのステータス画面が探知不能となっていてHPが点滅し戦闘不能になっていた。


「どうしたんだ絵梨花くん?」


「フラッシュと……グラスの反応が……消えました、二人に何か!? マリン!!」


『マスター落ち着いて下さい、点滅しているのなら二人は無事です、恐らくは瀕死かそれに近い状態でしょうが生きてはいます、無事です』


 マリンの言葉に冷静になって今の話を仁人さんにするとマズイと呟いていた。先ほど送ったデータが快利たちの必勝パターンだったらしく、ここから派生するパターンは三つで対策を送ってないと言ったからだ。


「三つというのは仁人さん?」


 私が茫然としていると隣の妹が素早く仁人さんに質問していた。こういう時に冷静なのは本当に羨ましい。本当に優秀な妹だ。


「パターンは三つ、一つは敵が自爆した場合、これが一番高いと踏んで俺は結界を最大にするよう進言した、最悪の場合でも結界内の犠牲だけで済むからな」


「そ、そんな!? 快利が死んでも良いって言うの!?」


「落ち着いてユリ姉ぇ、お願い、だから……」


 私が慌てて仁人さんに詰め寄るのを止めた絵梨花だったけど良く見たら手が震えていて目に涙が溜まっていた。絵梨花も冷静じゃなかった凄く心配していたんだ。


「悪いな、昔からの癖でつい他人の内心を蔑ろにすることが有ってなな謝罪しよう、よく七海や友人たちにも注意されるんだ」


 絵梨花と仁人さんの言葉で冷静になった私は残り二つのパターンを聞いて即座にマリンに伝えた。上手く行けばマリン経由で上に私の思いが届くと思ったからだ。




「よし、これで大丈夫だ……だが、この呪いは……」


「快利、こちらに地上から情報が!!」


 俺はセリカの話を聞きながら昏睡状態のモニカの治療を終えていた。腕も元通りに治したが服はボロボロで適当な布をかぶせておいた。ステータスを見ると呪い系のバッドステータスで治療法は実に分かりやすかった。


「セリカ、モニカを頼む後は今の情報を外の那結果にも」


「お任せを、モニカは私のメイドでも有るんですよ」


「そうだったな……頼むぞ、奴を倒して呪いを解いてくる!! それとセリカ、端末経由でフラッシュに調べものを頼んで欲しい、可能なら対処もな」


 俺はセリカが頷くのを確認すると転移魔術でヘリの外に出る。外では変異し第二形態となった三つ首の龍がいた。一度は動きの止まった黒龍の死体から三体の龍いや首が生え発光すると死体は黒い球体に変化し、そこから首が生えた姿に変化した。


 その不気味な龍の不意打ちの攻撃から那結果を庇ったのがモニカだった。俺と慧花が油断し突破されたが上から見ていたモニカだけが反応出来ていた。その動きから敵は司令塔の那結果を狙った、つまり敵には知性が有ると確信した瞬間だった。


「いい加減、喋ったらどうだ真ん中の首、お前……イベド・イラックだろ?」


『――――ギュアアアアア……って、気付いたか?』


「気付いたというより、お前を地上で分析した人が送って来たデータを見ただけだ」


 セリカに送られて来たデータをヘリ内の端末で見た俺は敵が最後にしてくるであろう三パターンについての記載を見た。一つは自爆、もう一つは何も起こらず終了だが可能性は低いと記されていた。


「そして最後は何らかの策、それも仮死状態からの奇襲と具体的だった、その際には敵は知能の有るタイプで警戒しろとな……」


『素晴らしいじゃないか!! そいつは神を滅ぼす前に俺に仕えることを許してやるぞ!! アハハハ!!』


 中央の青紫色の魔族と同じ肌の色をした龍の首だけになった魔王龍となったイベドの高笑いが響いた。


「だが分からない、お前の呪いは時闇の楔に関係しているのだろうが浄化の条件がお前を倒す事に変わってるのは何でだ? それに何よりお前は倒したはず!!」


 実は時闇の楔の可能性を考えモニカには何度かキスをしたが効果は無かった。だから神々の視点全部丸見えで確認したらモニカの呪いの解呪条件が術者の殺害となって驚いたのだ。


『当然だ、俺はお前に倒された本体の人格を搭載した制御魔法なのだから』


「つまり別人か……」


 恐らくは那結果のガイド時代と同じような状態だろう。魔法自体が制御するためのOSのような仕組みで自分の人格を載せたとという意味に違いない。


『いや、そうとも言えない……お前が倒した直後に起動する仕組みだが、直前までのデータ回収はしていた、今は俺こそがイベド・イラックだ!!』


 その瞬間、今まで動いていなかった残りの二つの首、赤い首と黒白のマーブル色の首が動き出す。


「じゃあ、そいつらはブラッドとポイズンの成れの果てか?」


『そうだ、人格こそ搭載していないが能力だけは数倍にしたものだ』


 俺たちが喋っていると先ほどまでヘリの前で護衛していた那結果と慧花も到着した。二人は俺がヘリの中にいた数分間、時間稼ぎをしてもらったのだが戦闘はしていなかった。


「快利が来た瞬間に動き出すなんて、舐められたものだね」


『そういえば先ほどから小うるさいハエが二匹俺の周囲を飛んでいたな』


 やつの魔力を通して響く、くぐもった声が聞こえる。だが俺は奴の真意を測りかねていた。那結果や慧花なら時間稼ぎは出来るだろうが無傷では済まないはずと思っていたからだ。しかし実際は反撃一つしていない。


「慧花さんの魔法にも反応していませんでした」


『雑魚相手に戦う気は無い、特にお前ら勇者の付属品とスペアではな!!』


 それを言われた瞬間、二人の顔色が変わった。那結果は怒りに目を細め慧花も同じように見えたが僅かに顔色が曇ったように見えた。


「何を言い出すかと思えば二人は最高の相棒だ、異世界でもこっちでもな!!」


『そうか、確かに俺を解析していた元魔法は便利だ、しかしスペアの方はどうだ? なぜ私と二度目の戦いには時空の狭間で戦わなかった? 逃げ出した臆病者、それとも王族だからと親に泣きつき逃がしてもらったか!?』


「ふっ、言ってるがいい私は――――」


『勇者のスペア扱いが終わって良かったじゃないか元王子、今はメスになって勇者に可愛がってもらっているのか? 怖いからいやですわ~と』


 その瞬間、慧花が動いていた。俺や那結果が止める間も無く一瞬で奴の首の後ろに迫ると特注の剣を突き刺し炎と雷の上級魔法を連続で叩き込む。そしてポイズンの首と思しき物を吹き飛ばしていた。


「どうだ!! 私とて王族の端くれ、もう誰にもスペアなどと快利の足を引っ張る無能だと、二度と言わせないっ!!」


『ご高説結構だが……死ね』


「え……?」


 吹き飛ばした首は黒い粒子になったかと思うと再結集して元の黒白の首へと戻っていた。さらに反対側の赤い首が伸び口から雷のブレスを放出していた。


「ちっ!? 間に合え!!」


 俺は咄嗟に全力で突撃し聖剣でフラッシュの力を持つブレスを斬り裂いた。さらに反対の手で神刀を抜いて慧花への攻撃を防いだ。


『さすがは英雄、だが狙い通りだ……』


「え? か、快利!! 腕が……」


 やられたと俺は内心で舌打ちした。見た目はフラッシュのブレスだが明らかに症状は違う、焼け爛れて毒素まで混じっている。


「フラッシュの光に、くっ、フレイムの炎とコバルトの粒子か……」


『凄いじゃないか!! 当たりだよ英雄!! どうだ一体では三つしか制御できない能力も、これなら九つまで制御出来る、まあ威力が落ちるがお前らを滅ぼすにはちょうどいい威力だ、惑星なら数発で消し炭に出来るのだから!!』


 俺は医療魔術を使いながら横を見ると慧花が茫然自失の顔をしていた。いつもは飄々としていたのに余裕が微塵も無い。男の時でもこんな表情をしていたのは無かった……いや一度だけ見た覚えが有った。あれは貴族戦争の後の話だ。



――――慧花視点(ケーニッヒ時代)


「大丈夫か? 最近政務たまってるみたいだし少しなら飲みに付き合ってやる」


「それは嬉しいね、君からの誘いなら是非ともと言いたいけど残念ながら例の時空震の調査報告書が有るから次に頼むよ」


 これは快利が異世界からやって来て五年弱が過ぎていたグレスタード王国の私、角倉慧花が、まだ『殿下』と呼ばれていた時代の話だ。当時の私は多忙を理由に快利の誘いを断ることが増えていた。


「そうか、じゃあ俺はガキ共の相手してくる、何か有ったらコールしろよ?」


「もちろんさ、何なら今夜はベッドの上からコールしようか?」


「冗談言ってんじゃねえ!! じゃあ無理すんなよ」


 それだけ言うと快利は顔を真っ赤にして執務室から出て行った。実は当時の私は貴族戦争後の戦後処理が終わり少し余裕が有った。しかし一緒に快利と飲む雰囲気では無かった。


「失礼します殿下」


「何か?」


「いえ、政務も落ち着いたので勇者様と外に出られてもよろしいのでは?」


 私付きのメイドのチサも心配そうにしていた。私は貴族戦争終結後から王城以外では快利と接触を極力控えていた。


「殿下、まさかあんな市井の者どもや兵士の言葉を気にされて?」


「違うさ……」


 大当たりだった。さすがは祖父の代から私たち王族に仕えているメイドの家系の者だ。ちなみに私が男の時の初めては彼女に指南してもらい卒業している。だから姉のような人物で気心の知れた者だった。


「そう……ですか、ですが!! 殿下は、貴方様はスペアなどでは有りません!!」


 勇者の代わり、スペアなどと呼ばれ酷い蔑称になると『勇者の身代わり』とまで呼ばれていたのが当時の私だ。父は元より上の兄たち二人より私は為政者として劣っていた。だから聖剣を手に入れ今の地位を築いていた。それが無ければ今頃は侯爵家に降ろされていたはずでセリカの夫になっていた未来も有っただろう。


「そうか……ありがとうチサ、少し一人にしてくれ」


「はい、ですが勇者様も殿下のお顔の色が優れないとご心配されてました」


 それだけ言うとメイドのチサが出て行き私は考えていた。彼女の気遣いと快利との語らいが無ければ私は間違いなく壊れていた。一度は自分から存在意義を奪ったと憎んだ相手だったのに今は恋をしていた。


「ならば次こそは君の役に立つさ快利……君が私の心情を一番理解してくれた、支えてくれた人なのだから」


 ベッドに横になりながら思うのは快利との時間だ。快利は私が自分のスペアと言われた時に露骨に気分を害して相手を恫喝していた。まるで自分が言われた時のように本気で怒ってくれた。その後に必ず「お前は俺の相棒だ」と言った。


「あれが演技なら、私は絶対に君を好きにならなかったよ快利……」


 そして私はその後、快利が私を生かそうと時空戦争で逃がしてくれた事も知った。最初は怒った。信じてくれなかったと友人としてすら信用されないのかと、だけど帰還して多くの仲間を失い精神すら病んだ彼を見て私は自分の愚かさを理解した。


「私やモニカまで失ったら快利は今度こそ立ち直れないなんてセリカに言われたら、もう何も言えないじゃないか」


 だから私は快利を自分の手元に置こうと本格的に動き出した。セリカと婚姻させるのも良いし私がセリカと婚姻しモニカを嫁にでもして騎士として傍に置くのも良いとすら考えていた。どんな手を使ってでも自分の元で保護し戦争とは関係無い場所へ幽閉しようと動いていた時に竜王事変が起きてしまった。




「だから……ドラゴン共、もう私の快利を傷つけさせはしないっ!!」


「待て慧花!!」


 慧花は俺の制止も聞かずに突撃していた。手に持った剣はボロボロだから突撃の際には魔法を連続行使していた。俺も慧花を追おうとしたが那結果に肩を掴まれ制止された。


「快利、早く傷を!!」


「だけど慧花が――――「なら早く治すべきです!! 急いで!!」


 本当にその通りだと俺は自分に治療魔術を使うが治らない。どうやら竜の力のせいで治りが遅いようで那結果が治すと言って治療魔術を俺に使用し始めた。だがその間も戦いは続いていた。


「はあああああ!!」


『肉体的に弱体化したにも関わらず魔力は上がったか……サンプルとして面白い』


 慧花が叫びながら魔法を連射して剣には魔術を付与して戦っている。しかし中央の首以外の二つは何度潰しても復活し本体のイベドには攻撃が到達していない。恐らくは防御の二つの能力を中央で固めているのだろう。


「くっ……」


『ポイズンのデータを見た、聖剣でも下位互換の技しか使用できない無能、役立たず、いやいや俺が迂闊だったよ時闇の楔をお前にも埋め込んでおくべきだった、なぜなら一番お前が……』


「止めろ!! 言うなあああああ!!」


 慧花が剣に氷系の魔術を付与して折れた刃を補強して斬りかかったがアッサリと折れて吹き飛ばされた。


「くっ、まだまだ……」


「慧花、退け!!」


『お前自身が勇者を妬んでいたんだからなぁ……そして諦めていた、男だと同姓という言い訳に浸り誰よりも傍にいると――――「黙れえええええええ!!」


 剣が消滅し予備のダガーナイフに炎の魔術を付与し斬りかかるがコバルトの粒子とグラスのブレスの直撃を受け鎧が砕けた。フレイムには鎧の防御で何とかなったが物質を直接ぶつけるブレス系に鎧は脆かった。


「ごふっ……がっ……」


『炎だけではなくエネルギー系防御に特化した鎧、おそらくは神器の一部が流用されているな、聖剣といい神刀といい忌々しい!!』


 慧花は結界魔法を展開するが今度はブラッドのブレスに変化した左の首からの攻撃は防げずに吹き飛ばされていた。


「慧花!!」


「快利完了です!! 行きますよ!!」


 那結果に言われた瞬間に俺は飛び出して落ちて行く慧花をキャッチした。一応は結界は底が有るから地上まで落下することは無いが抱きしめていた。


「快利……私は……その」


「知ってたよ、決まってんだろ? 今さらだ、向こうでも気にすんなって言っただろうが、そういうとこ少し潔癖過ぎなんだよ」


 俺は慧花をお姫様抱っこをして那結果の所に戻ると「お熱いですね~」と嫌味を言われた。おのれ元脳内魔法っ娘と思いながら情緒不安定な慧花に向き直る。


「奴が言った通りなんだ、私は君を恨んで愛していたんだ」


「あ~そうかい、俺もお前のこと最初は気に入らなかったぜ、なんせ女だと思ったら男だし、おまけに美形だし家族も揃ってイケメンだらけでコンプレックスなら転移して俺の方がず~っと感じてた!!」


 向こうに転移して初日に会った王族は美形でどこの少女漫画のご出身ですか? お前らって感じにキラキラしていて偶然、出会ったのが慧花だった。凄い美人だと思ったら一緒のトイレ入って来てビビッて固まって立ちションし出したのは今でも俺のトラウマだ。


「だけど僕は……」


「うるさい、回復させるから黙ってろ……」


 ジタバタ抵抗するから更に抑えつけるようにして医療魔術怪我を直す。そのまま回復魔法で治している間に那結果が敵と交戦しているのが分かった。


「うっ、そ、そう言えば覚えてるかい? 昔は僕が君をこうして抱っこした時のことを、あの時の君は――――」


「そうやってす~ぐマウント取ろうとすんな、強がんな、たまには甘えてろ……」


 だけど有ったな……まだ俺は十七で背も低くて、でもギリ一七〇センチは有ったけど慧花の方は一八〇越えだった。だから二人で王城を出る時に落ちそうになった俺はコイツにお姫様抱っこされたんだ。


「でも、なら私はどうすればいい? 君からの恩も友情も好意も何も返せない!!」


「もう返してもらった、母さんの事で気合を入れてくれたろ?」


 あの時のキスは一つのターニングポイントだ。慧花を女として意識したし励まされた。何より俺には他にも慧花から、ちゃ~んと借りが有る。


「でも……」


「お前には王城で腐るほど世話になったろうが、面倒な令嬢のあしらい方、テーブルマナーに王国の文化や歴史と王城の抜け出し方それから、えっと……」


 魔王討伐戦争後に俺のお目付け役として付けられたのが慧花だった。話し相手以外にも色々と世話をしてくれた。


「ぜ、全部、君を王家になびかせるためで……」


「だろうな、だから?」


 俺がそう言うと慧花は理解出来ないという風な顔をしていた。こいつの驚いた顔なんて久しぶりに見た。




 打算は当然有っただろうが関係無い。貴族戦争の時に二人旅した時にバカをやったのは一度や二度じゃなくて朝帰りもすればモニカに二人して叱られたことも有った。


「その全部が打算か? だったら逆にすげえわ、その演技力に助けられたな俺」


「いや、それは……」


「貴族戦争の時、二人して無銭飲食した時は笑いながら逃げて犯罪は初めてだなんて言ってたろ? あとで王様にバレて戦後に二人して店で皿洗いさせられた、あれも全部打算か?」


 俺のバカな行動に巻き込んでも付いて来たのは間違いなくコイツだけで、良い時も悪い時も付き合ってバカ出来たのはこいつだけだ。家族や親友に見捨てられたと思っていた俺にはかけがえの無い時間で思い出だ。


「違う……私は!!」


「一つ教えてやる慧花『役に立つ立たないを決めるのは王国じゃない、私だ』とな」


「そ、それって昔の私の……」


 初めて剣の戦いで俺がボロ負けした時にそう言って慧花は俺の手を取った。あの時からお前はかけがえのない存在だったんだよ。今しっかりと分かったんだ。


「俺の大事な友ケーニッヒ殿下様々のお言葉だ!! 言った本人が守れバ~カ!!」


「ふぅ、そっか……」


「二人とも!! イチャイチャしている所恐縮ですが、そろそろ限界で~す!!」


 那結果がDモードカルテットで黒龍第二形態と戦っていたが吹き飛ばされて結界の端に叩きつけられながら文句を言っていたから笑いながら返事をする。


「悪い悪い那結果、珍しい慧花の愚痴を聞いてたら忘れてた」


「そうですか!! 脳内に五年以上いた大事な大事な相棒を放置プレーなんて薄情ですね~、さすが元勇者!!」


「ほれ、あんなんで良いんだ……行くぞ慧花、お前は俺の大事な友でスペアなんかじゃない……だから昔みたいに一緒に戦って、助けてくれ」


 俺が慧花を下ろして手を差し出すとパシンと弾かれた後に強く握り返された。その手は昔のように男の硬い手じゃなくて柔らかい女の子の手で昔との違うけど心強さは一緒だった。


「ああ、そうだ……私は、角倉慧花は君の終生の友であり同時に君の将来の妻になる女だ!! 勇者のスペアじゃない!!」


「そこは少し待て、ポジティブになり過ぎだろ!!」


 ふっ切れて涙を拭って笑顔を向けて来た慧花を見て元気になり過ぎたと呆れたけど、これなら大丈夫だと確信した、その時だった。俺達の体が紫色の光に包まれた。


「え? これは……」


「……まさかっ!?」


 そして俺たちがそれぞれステータスを確認すると新たなスキルが追加されていた。


「何という完璧なタイミング!! 来ましたよ!! お二人とも……カップリングスキルの光です!!」


「ああ、そのようだ……慧花、聖剣を!!」


「分かった……行こう快利!!」


 聖剣を慧花に渡すと俺達の輝きが頂点に達した。その時になって黒龍状態のイベドもやっと動き出す。余裕ぶっこいてるから俺達への対応が遅れるんだよ。だから言ってやるよ魔王に相応しい言葉をな。


「今さら……気付いても、もう遅いぞ魔王!!」


『バカな、因果律操作魔法は使えなくても俺の未来を導き出す力は完璧なはず』


「それは崩させてもらうよ魔王イベド・イラック……私と快利がね!!」


 イベドのブレスが三つ首から同時に放たれたが紫の光に包まれた俺たちが全て弾き遮断している。そして同時に俺と慧花はスキルの名を叫んだ。


「「何れ菖蒲か杜若どっちも本物!!」」

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