episode202 ビルゲリー
それからしばらく遊んでいると昼になったので、一度全員で集まって昼食を摂ることとなった。
今はカジノ内にあるレストランに全員が集まったところだ。
「さて、全員集まったな」
「だね」
「リメット、シオンとライカは大人しくしていたか?」
「ああ。金は没収してあたしが持っていたからな。何もできないことが分かっていてか、だいぶ大人しかったぞ」
「そうか」
お金を持っていなければ遊ぶこともできないからな。それは良い判断だ。
「そちらはどうだったんだ?」
「十五万ほど勝ったぞ」
「また勝ったのか。よくそんなに勝てるな」
「慎重にやったからな。まあ安全にやれば大負けすることは無いということだ」
大勝ちしようなどとは考えていないからな。負けないようにゲームをしていたら、勝手に増えていただけだ。
「その割には結構稼いでいないか?」
「まあレートが高いからな」
裏カジノなだけあって、かなりレートが高いからな。少しの勝ちの積み重ねでもそれなりの額になった。
「レートが高いのはこのレストランもだけどね」
ここでライカはそう言ってメニューをこちらに見せて来る。
「確かに高いが、高級料理なようだし、割と妥当ではないか?」
確認すると、メニューはどれも値段が高かったが、高級料理なので値段は妥当なように思えた。
「ねえ、どれ頼んでも良いの?」
「ああ、構わないぞ。ひとまず、お前達から選ぶと良い」
「分かったよ」
そして、シオンとライカは注文する料理を選び始める。
「失礼します。少しよろしいでしょうか?」
と、注文する料理を選んでいると、一人の従業員の男がこちらに話し掛けて来た。
「む、何だ?」
「ルアック様より伝言です。ビルゲリーが来店致しました」
「そうか」
どうやら、俺達の目的であるビルゲリーが来店したらしい。
「昼食にしたいので、待つことはできないか?」
だが、これから昼食を摂るところなので、できれば待って欲しいところだ。
なので、少しそのことを相談してみることにする。
「……少々お待ちください」
従業員の男は通信用の魔法道具を使って連絡を取る。
「……分かりました」
話はすぐに済んだようで、確認が終わったところで通信を切った。
「ルアック様に確認致しましたが、問題無いとのことです。昼食後に一階の受付にいらしてください」
「分かった」
「それでは、ごゆっくりどうぞ」
そして、それだけ言い残すと、従業員の男は業務に戻って行った。
「エリュ以外は決まったよ。エリュはどれにするの?」
話が終わったのを見計らって、シオンがメニューを渡して来る。
どうやら、俺が話をしている間に他のメンバーは注文が決まったらしい。
「話は聞いていたか?」
「うん。昼食後に一階の受付に行けば良いんだよね?」
「聞いていたのなら良い」
「それで、どれにするの?」
「そうだな……ボルカノドラゴンのステーキにするか」
「分かったよ。それじゃあ頼んでおくね」
そして、その後は五人でのんびりと昼食を楽しんだ。
昼食が済んだところで、俺達は言われた通りに一階の受付に向かった。
「来ましたね」
受付に向かうと、そこにはルアックがいた。
「どうやら、当カジノで遊んでいただけたようですね」
「ああ。まあ勝たせてもらったがな」
彼には悪いが、お金を落とすどころか十五万ほど勝たせてもらった。
とは言え、正々堂々とゲームをした結果だからな。それは仕方が無いだろう。
「そのようですね」
「……思ったよりも反応が薄いな」
「あなたは客同士で行うゲームで遊んでいましたね? あなたが勝ったということは、負けた方がいるということです。私からするとお金を落とす者が変わっただけの話なので、何の問題もありません」
「なるほどな」
カジノ側からすると、客同士で行うゲームであれば遊んでくれればどう転がっても良かったということか。
「ところで、何でエリュは客同士で行うゲームで遊んだの?」
「ディーラーはその手のプロだぞ? 俺のような素人だと分が悪いし、挑むのは愚策というものだろう?」
ディーラーは教育されていて、それなりにカジノゲームの実力があるようだったからな。
素人の俺が挑んでも巻き上げられるだけの可能性があるので、ディーラーに挑むのは愚策だろう。
「それで、ビルゲリーはどこにいるんだ?」
先程のゲームに関する話をしていても仕方が無いので、そろそろ本題であるビルゲリーについての話に入ることにする。
「それは今からご案内致します。こちらへどうぞ」
そして、俺達はルアックの案内で一階の奥に向かう。
「こちらになります」
案内されたテーブルでは一人の中太りした男がルーレットで遊んでいた。このテーブルに他の客はいないので、どうやらこのテーブルを貸し切ってゲームをしているらしい。
また、後ろにいる二人の女は護衛のようで、武器として剣を装備していた。
もちろん、その二人はゲームには参加していない。
「……何だ? 今はワシがゲームをしているところだぞ? 邪魔をするでない!」
男は邪魔をされたことが気に障ったのか、不機嫌そうにしながら手元にあった金貨をルアックに向けて投げ付けた。
「おや、そんなに気に障りましたか? 短気は損気ですよ? もう少し抑えてはどうですか?」
だが、ルアックはそれを人差し指と中指で挟んで受け止めると、それをそのまま親指で弾いて男に返した。
「わざわざこのテーブルを貸し切っているのだぞ? 邪魔をされれば気に障るわ!」
それを聞いた男は声を荒げながらテーブルをバンと叩く。
(面倒な奴だな)
ルアックが面倒な客だと言っていたが、これを見るとそれにも納得だった。
「一応聞くが、こいつがビルゲリーか?」
聞くまでもなく彼がビルゲリーだろうが、念のためにルアックに確認を取る。
「ええ。言うまでもないとは思いますが、彼があなた方の探しているビルゲリーです」
「……そうか」
「何だ、お前は?」
ここでビルゲリーはこちらに視線を向けて来る。
「おや、先程お話したことを聞いていなかったのですか?」
「……ああ。このワシに会いたいと言っていた奴らか」
それを聞いたビルゲリーは渋々としながらも、こちらを向いて話を聞こうとしていた。
どうやら、ルアックが話を付けておいてくれたらしい。
「それで、このワシに何の用だ?」
「お前の持っている奴隷の一人に興味があってな。そのことで話をしに来た」
「何だその口の利き方は! ワシを誰だと思っている!」
ビルゲリーは声を上げて握った拳でテーブルを勢い良く叩くと、そこにあったグラスを手に取って、その中身を投げるようにしてこちらに掛けて来た。
「それはこちらのセリフだ。随分と失礼な奴だな」
「何っ!?」
それを見たビルゲリーは驚いた様子で俺が持っている丸い氷塊を見ていた。
ビルゲリーは俺に飲み物を掛けたはずだったが、俺の服は濡れていないし、そもそも液体が散ってすらいなかった。
そう、俺の持っているこの氷塊はビルゲリーが掛けて来たグラスの中身だ。
グラスの中身の液体が飛び散ってすらいないのは、俺が液体を風魔法で集めて、氷魔法で凍らせたからだ。
「……まあ良い。こちらから取引を申し込むわけだからな。それに免じて許してやろう」
俺は風魔法でゆっくりと氷塊を運んで、それをグラスの中に戻す。
すると、その氷塊が溶けて液体に戻った。
「ふむ……氷塊に火魔法の術式を仕込んでおいて、風魔法を使って運ぶとは……。かなり精密な魔力のコントロールができるようですね」
「まあな」
そこはフェリエに鍛えられたからな。魔力のコントロールには自信がある。
「さて、話に戻ろうか。お前の持っているとある奴隷に用があるのだが、確認させてもらっても良いか?」
無駄話をしている場合ではないので、さっさと本題に入ることにする。
「……お前は口の利き方を知らんのか?」
だが、ビルゲリーは俺の口調に不満があったらしく、そのことで文句を言って来た。
「悪いが、そんなものは習っていない。口調はあまり気にしないでくれ」
「ワシのことを舐めているのか?」
「……それぐらいは許容してあげてはどうですか? 話が進みませんよ?」
それを見兼ねたルアックがビルゲリーを宥めようとする。
「チッ……まあ良い。ワシの持つ奴隷だったか? 誰に用がある?」
すると、それを受けてか、こちらの話を聞いてくれた。
「リコットという人物に用がある」
「リコット……?」
「リコット・レイターだ。心当たりはあるだろう?」
「……さあな。悪いが一々一人一人の名前まで覚えていないものでな。分からんな」
リコットについてのことを尋ねるが、ビルゲリーは覚えていないと言い出した。
(本当に覚えていないようだな)
見たところ、嘘を吐いてはいなさそうなので、本当に覚えていないようだった。
「そうか。では、確認しておいてくれるか?」
「何故ワシがそんな面倒なことをしなければならないのだ?」
「面倒ならばメイドにでも確認させれば良いだろう?」
そんなことはメイドにやらせれば良いだけだからな。それは言い訳にはならない。
「その調査が無駄骨になったらどうしてくれるんだ? 手間賃を出してくれるのか?」
「安心しろ、無駄骨にはならない」
彼が奴隷を売却したことがないのは確認済みだからな。リコットは確実にビルゲリーが所有している奴隷の中にはずだ。
「そもそも、何故そんなことを調べなければならんのだ?」
「取引をするにしても、取引対象がいるかどうかの確認が必要だからな。そんなに面倒なのであれば、俺が直接お前の家に行って確認してやろうか?」
「……仕方が無い。そこまで言うのなら調べてやろう」
「ああ。では、確認が済み次第こちらに連絡してくれるか?」
「そう言われても、お前達の連絡先など知らんのだが?」
「む、言われてみればそうだな」
彼は俺達のことを知らないようだからな。手間ではあるが、連絡方法を教えておく必要がある。
「私が間に入りましょうか?」
それを聞いたルアックは自身が仲介することを提案して来る。
「それが良さそうだな。では、頼めるか?」
そうしてくれると、ビルゲリーにこちらのことを教えなくても済むので、その提案に乗ることにした。
「ええ。ビルゲリー様もそれで構いませんね?」
「ワシもそれで構わんぞ」
「それでは、私が間に入って連絡をしましょう」
そして、ビルゲリーもそれに同意して、ルアックが間を取り持つことに決定した。
「そちらへの連絡はどうすれば良い?」
「直接ここを訪れてくだされば対応します」
「分かった」
通信用の魔法道具で連絡できれば良いのだが、わざわざ用意するのも面倒だからな。それで行くことにする。
「では、俺達はもう帰らせてもらおう」
「ええ。またのご利用をお待ちしております」
そして、ビルゲリーとの接触に成功した俺達は倉庫に戻った。
その日の夜、今日も俺達は例の倉庫で過ごしていた。
「キーラ、今日も大人しくしていたようだな。偉いぞ」
「キィッ♪」
言うことを聞いて倉庫内で大人しくしていたキーラを褒めて、優しくその頭を撫でる。
「前から思っていたが、かなり懐いているよな」
その様子を見たリメットが俺に向けてそんなことを言う。
「エリサが言うには、キーラは飼っている魔物の中で一番懐いているらしいからな。従順で大人しいし、危害を加えようとしない限りは暴れたりしないぞ」
「そうなのか」
「リメットも撫でてみるか?」
「そうだな……折角なら……」
「今よろしいでしょうか?」
「む?」
と、ここでリメットの返答を切るようにして、外で待機している兵士が扉越しに話し掛けて来た。
「俺が出よう」
それにはアデュークが対応した。アデュークは扉を開けて、兵士と話をする。
「何だ?」
「彼があなた方に話があるとのことです」
そして、兵士の後ろから現れたのは一人の男だった。
「……ルアックの使いか」
その男は裏カジノの従業員の制服を着ているので、彼はルアックの使いのようだった。
どうやら、ビルゲリーから何かしらの連絡があったらしい。
「はい、そうです」
「言伝の内容は?」
「ビルゲリーからの連絡がありました。所有している奴隷の中にリコット・レイターがいることを確認できたとのことです」
言伝の内容は思った通りリコットに関してのことだった。
「そうか。では、ビルゲリーにいつ面会できるか聞いてくれるか?」
「分かりました。ルアック様に伝えておきます」
「ああ。頼んだぞ」
「それでは、失礼します」
そして、言伝を伝え終わったところで、ルアックの使いの男は帰って行った。
「……良かったな、リメット。妹は確実に近くにいるぞ」
「……ああ、そうだな。…………」
それを聞いたリメットは今までのことを想ってか、静かに回想に
「キィッ!」
「おわっ!?」
そこにキーラが飛び付いて、リメットに頬擦りする。
「何だよ、くすぐったいな……」
リメットはそう言いながらキーラを優しく撫でる。
「……先に休むか?」
「ああ、そうさせてもらう」
リメットは衝立の裏に行って寝巻に着替え始める。
「俺達も休むか。アデューク、ライカ、見張りを頼む」
「ああ。時間になったら起こそう」
そして、俺とシオンもそれに続いて寝巻に着替えてから眠りに就いた。
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