第107話「明かされる野望とその狂気」


「そもそも神がスキルを与えたってのが眉唾物まゆつばものだろ?」


「そこまで理解しているなら話が早い、神とはお前ら人間が考えているようなものでは無い、あくまで力を与えるだけの高次の存在システムだ。元々は我ら魔族とて魔法も魔術も、ましてや特性などという力も持たなかった」


「ああ、セリーナに聞いたよ、この刀を託された時にな」


 この緑色の神の刀『世界のための楔色合いはワサビ』は世界樹に突き刺さっていたのを引っこ抜いたもので、その際に異世界の力の半分も一緒に吸い取って持ち出す事になった。


「ふん、我が子孫のくせに世界のための楔ルガールングバムを人間に渡したか情けない……やはり失敗作か」


「失敗作って……俺の師匠なんだがな」


「そうか、ところで知っているか? セリーナは因果律操作魔法を先天的に覚えているという事を、そしてその意味を」


 魔族は皆、先天的に覚えているものじゃないのだろうか。そして、そもそも気付いた事が一つ有った。


「さっきお前サラッと言ってて流してたけど因果律操作魔法使えるんだな、何で俺との戦いの時に使わなかった?」


「無駄だったからだ」


「いや、因果を操作すれば俺に勝てたろ?」


 あの力を使えば過去改変などは容易で俺は負けていただろう。なぜなら当時の俺は因果律操作魔法は使えず過去と未来の単純な行き来しか出来なかったからだ。当時の俺は時空間の行き来は出来ても歴史を変える事は出来なかった。

 だから未来が確定し繋がる前に、その未来を破壊し今度は自分の望む未来だけを残し繋げる作業しか出来なかった。それが目の前の魔王との戦いだった。


「それが無理だから俺は直接お前と戦ったのだ。普通、因果律操作魔法は日に一度しか使えん、お前を倒すには三度は使わねば勝てないと使用して分かったのだ」


「え? 三回使えるのがデフォじゃないのか那結果?」


「今までは比較が出来なかったので何とも、そもそも世界の出来事を自分勝手に変える事が三回も出来る時点で気付くべきでしたねぇ……」


 いやいや、そんな後出しで言われても、てか今さら曖昧なこと言うなよ那結果。


「いや、お前ラーニングした時とか、ルリを助ける時にも世界が壊れるからとか、もっともらしい理由で俺に言ってたじゃねえか!!」


「ふっ、快利……私にだって分からない事は有りますから結構テキトーな考察を語っていたことがあったりするのです!!」


 何だよそれ、今さら言われても本当に困るんですけど那結果さん。俺はジト目で彼女を見るが目を逸らされた。




「なるほど知識の魔法と言えども知らぬことは有ったか……やはり神が作り出したものにも欠陥が有るのは俺の予想通りだ、それで最初の話に戻りたい英雄よ」


「なんだよ、もう全部話せよめんどくせーな、それと話が終わったらルリとユリ姉さん解放しろよ」


「今、知識の魔法の情報生命体が語ったように因果律操作魔法は基本的に解明されていないが利用法は分かっている、四度使えば世界を崩壊させる事が出来る、この場合の世界とは国や星という意味では無いのは理解しているな?」


 ユリ姉さん達をガン無視しやがった。それはそれとして奴が言いたい事は世界という概念そのものが破壊されるという話だろう。つまり宇宙やら諸共も世界という概念に囚われていて全部崩壊するって話だろう……たぶん。


「その理解で問題無い」


 どうやら合ってたようだ。意外と説明が丁寧だなコイツ。そして自分にとって都合のいい話にしか反応しないのも分かった。


「それで最初の世界を壊すという話に繋がると……で? 世界を壊すと自分も消えるだろ? 本末転倒じゃないか」


「それは違うぞ英雄、使用者だけは生き残るのだ、考えてもみろ使用者が死ぬ魔法など存在したか?」


「そのようなものは存在しませんね、それは私が保証しますよ快利」


 でも那結果に保障されてもな……割といい加減だったのが証明されたばっかだしな。おい、そんなにウルウルした目で見ても騙されないからな。


「まあまあ快利、仮定に仮定を重ねても意味は無いが今は魔王の話を聞くしか無いさ、情報が足りない上に今は対立するには厄介な相手だ」


「分かってるけどよ、じゃあ慧花お前はどう思っているか意見を聞きたい」


 異世界人で一番こういう状況で頼りになるのは慧花だ。伊達に向こうで王子はやっていないという事だ。


「英雄では無いが発言しても構わないかな魔王イベド・イラック?」


厭味いやみか? 構わん聖剣に暫定的に選ばれた者の意見なら聞こう」


「ふっ、では聞きたい、私は向こうで数ヵ月はセリーナと共に治世を行い一緒にやって来た、その友に”失敗作”とはどういう意味かな?」


 珍しく慧花が怒ってるな。そういえば俺が居なくなってからはセリーナが俺の代わりをやっていたと聞くし色々と思う事も有ったんだろう。


「ああ、あれは俺をモデル作り出したクローンに近いものだが莫大な魔力と同胞を失いながら出来たのは俺と同じ一度しか因果律操作魔法を使えない固体だから……失敗作だ、俺はお前を越える者を作りたかったのだ英雄よ」


「俺を越えるって意味の基準は因果律操作魔法か?」


「その通りだ……俺は神を殺すために時の彼方を彷徨っていた、気の遠くなるような年月をかけて因果律操作魔法で世界を崩壊させる研究を繰り返し、完成したのが魔王シリーズであるセリーナ達だ」


 魔王シリーズとかいう謎の単語が出て来た。おそらく俺が夏休みに異世界に戻った時に戦った魔王達だろう。だが、そこで待ったをかけたのは慧花だった。


「いやいや快利、忘れているようだがセリーナ達は大昔の魔王だと王国が調べたのだ、それはセリーナ達の遺跡の存在も含めて間違いない!!」


 そういえば一番最初に王の伝令役がそんな事を言っていた気がする。だがそれは変だ。セリーナは向こうでイベドこそが自分達の先祖だと教えてくれたしイベドも先ほどクローンに近いものだと名言している。


「それは貴様ら人間から見たらそうなるだけに過ぎない、あやつらは因果律操作魔法で過去に送り込んだのだ、俺が死んだ時の保険のためにな」


「どういう意味だ、お前を俺が倒した時点で送り込んだとでも? そもそも過去改変を行っても過去に人を送り込むのは不可能だ過去改変ってレベルじゃねえぞ」


「それは因果律操作魔法の盲点だ、俺も何千年いや何万年も研究しているからな、お前よりもこの魔法には詳しいのさ」


 魔王の話によると因果律操作魔法の過去改変には裏技が有るらしい。本来は対象者にしか効果が現れず転移魔術などで一緒に移動しても効果は表れず対象者以外は元の世界に戻される仕組みらしい。


「なら魔王たちを過去にどうやって送り込んだ?」


「簡単だ、装備品アイテム、つまり持ち物として俺と一緒に移動し置いて来た、具体的には多様式万能箱アイテムボックスに収納し過去に置いて来たのだ」


 魔王を装備品て……そんな事が可能なのかと思った時に似たような状況が有った事に気付いた。つい最近、自分の身の周りで起きた事を思い出していた。そして思わず気絶しているユリ姉さんを見ていた。


「……あっ!? まさか……」


「快利、ドラゴン達はどうやって……この世界に来たか覚えてますか?」


 ドラゴン達は俺に倒された後、この世界に来る俺の体に付着してこちらの世界に来たのだ。あの時は鎧や他の装備もしていたからエナジー体として装備品と一緒に回収されたに違いない。


「そうか……俺が敗北し時空の狭間に飲まれた後にそんな事が、そう言えば同胞の魂が彷徨っていたから僅かに魔力を授けて放置した、奴が先にグレスタードの地で動かねば俺も貴様の存在に気付けなかったからな」


「その魔力を授けた同胞って、まさか……サー・モンローか!?」


「ああ、俺とは違う時空の魔王、だが、この世界では俺の到着と同時に死んでいた」


 やはり慧花が転生したりモニカやセリカも送り込まれたり、サー・モンローを倒した際にドームを吹き飛ばしたりと、あの日が全ての特異点だった。俺が一時的に全ての魔力と神気を消耗して探知出来なかったあの日に目の前の魔王まで到着していたなんて完全に想定外だ。




「さて、ここまで説明すれば良いだろう? 俺に協力し神殺しを手伝え勇者よ」


「俺に因果律操作魔法を使って世界を壊すのを手伝わせたいのは分かった、そのためにセリーナ達を生み出したのも理解した、だが遠慮させてもらおう」


「バカな……理不尽な神を打倒するのが勇者であり英雄であろうが!?」


 いやいや普通に神への復讐とか無いから。百歩譲って俺の人生が悲惨なのが神の決めた運命だと仮定して復讐するのも多少は理解できる。もしかしたら目の前の魔王も理不尽な目に遭ったのかもしれないし同情する。


「だけど俺はこの世界の、この場に居る人達が大事だ、もちろん母さんも、あとは親父や義母さんも含めてな……」


「だから理不尽を享受する? 違うだろ英雄、俺とお前が揃えば世界を壊し作り直す事が出来る。神殺しとはそういう事だ、お前が倒した邪神は堕ちた神だから、せいぜい、そこのメイドの運命を変えたに過ぎないが本物の神なら――――」


「はぁ、だから断ると言ったんだ、作り直した世界が良いのかもしれない、それに都合が良いのかもしれない……因果律操作魔法を研究したお前の言う事は恐らく正しいんだろうが俺は嫌だ!!」


 世界を作り直すって事はこの場の人間を暫定的に全て消すって意味だ。そりゃ今までだって俺は因果律操作魔法を使ってたし、なんなら運命を変えたルリもユリ姉さんも厳密な意味では過去の世界から繋がる人間じゃなくて都合のいい世界の住人なのかもしれない。だけど、いやだからこそ因果律操作魔法はこれ以上は使えない。


「なぜだ? お前程の理不尽を受ければ俺と同じ思いのはずで心も動く、違うか?」


「確かに初恋の人にも、たぶん好きだった子にも散々な目に遭わされ、家族に見捨てられて挙句に唯一俺を大事にしてくれた人は死んだ、我ながら人生ベリハで理不尽過ぎる……それでも、俺は今の世界を大事にしたい」


 これが今の俺の偽らざる本心だ。てか俺にとって理不尽な世界だったから色々と変えて来たのに今さらリセットしろとかアホなのか魔王。俺は今が良ければそれで良いんだよ。もし神とかいう存在が出て来て邪魔するならば改めて戦えばいいだけだ。触らぬ神に祟りなしというが喧嘩しかけて余計な目には遭いたくないんだ。


「バカな……そんな下らない理由で俺の手を取らないと、そう言うのか英雄よ」


「まあ、他にも理由は有るさ、堂々と復讐の意味も有るなんて言って来て俺の母さん洗脳した奴なんて信用するかってのと、もう一つは――――」


「下らん……大義の前には小事だ、だが一応は聞こうか、もう一つは何だ?」


「俺の大事な女たちを痛めつけておいて、それを下らないと言い切ったお前が許せない、それだけだっ!!」


 俺は聖剣を慧花に渡すと神刀を構え即座に斬撃を叩き込む。隣では那結果が二丁拳銃を構え追撃する。モニカも短刀を構えエリ姉さんだけは後ろに下がって気絶している二人を守っていた。


「さすがは我が主、魔王の世界の半分やろう的な誘惑にも乗らず女性の色香を優先するなんて素晴らしいです!! よっ、色情魔!! この英雄!!」


「やっぱり魔王側に付こうかな……」


 那結果の煽りは最近は一段と激しい。こいつ脳内に戻した方が平和なんじゃないだろうか一瞬だけ魔王側に付きたくなったぞ俺。


「ですが快利兄さんの女認定されたのは嬉しい限りです!! やる気も出ます!!」


「それは違いない、私まで入っているのは意外だったがね?」


 モニカと慧花まで調子のいい事を言ってるし……ま、だから二人の事も守りたいし好きだと思えるのかもしれない。案外と素直になればそれで良かっただけの事だと思えてきた。


「それは当たり前だろ慧花だって俺の大事な人なのは転生前から変わってないしな」


「えっ……あっ、そ、そうか……ふふっ、そうか……」


「どうした慧花? モニカも、とにかくコイツは潰すから二人は守りを固めてくれ、那結果、お前は俺の援護だ、良いな? しっかり働け」


「分かりました我が主……そこの脳内神様絶対許さないマンに目に物を見せてやりましょう!!」




「まあ仕方ない……ここ最近の英雄は変わって来ていたのはリサーチ済みだったからな予定通りプランを変更する」


 それだけ言うと奴は明らかに敵意の有る視線を向けると体から黒い闇の魔力を放出し始める。それだけで家の物が吹き飛んで行く。後で修復魔術で直すとはいえ景気よく壊すのは止めろマジで頼むから。


「くっ!? そのプランは力ずくか魔王!!」


「ああ、それに近いな!!」


 慧花の問に答えると魔王は死神が持つような鎌を取り出した。過去に戦った時にも手にしていた恐ろしい武器で一振りで精鋭の時空魔術使いを三人は屠ることの出来る斬撃を放つもので脅威だった。


「彼我の戦力差も分からないのか?」


 奴に問いかけながら俺は心の中でそれはないと自分で答えていた。プラン変更などと言っているなら対策も当然有るだろう。今は少しでも敵の情報を引き出すための会話のターンだ。


「ふっ、確かに……こちらに来た当時のお前でも手を焼いたはずだが、それに加えて今のお前は英雄化すら躊躇せずに使え神刀まで使いこなすか……俺が抜けなかった神殺しの牙まで、このまま戦えば俺が不利なのは事実だ」


 この神刀も欲しかったのか。確かに全部持ってる俺を利用して神と戦わせた方が効率的だな。なんて俺が考えてる間に那結果がいきなり発砲した。


「ちょっ!? 那結果!?」


「はっ、隙を突いて頭に風穴開けようとしたのですが無理でしたか……案外と銃も使えませんね」


「思い切りがいいな、さすがは人ならざる者か仕方ない俺も余裕を出していたら負けるな……では本気と行こうか、我が手に力を!!」


 イベドが右手を掲げた瞬間、再び闇の力を帯びた魔力が周囲に飛び散る。このヒリ付く感覚を俺は最近感じたばかりだ。どこで俺は感じたんだと疑問に思う前に背後から悲鳴が聞こえた。


「ユリ姉ぇ!? 瑠理香!! どうしたんだ二人とも!?」


 振り返ると再び二人が黒く光り出し黒の光の中から黒い何かが次々と零れ落ちて来た。俺はそれに見覚えが有った。以前、ユリ姉さんとキスした時に排出された黒い鏃で名前は時闇の楔だ。


「ああああああああああ!?」


「いやあああああああああ!?」


 二人の悲鳴が響く度に楔はドンドン排出され、最後はサッカーボール大の大きさの楔が五つ出現し地面に落ちる。あまりにも禍々しい黒い闇の魔力に俺は戦慄した。濃く陰鬱で邪悪な闇の匂いに魔力酔いしそうだ。


「これは……一体、何が?」


「とんでもない魔力量です……くっ、絵梨花お姉様も離れて、危険です!!」


 セリカがエリ姉さんを二人から引き剥がそうと近付くが辿り着く前に片膝を付いていた。しかし驚いた事にエリ姉さんはピンピンとしていて逆に驚いた。エリ姉さんは一般人なはずだ。


「その、確かに気持ち悪いのだが耐えられるぞ?」


「やはりイレギュラーは貴様か……俺の楔を弾き返した規格外の人間め!!」


 二人が苦しんでいる姿を見せられ確信した。明らかに原因が目の前の魔王なのは確実だ。しかし今すぐに手を出して呪いが進行したら厄介だ今は耐えろ快利。


「おいイベド・イラック、もう一度聞く、ユリ姉さんとルリに何をしたっ!!」


 だけど怒りを抑えておくのはそろそろ限界が近い。たっぷりと喋ってもらうぞ魔王イベド・イラックよ、返答次第じゃ死より恐ろしい目に遭わせてやる。

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