第4話 バカはヒーローになりたい②
それからの話はトントン拍子で進んでいった。
先ず始めに改めての挨拶から。
「改めて挨拶させてもらいましょう。
私は
○○家、当主。とか初めて聞いた。本当にそんな人がこの世いたんだ。それもこんな近所に。
なんだかちょっと感動する。
「【
挨拶のあとは俺の力の詳細を求められた。
なので、わかっている範囲で正直に答えた。
【察知】。色んなモノを察知出来る事。察知出来るモノは自分の意思で変えることができる事。範囲は世界中だけど、狭い範囲にする方法もあること。
【治癒】。色んな怪我を治せる事。だけど使ったことは殆ど無いこと。どんな怪我でも時間はかかるけど治せるらしいこと。
【変幻自在】。自分の体や他の人の体、普通に周りにある物も、何でも自由に変える事が出来ること。人を空気に変えたりも出来るらしく、出来ないことは無いらしいこと。
だけど、俺のイメージで力を使っているから、俺がバカで出来ないことが多いだろう事や、自信が無いことも話した。
全部を聞き終えた卯木乃羽さんは、少しだけ考えた後に暫くはこのお屋敷に寝泊まりすることや、力を使って出来ることを増やしたり、自信を付けることを優先してくれと頼んできた。
寝泊まりに関してだけはお断りさせてもらった。俺の家には仏壇があって、毎日手を合わせて父ちゃんたちに報告しなきゃいけないから。
最初は寝泊まりはこの屋敷でしてくれないと困る様な感じの事を言っていたんだけど、事情を説明したらすんなりと諦めてくれた。
困り事は俺が力をもっと上手く使えるようになってから話すことになり、取り敢えずの目標としては『人の性別を変える』事が出来るくらいにはなって欲しいらしい。
なんとそれが達成できるまでは、給料もくれるとまで言ってくれた。
だけど、給料をもらうヒーローって聞いたことがない。しかも、助ける人、困ってる人から貰うって変じゃないか?
だから、断った。
ハッキリと『いらない』と断りました。
だけど、俺が断ると卯木乃羽さんは困るらしい。お礼も含めていた話をしていたから、是非受け取ってほしいと頭まで下げられた。
でも、やっぱ給料をもらったり、お礼をもらったりするヒーローなんて、違和感しか感じなかった俺は、全部を断った。
頭を下げて、ちゃんとごめんなさいをした。
中々納得してくれない卯木乃羽さんを説得するのに、足りない頭を必死に動かして説得する。結局ナイスなアイデアは生まれて来ず、「いらない」「大丈夫」「貰いたくない」みたいな似たような言葉を並べただけだったけど・・・・・納得はしてくれたみたいだから問題はない、はず。
その日の話はそれで終了。
助けるための行動は受け入れてくれたし、俺としては万々歳。目標も決まったから、その目標に向かって力を鍛えるだけだ。
頑張っていこう。
これからの事を思い、心をウキウキとさせながら我が家に帰った。
時間も遅くなり、今日の活動は終了することにした。
体調だけは整えていないと、今後の活動に影響が出る。
食事とか睡眠とか大事なんだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
翌日。
取り敢えずヒーロー活動をするにもお金は必要。だけど、力の訓練とか、人助けをする時間とかあって、仕事までしている時間があるのか疑問が残る。
記憶力が無く、考える力も無い俺は、頑張った。頑張って思い出し、考えた。
ヒーローって働いていないよね?
働く暇があったらその分敵を探したり出来るだろう。訓練だって出来る。誰か他の人を助けることだって出来る。
働かず、時間を使うこと無くお金を稼いで、生活を心配したりせず、ただただ誰かのために行動する。
ヒーローになるには自分の時間を必要としちゃいけない。
でも、その方法が思い付かない。
お金を稼ぐだけなら今なら簡単だ。
パチンコに行けばいい。でも、パチンコをするにも時間が必要で・・・・・。
少しゆっくり考えよう。
今すぐお金を稼がなくたって、昨日と一昨日でパチンコで手に入れたお金がある。
社長に頂いた給料と退職金と言う餞別は残念だけど残ってはいないけど、でも、そのお金のお陰で【豪運】【察知】【治癒】に【変幻自在】を手に入れることが出来た。スゴくありがたい。
そうだ!何かお礼したらいいんじゃないだろうか?・・・・何か助けられるかな?でも、困っていたら助けるのは当たり前だから、お礼にはならない。
難しい・・・・。
ダメだ。
色々考えてるけど、俺の頭じゃいい考えなんてこれっぽっちも出てこない。
ただやりたいこととかやらなきゃいけないこととかは出てくるけど、解決方法は出てこない。ただ、悩むだけで時間がもったいない。
・・・・・父ちゃんや母ちゃん、姉ちゃんが居れば相談できるのに・・・。
出来ないこと、わからないことは考えたって仕方ない。出来ること、わかっていることをやっていこう。
先ずは卯木乃羽さん以外の助けを求めてる人を助けるんだ!
先に卯木乃羽さんの困ってることを解決したいけど、上手く力が使えてなくて助けになれないようだから、誰かを助けながらもっと力を上手く使えるようにならなきゃ。
早速助けに行くために【察知】を『半径5キロ以内にいる助けを求めてる人』で探す。
ん?何故か近くの人の反応が昨日より少ない。
何でだろうか?
昨日卯木乃羽さんのところに行く前は8つ反応があった。
移動していくともう少し増えたけど、今は4つしかない。卯木乃羽さんの家からも反応がない。
みんな移動したって事かな?
もっと遠くも察知範囲にいれたら出るけど、それはここからじゃスゴく遠いって事だ。よね?
最初は一つ一つ近いところから困っている人を助けて行こう。
◇◆◇◆◇◆◇◆
困っている人。その①。
仕事をしてなくてお金がない。
お金がないから移動もできないし、携帯電話も料金が払えてなくて使えない。だから、仕事探しも上手くいかない。
その最初の人に、『人助けをしてしている』と説明すると、何故か怒られた。声を大きくして『金があればいいんだ』と言われ、『助けたいなら金をくれ』と言われたので、10万円をあげた。
そのお金で携帯電話の料金を払って、仕事を探して、頑張ってほしい。
そんな事を言ったら喜んで出掛けていった。
よしよし。
1つ困り事を解決できた。
困っている人。その②。
その人は女の人で、その人もお金に困っていた。事情までは話してくれなかったけど、10万円を渡したらスゴく喜んでくれた。
ちょっと苦手な人だったけど、綺麗な人だった。
困っている人、その③。
その人は飲食店をやっている店長さんで、お店にお客さんが来なくて困っていた。これは解決方法がわからなくて、その店長さんにどうしたいかを聞いたら、もっと美味しい料理を作れるようになりたいと言われた。だけど、俺にはそれを叶えるためにどうしたらいいのかわからず、またいい解決方法が見付かったら来ることを約束した。スゴく店長さんは残念そうにしながら頷いてくれた。
そこで、丁度お昼の時間だったので、そのお店でご飯を食べさせてもらった。
普通に美味しいと思って、その事を店長さんに言ったけど、もっと美味しくしないとダメなんだと言っていた。
多めにお金を払ってそのお店を出た。
困っている人。その④。
この人に会うために歩きながら移動していると気がついた。
俺、全然、力、使ってない!
これじゃあ卯木乃羽さんを助けるのがもっと遅くなってしまう。
何か練習をしよう。
移動しているときだって何か出来るはず!
何が良いのかな?
あまり時間をかけて考えたところで、バカなんだから仕方ない。目標は性別を変えること。深く考えずに体を変化させていれば上達するだろうか?と言うことで練習を開始。
掌を確認しながら石に変化させていく。範囲は掌だけ。手の甲まで変化させないように気を付ける。
なかなか難しい。どうしても手全部が変化するイメージをしてしまう。
そうやって練習し、少し変化する所を少なく出来る様になったところで、目的地付近に辿り着いた。
目的の人物が居るであろう家。
さて、早速チャイムを鳴らし「ちょ~っと待て!」
ん?
「あれ?卯木乃羽さんの所の・・・・誰でしたっけ?」
「よ、よかった。やっと見つかった。」
よっぽど焦ったのか・・・・、息切れもしてるから走ったのかな?汗がすごいです。
「俺は卯木乃羽家で専属ボディーガードをしている
「えぇ。流石にバカな俺でも昨日会った人までは忘れてませんよ。・・・・・明日になったらヤバイかもしれませんけど・・・・。」
本当にバカなんで・・・・。
この人はボディーガードだったのか。
・・・・・ボディーガードってスーツ姿なんだな。まぁ、他の格好も想像できないけど。
それにしても、このボディーガードのおじ様は何の用事でここまで来たんだ?
「卯木乃羽さんが君を呼んでいる。ついてきてくれるか?」
「えっと、それは良いですけど。もう少し待ってください。今ここの人を助けに来たので「だからちょっと待て」・・・?」
「その人助けの件で話をしたいそうだ。君のためになる話で、人助けは取り敢えず中断してすぐに来てくれ」
えぇ?人助けよりも優先する用事?なにそれ?
「ほら、行くぞ。頼むから大人しく付いてきてくれ。」
むぅ。納得できないけど仕方ない。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「良く来ました。待っていましたよ。」
「どうしたんですか?」
昨日に続いての高級感溢れるお屋敷の一部屋。心臓に悪いから出来ればあまり来たくないんだけど。
「実は君が人を助けて廻っていると言う話を聞いてね。そのままの格好で。」
「?はい。そうですね。」
「・・・・理解できないようだね。」
ん?何を言いたいんだろうか?
まさか『人助け』がダメとか言うつもりだろうか?
「『誰かを助ける』。素晴らしいことだ。とても良いことだ。君みたいに誰もが良いことを考え、行動すれば、この世は素晴らしくなることだろう。
でもね。この世の中そんな人は極一部なんだ。圧倒的に少数派なんだよ。」
まぁ。それはバカだけどなんとなく分かっている。
街の中の人を見てもわかる。
それに、俺がテレビを見るのは難しい事だけど、今まで出会ってきた人たちが話すニュースの内容は酷いものが多い。
「君がその力を持ったことは、私にとっても、この世の中にとっても幸いだった。
普通の人間ならば、先ず間違いなく『自分のため』にその力を使っているだろう。そうなったとき、この世が果たしてどうなるのか。想像するのは難しい。だが、決して良い方向には向かわないだろうね。」
??何が言いたいのだろうか?
「えっと、俺、じゃない、僕も自分のために力を使っています、よ?俺、僕は『ヒーロー』になりたいから、そのために力を使おうって思てますから。」
「ん~。それは少し違うかな。普通、自分のためにってのは『自分の利益』のためだけで。誰かが『損』をして、自分が『得』をする。そんな行動が当たり前なんだ。
君の行動は確かに君の『得』になっているかもしれないけど、決定的に違うのは誰かが、そして、誰もが『得』をすることだ。」
うん。助けているんだから『得』をしてもらわないと困る。
「さっきも言ったけど、君の行動は素晴らしいことだ。
だけど、『浅はか』、と言わせてもらう。」
・・・・『浅はか』。
考えが足りない?それはバカだからわかってるつもりなんだけど・・・・。
「『想像力が足りていない』、『予想、想定が甘い』、とも言える。
君の今日の行動。あれは『得』をしたのはお金を渡された人たちだけ。君自身はどうしようもなく『損』をしているんだよ。わかるかい?」
俺が『損』をしている?
わからない。俺はあの人たちを助けた。助けることが出来たはずだ。それは俺にとって嬉しいことだ。ヒーローに一歩近づいた事なんだから、俺にとっても『得』になっているはずだ。
「俺は、僕は誰かを助けることで『得』をしている。さっきそう言いましたよね?お、僕もそうだと思うんですけど・・・・?」
「そうだね。君の気持ち的には『得』をしていると言って良いと思う。
でも、今日の君の行動は、助けられた本人以外が君へ良くない事、悪い事を考えるには十分な出来事なんだ。」
・・・・わからない。
卯木乃羽さんが何を言いたいのか、全然わからない。
俺は誰かを、皆を助けたい。
誰かは、皆は、誰かに助けられたい。
それを解決したいと思う俺が間違っている?
「君の今日の行動は悪い事を考える人間からすれば『お金をただでくれるバカな人』なんだ。今後、別段困っている訳ではないのに、君にお金を貰おうと沢山の人が来るだろう。
それに、残念ながら今日君があげたお金を使って遊んでいる人もいる。その人もまた、お金を貰おうとするだろうね。」
「え??」
俺があげたお金で遊んでいる・・・?
それって・・・・。
「俺が今日したことは意味がない?」
あのおじさんも、あの女の人も?
「ふむ。どうやら、落胆させてしまったようだけど、話を続けるよ?
今日の君の行動の結果。
先ずは男性、あれは君のお金でギャンブルをして今現在も遊んでいるようだ。そのお金が無くなったとき、また君へお金を貰いに来る確率は高いと言える。
女性の方はどうやら遊びで肌を重ねた結果、望んでいない子供を妊娠した様で、その胎児を中絶させるためにお金を使うらしい。」
ぎゃ、ギャンブル?お腹の子を中絶、殺・・・す?
「ハッキリ言うよ。
男性に関しては全くと言って良い程に意味の無い事を君はした。」
『意味の無い』事・・・・。
「一方女性に関しては、考え方にもよるけど、『良いこと』だったと私は思う。
中絶自体はあまり誉められる行為ではないのは確かだけど、『望まれない子供』は多くの者を不幸にする場合がほとんどだ。母親にとっても、父親にとっても、何より生まれてくる子供にとっても不幸となる可能性が強い。
それを事前に止めたことは私は良いことだったと思う。」
・・・子供を殺したことが、良いこと?
この人はいったい何を言ってるんだ???
「落ち込んでいるところ悪いが、今君が悩むべきなのは、悔やむべき事はこの事じゃない。
君が悔やみ、改めるべき事は誰もが君を君だと、『澤田善吉』だと簡単にわかる状態で行動したことだ。
悪い人間に簡単に見つかり、君は望まない事をやらされる事になる。
榊くんのお陰で最悪は間逃れたことが幸いだった。」
もう、何が何やら・・・・・。
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