第15話 眼鏡とポニーテール以上に、巫女服に合う組み合わせってある? 1/2

 三学期の始業式が終わった後、我が家にやって来た二原にはらさんとマサ。


 ちょっとした行き違いから、一時的に混乱を呈したけれど。


 最終的には……俺の許嫁が、綿苗わたなえ結花ゆうか和泉いずみゆうなだってこととか。

 俺と結花の馴れ初めは、親同士が勝手に決めた結婚話なんだとか。



 概ねの事情は、マサに伝え終わった。



「はぁー……なるほどなぁ。学校ではお堅い綿苗さんが、家では明るい美少女で。しかも、声優の和泉ゆうなちゃんでもあって。そんな綿苗さんと遊一ゆういちは、ある日親同士が決めた結婚話から許嫁関係になって。今では同棲生活を送ってる……と」



 俺たちの説明を、言葉に出して反芻したかと思うと。


 ――マサは俺の襟元を掴んで、ガクガク揺すりはじめた。



「なんだ、そのギャルゲーの設定みたいな話は!? 現実は小説より奇なりっつったって、限度があるだろ限度が!」

「……そう思うよな。俺も逆の立場なら、そう言うと思う」



 身体を前後に揺らされながら、俺は悟りを開いた人みたいな気持ちになる。


 改めて考えても、非現実的で非常識な話だけど……現実なんだから仕方ない。



「まま、倉井くらい。それくらいにしときなってぇ。佐方さかたをシェイクしたとこで、状況が変わるわけじゃないしさ?」

「……まぁ、そりゃあそうなんだけどよ」



 二原さんにそう言われると、マサは俺の襟元から手を放す。

 そして、深くため息を吐いてから――ぼやくように言った。



「水くさすぎんだよ、遊一は。ややこしい経緯があったのは分かったけどよ。二原も知ってたんなら、俺にも早く教えてくれりゃよかったのに」


「……それについては、ごめん。『アリステ』ガチ勢のマサだからこそ、俺が和泉ゆうなと婚約してるって――言い出しづらかった」


「馬鹿だな、お前は」



 吐き捨てるようにそう言うと――マサは俺の頭を軽くはたく。


 それからマサは、まっすぐに拳を突き出すと。

 ……こつんと、俺の胸に当てた。



「もっと友達を信じろ。お前が誰と付き合おうが、どんな黒歴史を作ろうが、俺には関係ないから。そんな簡単に縁が切れるほど、浅い関係じゃねーだろ俺たちは?」

「……そうだな。本当にごめんな、マサ」



 そう言って俺も、まっすぐに拳を突き出して――こつんと、マサの胸に当てた。



「これからはもう、隠し事はしない」

「当たり前だっつーの。馬鹿」



 ぶっきらぼうに言いながらも、嬉しそうに笑ってくれるマサ。

 そんなマサを見て、なんだか俺まで頬が緩んでしまう。


 そんな様子を見ていた結花は、パチパチと拍手をしはじめる。



「いいね、男同士の友情……すっごく、いい! 見てるこっちまで、もえるなぁー」


「……今、萌えるって言った? ひょっとしてBL的なこと、言ってる?」


「……チガウヨー? ファイヤー的な意味の、もえるダヨー?」



 図星か。


 結花がそういう方面のジャンルまで、カバーしてるのは知ってるけどね?

 さすがに俺をBL時空に巻き込むのはやめようか?



「しっかし……意外だなぁ。綿苗さんも、割とガチなオタクなのか」


 あらぬことで目をキラキラさせた結花を見て、マサは呟いた。

 それに対して、結花はおどおどしながらも、答える。



「う……うん。『五分割された許嫁』も好きだし、今期のアニメもそれなりに見てるし。BLも……ちょびっと。と、とにかくね? マンガもアニメも、私――大好きなのっ!!」


「んで、うちは特撮番組が、めっちゃ好き! ちなみに今一番熱いのは、最終決戦を目前に控えた『花見軍団マンカイジャー』!!」



 なんか流れに乗じて、二原さんまでカミングアウトしてきた。


 そんな彼女の横顔を見ながら……何度か語ってくれた二原さんの信条を、思い出す。



 たとえ友達でも、冗談だったとしても、愛する特撮番組を馬鹿にされるのは許せない。

 だから、特撮も友達も大事にするために――自分の趣味は秘密にする。



 そんな信念を持つ二原さんがカミングアウトしたのは、マサが人の推しを馬鹿にするような奴じゃないって、信用してるからなんだと思う。


 でも……それだけじゃなくって。結花が一歩を踏み出したからこそ。


 二原さんも一歩踏み出す勇気が湧いたんじゃないかって――そんな気がするんだ。



「おー、マジかよ! 二人とも熱量たけぇな!! ちなみに俺は――『ラブアイドルドリーム! アリスステージ☆』を狂おしいほど愛してるぜ! そして永遠に、らんむ様を愛し続けてみせる!!」



 そしてマサは、二人のカミングアウトに引くことなんて、一切なかった。



 お互いがお互いの『好き』を認め合って、心から打ち解ける。


 簡単なようで難しい、そんなことを――俺たち四人は、ようやくできたんだと思う。



「そうだ、倉井くんはらんむ先輩推しなんだもんねー。パフォーマンスも、普段の立ち振る舞いも、らんむ先輩って本当に格好いいもんねっ!!」


「――!! そ、そうか……綿苗さん、らんむ先輩と『ゆら革』組んでるってことになるのか……やべぇな。ち、ちなみにらんむ様のサインって、もらえないんですかね!?」


「そういうのは、だめでーす。っていうか、私も声優なんですけどー? 私をスルーしてらんむ先輩のサインだけねだるとか、失礼じゃんよ!!」


「まーまー、ゆうちゃん。倉井は推しが違うけど。結ちゃんを一途に応援してきたファンなら、そこにいるっしょ?」


「……ふへへっ! ゆうくん、大好きっ!!」


「ちょっ……結花! 駄目だから!! テンション上がったからって、人前で抱きついてくるのは――」


「おい遊一……友達を信じろとは、言ったけどよ? 目の前でいちゃラブカップルぶりを見せつけていいとは、言ってねぇからな! このリア充めぇぇぇぇ!!」



 そんな感じで、最終的には俺がマサからヘッドロックを掛けられる羽目になったけど。


 二原さんやマサから、ちょっとからかわれたりもしたけど。



 中三のときとは違って、みんなで――笑って話すことが、できたんだ。

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