第30話「私の好きな男性のタイプは私を全力で守ってくれる元勇者です!!」




 ライブ会場での魔王との決戦、あれから既に一週間が経っていた。ルリとはあれから会えていない。毎日スマホで連絡は取り合っているけど色々と忙しいようだ。そして学校にも来て無かった。


「やっぱ暑いなぁ……もうすぐ夏休みか……」


「その前に定期テストだろう? お前大丈夫か?」


「まあな、そして親友ポジになろうとすんな金田。俺とお前の関係は金だけだろ?」


 つまり今の俺の周りに女の子なんて居ない、最後は金田しか俺の周りには居なくなっていた。美少女に囲まれた元勇者の日々は儚くも消えた。


「さて、帰るかね……」


 呟いて俺は教室を出て一人で帰る。魔王の脅威も無くなったからエリ姉さんを迎えに行くのもユリ姉さんのとこに行く必要も無くなった。ユリ姉さんは時間が有る時と遅刻しそうな時だけは送っている。甘やかさないようにとエリ姉さんは言うけどコッソリ迎えに行ったりもした。そんな一週間を振り返りながら歩いていると校門の前に立っている人影が見えた。


「ルリ?」


「あ、カイ!! 今日、やっと時間取れたから、今から良いかな?」


「俺は構わないけど連絡くれよ? どうする? 家に来るか?」


「う、うん。お願い出来るかな?」


 俺達は手近な目立たない脇道に入るとすぐに俺の家の近くに転移した。そして二人で家に帰ると母さんが散々、詮索して来たけどすぐに俺の部屋に入って話を聞く事にした。本当に関係修復が出来るのか、それとも解決出来ないのか……俺は緊張していた。そしてルリが口を開いた。





 もう嫌われたくない、それに傷つけたくない、だから私は必死に言葉を選んで話そうと決めた。だからまず私はカラコンを外した。茶髪に近い金髪とアイスブルーの瞳、本当の私を見てもらう。三年以上も目の前のカイには偽りの姿を見せていたから、そこから始めないといけないと思った。


「私の家さ、家族で芸能事務所やってるんだ、伯父さん……えっと私の父さんのお兄さんが社長でさ。事務所の名前が『F/R』って言うんだ」


「全然気付かなかった……あ、ほんとだ代表取締役の苗字一緒だ」


「それでさカイはうちの事務所の過去の話とか、黒い噂聞いた事ある、かな?」


「一応聞いた事は有るけど……でも、あの時ってルリは俺と放課後とかずっと一緒に居たよな?」


 覚えててくれた。だから私は堰を切ったように話していた。あの時、家に警察や記者とかが気て不安だった事、一緒に居てくれて嬉しかった事、その後に自分が家の事情でアイドルになった事、レッスンのために中三からはほとんど会えなくて辛かった事を中学時代の言いたかった事を全部話していた。


「そうだったのか……てかルリのお母さんって歌手だったのか……それにスウェーデンの人だったのか。俺、全然知らなかったよ」


「うん。隠してたから。この目と髪で小学校の時から、からかわれたり高学年になると男子から告白されたり女子からイジメられたりしてさ。だから隠してた」


「それで中二まで友達が居なかったのか……」


 頷くと、その頃には人と上手く喋る事が難しくなっていた事、だからカイに話しかけられて二人で話してて救われた事、ルリと自分を呼んでくれた事、学校では筆談も出来てそれだけで楽しかったと、やっと伝えられた。


「全部、全部……私の大事な……思い出なんだ」


 ここまでは楽しい思い出、辛いレッスンも事務所や母さんからの無茶振りもメンバーやファンのため……なんてのは嘘だ。学校でカイと会えたから、それだけで……でも私は変わった。変わってしまったから、他ならぬ自分の、もう一つの顔のアイドルRUKAによって変わった。


「高校に入ってからはもっと忙しくなったけど、アイドルのレッスンとかしている内にメイクとか色々な事を覚えて普段の私も変わった……でしょ?」


「ああ、そうだな……正直すっごい綺麗になった。だからだよ。俺が距離を取ったのはさ……」


 なんで距離を取ったの? だってこれは全部、私は……。そう思って口を開く前に今度はカイが先に話し出した。私はそれを聞く事にした。間違わないために。





 だから俺は距離を取った、ルリと一緒に居たら間違いなく迷惑をかける。中学の時は二人で頑張ればどうにかなると思ってた。だけど高校は別違う、大事なのは容姿やコミュニケーション能力。当時の俺はどっちも無かった。


「早い話、気後れしたんだよ。まさかアイドルやってるなんて思わなかったからルリが高校デビューしたと思ってた。だから過去の邪魔者は引くべきだって」


「私は、そんなこと……全然これっぽっちも思って無かった!!」


「ああ、だから余計に引こうと思った。中学ん時みたいに親友だとか言い出したらルリの努力が無駄に……せっかく頑張ったのに俺のせいで、足引っ張りたく無かった」


 なんて言うが結局は俺の方も意地を張ってた。ルリが一人で高校デビューして置いて行かれるくらいなら自分から離れて迷惑かけない方が良い。そう言う風にカッコ付ければ傷つかないと思っていた。


「私は……寂しかったんだよ。高校だって同じとこに行くために頑張ったのに……」


「え? だってルリ、偶然だって入学式の時に――――「それは、カイに心配かけたく無かったから……」


「言ってくれたら……って、今月の期末どうすんだ? 対策とかしてるのか?」


「うぅっ、正直マズイ……かも」


 話が終わった後はエリ姉さんに勉強見てもらうしかないな……二人一緒に!!俺だって教えてもらわないと危ない……ん?そうだっ!?ちょっと未来に行って解答見てくれば解決するなっ!?


「カイ? ズルは良くないよ……」


「え? 声出てた?」


「うん。しっかりね。さすがにテストのために未来行ってくるのはちょっと……」


 俺はたまに考えてる事を口に出している事が有ると旅をしていた時にも仲間に言われた事を思い出した。そしてまた沈黙、だから一番聞きたかった事を俺は口にした。





「一年のクリスマスの後から、この肉体的には半年前から、ルリは、どうして……俺にイジメを? 前に俺は悪く無いって言った……よな?」


 カイは言葉を選んで核心に触れて来た。私はゴクリと生唾を飲んで内心震えていた。震えるなんて被害者みたいな事を言ってるけど私は加害者だ。


「うん。私がカイをイジメようと思ったのはクリスマス……だよ。でもその前から私は、ある人間からカイを取り返そうとしてたんだ……そうしてる内にどんどん過激になって最後はあそこまで行って……今はこんな感じだよ」


「え? 取り返す? 確かに距離は離れたけど、たまに話せるし、俺は普通に友達のままだと……」


「私は嫌だった!! だからカイにこっちを見て欲しくて色々したけど、そしたらカイはクラスの男子に目を付けられて、だから最初は距離を置いたけど、でも我慢出来なかった!!」


 さっきの話を聞いてればカイは私のためを思って身を引いくれたの分かるけど、正直すっごい独り善がりで私はカチンときた。だけどこの後の私の行動を考えたら私はもっと最低だ。でも当時はそんな事すら考えられなかった。


「そいつクラスの奴か? でも一年の時もそこまで――――「RUKAわたしだよ……いつもいつもいつも!! カイはRUKAわたしの話しかしなかった!!」


「え? いや、だってルリはRUKAなんだし……」


「そうだよ!! でも考えた事ある!? 大好きな男の子が私を見てくれない気持ちがっ!! カイに分かるの!? しかも見てるのがもう一人の私だって!!」


「はっ? えっ? えええええええ!?」


 言ってから気付いた時には私は固まっていた。感情に任せて四年分の思いとか後悔とかを一気に吐き出していた。最悪だ。ここで言うべきじゃない。謝るのが先なのに……そう思っていた時、いきなり部屋のドアが開かれた。


「ちょ~っと待ったああああ!! 瑠理香!! 抜け駆けは許さないと言ったはずだぞっ!!」


「あっ!? ううぅ、そのぉ……」


 そこに居たのは絵梨花先輩だった。なんか凄い全力ダッシュで帰って来た感じで肩で息をしている。制服のままだから玄関からここに直行したみたい。


「エリ姉さん? ちゃんとノックしてよ?」


「すまない快利。しかし校門前で二人が一緒の所を目撃されたと聞いて今日も部活をサボって来たんだっ!? それよりも瑠理香!?」


「あっ、ひゃい……そのぉ、わ、私……」


 ダメだ混乱して泣きそうだ。勢いで暴発して告白した挙句に二人との約束、抜け駆け禁止の不文律を破ってしまった。もう頭の中は真っ白だ。どうしようと私はここでまたカイにすがるような目を向けていた。


「瑠理香、お前がその気なら私だって、快利、実はわたしも――――」バタン!!


性質変化メタモルフォーゼっと、これでドア変形させて開かないようにしたから大丈夫、おまけに防音結界も張ったから安心だ!!」


 そう言ってこっちを見たカイの顔は少し赤くなっていて困惑していた。頬をポリポリ掻いていて視線を私と合わせてくれなかった。


「あ、あのっ、カイ、続き……いい、かな? 私がカイをいじ、いじめをしてたのは……そのぉ……」


「ああ……って無理だろ!! ルリ、俺の事を……その……あ、まさか……」


 そこでカイの表情が困惑から別な何か切り替わったような、まるで先週に魔王と戦ってた時の瞳の光を一瞬だけ取り戻したような、そんな風に私には見えた。そしてどこか確信を持ったように話し始めた。





「ルリ。間違ってたら文句を言ってくれて構わない。俺の自惚れじゃなければ、クリスマスのプレゼントがトリガーか?」


「うん、別に手袋とかマフラーが嫌だったんじゃない……よ。ただ、私とRUKAの格差が……許せなかったんだよ。負けたんだって……私の、風美瑠理香はこの程度の扱いだったんだって……悔しくて……」


 ルリの言葉で俺はRUKAのためのプレゼント選びをルリに頼んだ事を思い出していた。体感は七年半前の事だから少し記憶が怪しいが間違いは無いはずだ。確か当時の俺は最後の心の支えがRUKAだったから気合を入れていた。ルリの方も一応は気合は入れてたんだけどな……ま、あの出来じゃ仕方ないか……。


「ルリと距離を置いてから味方が誰も居なくなった俺の心を癒してくれた恩人に最高のプレゼントを贈るために……な」


「そうだよね……だから学校で私がイブの日に『クリスマスの夜に会いたい』って言った時もアッサリその場で断って……来てくれなかったんだよね……ライブ優先だったんでしょ?」


「違うさ。あの日は――――」

「ライブは昼公演だけだから夜だけは私にだってチャンスが有ると思ってた……」


 違う、あの日の俺は終業式が終わったと同時にすぐ動いていたからだ。もちろんそれはライブが原因じゃない。


「学校でルリの誘いを断ったのは悪かった。でも本当に急いでたんだ。それと終業式の次の日のクリスマスライブに俺は行ってない、別件で行けなかったんだ」


「嘘つかないで良いよ。カイのチケットと席はいつも確認してたから……RUKAを、ライブを優先したんでしょ!? それでライブ後に、いつものFCの人達と遊んでたんじゃないの? 違う? だから私のところには来てくれなかった……」


 ルリが諦観に似た顔でこっちを見て来る。自分が悪いんだから、とでも言いたそうな目だ。悲劇のヒロインぶってる顔だ。なのでその目を覚まさせるには、あの日の事を話すしか無い。


「ルリ、じゃあ聞くけどライブの時に俺の顔は見たのか? 不思議と目が合うとか思ってたのが自惚れじゃなければ、俺を見てたんだろ?」


「えっ、うん。ライブ前にトラブルがあって三十分押しで、色々あって私も焦ってて、だから直接、顔は見て無いけど……でもチケットが有ったから!!」


 ルリは少し焦った後に震えるように言った。そして根拠のチケットの事も分かる。だから俺にしか分からない、この状況のいびつさが……。


「俺はあの日、終業式の後すぐに出発して親父の実家に行った……爺ちゃんが死んだんだ……つまり葬式の手伝いで俺は帰った」


 あの日、母さんから爺ちゃんの危篤の連絡があった。珍しく会社からすぐに戻った親父の運転する車で俺達は急いで帰郷した。でも俺達が着いた時には息を引き取った後で、そのまま俺と親父が夜中の火の番をした。


「えっ……」


「チケットは近所のFCの同士に渡した。空席作りたくなかったからさ。あの時はトワディーはまだチケットの身分証の本人確認やってなかったろ?」


「う、うん……あの後から転売も増えたから……事務所が、やる、ように……って」


「信用できないなら姉さん達に聞いてもらって――――「信じるよ!! だってカイが嘘つかないのは知ってるよ。私と違って、そっか……」





 最低だ。私の今までの行動は結局のところ嫉妬に狂って好きな子をイジメていた。それも自分を見て欲しいって言う身勝手な理由で今までの関係を全て犠牲にして、最後の私を正当化する理由も私の勘違い、つまり全部私が悪い。そして目の前のカイが口を開いた。


「と、まあ誤解も解けたところで期末対策だけど――――「カイ!! 待ってよ。な、何で?」


「あの日、魔王との戦いの後にルリが全部話すって言っただろ? それで今話してくれた。で、俺は聞きたい事を聞いた。だからこの話は、もうおしまい。それより数学のテスト対策だけどさ」


 カイは何事も無かったように淡々と話を進めようとしている。まるで世間話のように、私の一大告白も懺悔や謝罪すらさせてもらえず全部流された。だから気付いた。


「これが、私への罰……って事なの? カイ?」


「ああ。それと保険。ルリは前科有るからな~? 絶対に自殺だけはさせない。これからも、ちゃんと普通に生きてもらう。それでルリが罪悪感で苦しんでも俺は赦す。なっ? ひっでえ元勇者だろ?」


「そう、だね……でも、それだけ……なの? 私、酷い事たくさん言ったよ? もっと私を……それに反省するか分からないんだよ?」


 カイの言い分は分かる。一生の罪悪感。でも、そんなの長くは続かないし人は忘れる。もちろん私は忘れないように頑張って生きるつもり。でも、それじゃカイが報われない。だって私の心なんて見えないんだから。


「ああ、だろうな。ここでルリに仕返しや残酷な事なんていくらでも出来る。それこそ魔法で洗脳とかね? でもしない、どうしてか分かるか?」


「分かんないよ……カイが優しいって事しか、私……分からないよ!!」


「いいや俺は優しくない。ただ俺が嫌なだけだ。ルリに復讐したとして、それで最後に何が残る? 達成感? それとも満足感か? もしかしたら性欲も満たせるかもしれない……だから? くっだらねえ!!」


 いきなりカイが大声で怒鳴ったからビクッとした。だから、おずおずとカイを見るとカイは大絶賛お怒り中だった。こんな真剣に怒ってる顔見た事ない。


「えっと……カイ?」


「そんな一時の下らない感情のために一生、嫌な気持ちが残るんだぞっ!! 大事な親友で、俺の恩人の女の子を傷つけて満足するとか、俺はそんな情けない男になるなんてゴメンだっ!! だからルリが、たっぷり反省するまで俺はそれを横でずっと見ていてやるっ!! ずっとだ!! 罰としては充分だろ? ど~よ、ルリは俺のワガママに一生付き合うんだ!? これが罰だ!! はい、それじゃ今度こそこの話はおしまいっ!!」


「カイ……ありがとう。それと最後にもう一度だけ……ごめんなさい。私、頑張るから、だから一生、私を見ててくれるよね?」


 そう言って私は上目遣いをしながらスマホのアプリを起動させた。カイはこの体勢に弱いって知ってたから、こうやって二人でマジックの練習した時も目を逸らしてたもんね? 変わらない、だから利用しちゃうね?


「ああ、勇者に二言は無い!! ずっと横で、傍で見ててやるよっ!!」


「うん……。あ・り・が・と!! カイ…………言質取ったからね?」





 目の前のさっきまで、しょんぼりしていたルリの表情がいきなり変わった。俺は何が起きたのか分からず困惑した顔でルリを見ると彼女の顔は正に喜色満面と言う感じで俺は、より混乱した。


「へ? ルリ?」


「だって私の事を、ずっーーーーと、一生、見ててくれるんだよね? 言ったよね? 私とずっと居てくれるんだよね?」


「は? いやいや、それは言葉の綾――――「勇者に二言は無いんだよね? あとこれ録音したから」


 ルリがスマホの録音アプリで録音したものを再生すると録音された俺の声が、ちゃんと流れた。な、何とかイイ話に持って行こうとしたらルリが豹変しやがった。どうやって理屈付けて許そうか考えてたのに、コイツ全然反省してねえじゃねえか!?


「ルリ、お前……反省するって――――「うん。わたし全然反省してないから~♪ 今日は早速、横で見ててくれないといけないんじゃないかな? 私の勇者さま?」


「ぐっ、ルリ、お前なぁ……」


「まだまだ反省するまで時間かかるから困っちゃうな~!! これからもよろしくね? カ~イ?」


 あ~あ。ま、だけど、これはこれで有りか……。どこか腑に落ちないけど、これで良い。俺達はこう言う関係で良いんだ……たぶん。





(これで、良いんだよね……カイ……)


 私は結局またカイに甘える事にした。いつかキチンと胸を張って謝れるようになるまで、こうやってお茶を濁して……でも期間は一生だから、いつかちゃんと言えるように……頑張るから。


「ふむ、それで蹴りは付いたのか? 瑠理香?」


 それで今カイは夕飯の買い出しに行って私はカイの部屋で待っている。実は私も今日は一緒にご飯を食べて行くように言われて、さっき締め出された絵梨花先輩と一緒に今日の事を話していた。


「はい、一応ですけど、でも結局はカイに甘える結果です。あと今回は勢いで告白しちゃって本当にすいませんでした!!」


「もう良いさ。どんな意味であろうとも吐いた唾は吞めないからな……さて、瑠理香、私は心にわだかまりが有ると、どうも上手く喋れないから教えてくれないか……その、快利の手作りのマフラーの使い心地はどうだった?」


 カイの手作りのマフラー?何の話だろう?私の困惑顔を見ると絵梨花は少し考えた後にカイの部屋の机の引き出しの一番下の奥のスペースを漁って何冊かの本を取り出した。


「あ、あの、そう言う本は……って、これ……確か前に来た時にカイが、ああ言う本を隠すのに使ってた本ですよね?」


 絵梨花先輩は、カイの所有しているエッチな本の真ん中に挟んでいた一冊を取り出した。それは『初心者の味方―手編みテクニック―【マフラー編】』と言う表紙の本だった。そしてそれを開くとメモ用紙が落ちて来た。


『ルリの今年クリスマスプレゼント、去年の手袋は編むのに時間がかかったからマフラーは計画的に編むべし』


「これが予想図だ。思い出したか? あいつが夏ごろからコツコツ作ってるから密かにお姉ちゃんへの誕生日プレゼントかと思ったら違っていてな。調べたら君へのプレゼントだと言うからキチンと作れたか心配で……ってどうした?」


「カイ……私ってバカだ……どこまでもバカだ」


 絵梨花先輩が言うには商店街の服屋には毛糸を買いに行ってたらしく、顔なじみの店だから使いやすい毛糸を取り寄せてもらったらしい。私が見たのはその時の後姿だった。既製品を買いに行ったんじゃ無かったんだ。夏から……私が辛く当たり出した時だったのに……。


「ただいま~!! 途中でユリ姉さん見つけたから一緒に帰って来た……よ?」


「今日はついに私が一品作るわよ……って、どうしたの二人揃って?」


「カ~イ~!! ごべんなぁざいごめんなさい……わだじぃわたしわだじぃわたし……ひっく、カイ……」 


 私はさっきまでの事を全部忘れてただひたすら謝った。泣きながらカイに抱き着いて心の底から謝った。感情が全然抑えられなくて感情がゴチャゴチャになって泣いて謝るしか出来なかった。


「あぁ、そう言う……バレたか。伝えなかった、そして言わなかった俺も悪い。ちゃんと言葉にしなきゃダメだったんだよ……俺たちは……思いは伝わる、分かってくれるなんて甘えだった……ゴメンなルリ。俺も今度は逃げないからな」


 私を優しく抱きしめながらカイは頭を撫でて落ち着くまでそうしてくれていた。夕ご飯の生姜焼きは美味しかったけど真っ赤に泣き腫らした私を見てカイがお母さんにお説教されてるのが申し訳なくて、でもカイが笑っていたから、だから私も精一杯笑った。そして私は一つの決意を固めた。





 あれから更に色々あって今日、一学期の終業式が終わった。つまり夏休みに突入だ。俺とルリはエリ姉さんの徹底指導で俺は学年で12位、ルリは赤点を回避して平均点まで戻せた。そして驚いたのは高校に来たルリはカラコンを外していた。


 さらに今までの学校でのギャルっぽい態度や言動は封印して昔のような喋り方に戻った。その変化にクラス中は驚いていたが俺としては昔のルリに戻っただけだから全然驚かなかった。

 式も終わり、その帰りに今日のテレビのトーク番組は生放送だから見て欲しいと言われた。もちろん俺は予約録画もしていたから完璧だった。


「それで、どうして私たちも見てるのよ?」


「せっかくの晴れ舞台だからね、姉さん達だってライブ行ったんだし応援しても罰当たらないでしょ?」


「ま、せっかくだ見ようユリ姉ぇ」


 最初はライブから始まり順調にトーク、そしてCDの宣伝をかけてのクイズ企画、その後やっと宣伝、アルバムに入ったそれぞれのソロ曲を解説して行く三人、そしてルリの番になった。


『今回はMIMIさんと同じく初のラブソング「MY HERO~私だけの勇者~」と言う中々珍しいタイトルですが、どうしてこのタイトルに? そして作詞もご自身でと、お聞きしましたが?』


『はい、これはある女の子の恋心を歌詞にしてます。気づいたら、このタイトルにしていました。強くて自分を守ってくれる人、自分だけの勇者、その憧れが恋になって行くそんな思いを込めました』


『その、モデルになった女の子は……まさかRUKAちゃん本人?』


『それは秘密……で~す。ふふっ』


 その後も三人へのインタビュー形式のCD宣伝は続いて最後の質問になった。最後の質問はラブソングにちなんで恋人にしたい異性のタイプ。ベタだねえ、な~んて構えていた。


『優しくて~包容力のある人で~す』


『自分と一緒にストイックに高め合える人です』


 MIMIとAYAがそれぞれ前にインタビューで答えた事の有るいつもの回答をする。これで最後にルリ、いやRUKAが『真面目で思いやりのある人』って答えて終わる。俺もそう思っていた。


『私の、私の好きな男性のタイプは私を全力で守ってくれる元勇者です!!』


「へ? いつもと答えが違う……」


 色々と頭が拒否反応を起こした上で現実逃避して出た答えがこれだった。そりゃね、告白されたし抱きつかれたし、中学からの知り合いだし意外とイケるんじゃね?とかは思ってましたよ……でもさ、こう来るなんて思わなかったよ俺だって!!


「いやいや、そこじゃないでしょ!! これ絶対あんたよ!!」


「芸能人はこう言う手で来るのか……おのれ……風美瑠理香、恐るべし」


 テレビに映ってるのは笑顔のRUKAだけど、あいつは内心ぜったいにドヤ顔してるに違いない。何となく分かる。ついこの前は言葉にしなきゃとか言ってて今度は内心が分かるとか言う。俺も案外いい加減なんだな……そう思って俺は言い合いをしてる姉さん二人をどう宥めるか考えながらテレビの中の歌姫の最高の笑顔を見ていた。

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