第4章閑話 神域にて佇む者4

 神域にて佇むマキナはいつものように地上を映した魔力空間を展開して、その様子を確認していた。


「大規模討伐戦は無事に終わりましたね」


 多くの冒険者が参加した大規模討伐戦だったが、被害は『強者と集いし者ストロングアーミー』の一団が全滅した程度だったので、ほとんど被害無く無事に終えることができた。


「彼らの方はかなりの強敵でしたが、何とか無事に倒すことができましたね」


 悪魔に加えてBランクからAランク推奨の霧の領域の魔物もいたが、エリュ達は何とか無事に討伐を終えることができた。


「それぞれが奮闘したことは間違い無いですが、やはりレーネリアの功績が大きいですね」


 もちろん、この結果はそれぞれが全力を出して戦ったことによって得られたものだが、最も大きかったのはレーネリアの存在だった。

 彼女の戦闘能力は非常に高く、彼女がいなければ対処できなかった可能性が高い。


「戦闘用ゴーレムの二体もかなり活躍しましたね」


 それに加えて戦闘用ゴーレムであるスノーホワイトとフードレッドの活躍も大きかった。

 主な活躍は悪魔を足止めしたことで、彼女達自身が倒した魔物はいないが、彼女達が時間を稼いでくれたおかげで他のメンバーは自分の相手に集中することができたので、彼女達の功績は大きい。


「格上の相手なので、本来は挑むべき相手ではありませんでしたが、今回は状況が状況なだけに戦わざるを得なかったようですね」


 今回の相手は格上で本来であれば避けるべき相手だったが、状況的に戦わざるを得なかった。

 退こうとしたところでそう簡単には逃がしてくれないし、対抗できる冒険者もいないので援軍を求めることもできない。

 下手に退いても被害を拡大させるだけだったので、今回の選択は適切だったと言える。


「一つ言うことがあるとするなら、キーラも戦闘に参加させた方が良かったですね」


 普段は騎乗用として利用しているが、ミストグリフォンはBランク推奨の魔物なので戦力としては申し分無い。

 悪魔やファントムオウルはともかく、他の三体であれば十分に相手することが可能だったので、キーラも戦闘に加えるべきだったと言える。


「騎乗用としてしか利用したことがなかったせいか、騎乗用であると思考が固定されてそこまで考えが回らなかったようですね。余裕の無い状況だったとは言え、もう少し考えるべきだったのかもしれませんね」


 余裕の無い状況であまり考える余裕が無かったのは確かだが、キーラも戦闘に参加させておけば少しは楽になったと思われるので、やはりこの点は少し失敗だったと言える。


「今回はかなり無理をすることになりましたが、そのおかげで大きく成長することができたようですね」


 通常であれば慎重な彼らが格上の相手に挑むようなことは無いので、今回のように格上の相手をする機会はほとんど無い。

 あったとしても浮遊大陸のときのように実力者の付き添いありで安全な状況を作った上での実戦になる。


 しかし、今回はそのような保険は無く、勝てなければ確実に誰かが犠牲になるという状況だった。

 このような後の無い状況であれば否が応でも持て得る力の全てを以てして戦わざるを得ないので、普段の余裕のある戦いでは発揮できないような力が発揮されることもある。


 実際エリュとシオンは今回の戦いで魔力領域を展開しながら戦うやり方を身に付けることができた。

 他にもそれぞれで得られたものがあり、今回の実戦経験は非常に大きなものとなった。


「…………」


 ここでマキナは二人の観察を切り上げて、魔力空間に別の場所を映す。


「この後はワイバスの街に戻ってしばらくはゆっくりするつもりのようですが、そうは行きそうにないようですね」


 そして、その街の様子を見て彼らに安息が訪れるのはまだ先になると確信する。


「三年前のとある出来事、いえ、あれからもう少し時間が経っているので三年半前ですね。それが今大きく動き出そうとしています」


 三年半前に起きたとある出来事。しばらく動きが無かったが、それがもうすぐ大きく動き出そうとしていた。


「それに対して彼らがどう動きどのような結末を迎えるのかは分かりませんが、私はただそれを見守るだけです」


 そして、最後にそれだけ言うと、展開していた魔力空間を閉じた。

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