episode67 修理費
街に戻ったところで、依頼の報告のために冒険者ギルドへと向かった。
もちろん、先に解体所でレッサーワイバーンの死体を査定してもらってからだ。
「もう終わったのですか?」
「ああ。これが討伐証明証だ」
解体所で受け取っていた討伐証明証をエルナに渡す。
「少々お待ちください」
そう言うと、カウンターの下から依頼の書かれた紙を取り出して、そこに何かを書き込み始めた。
そして、書き終えたところでそれを後方にある棚にしまった。
「これで依頼は完了となります。お疲れ様でした」
これで無事に依頼は完了だ。
……と言いたいところだが、一つ肝心なことが忘れられている。
「報酬をまだ受け取っていないのだが?」
そう、依頼の報酬をまだ受け取っていないのだ。普通ならここで渡されるはずなのだが、まだ渡されていない。
「報酬は全額ルミナの店の修理費に充てるので、直接お渡しする分はありません」
「む……」
そう言えば、アリナと喧嘩したときに店のニ階を壊してしまっていたな。
壊してしまったのは俺とアリナなので、それの修理に充てられるというのは分かるのだが……。
「流石に全額持って行かれると厳しいのだが」
三人がレグレットに行っている間は俺とシオンだけでワイバスに留まるので、そのためのお金は必要だ。
「そう言うと思ってこれを用意しておきました」
そう言ってエルナが渡して来たのは一冊の本だった。
「これは?」
「野草について書かれた本です。食用になるものについても書かれているので、森に行って探してみてはどうですか?」
「…………」
俺は渡された本を投げ付けるようにして突き返す。
「良いのですか? 餓死しても知りませんよ?」
「エリサ、金を少し貸してくれないか?」
エルナの言うことを無視して、エリサにお金の貸し出しを頼む。
「ええ、良いわよ。後で適当に出してあげるわ」
「助かる」
とりあえず、資金面はこれで問題無さそうだ。
「さて、依頼の報告は終わったし行きましょうか。……と思ったら彼女が来たみたいね」
「む?」
直後、何者かが扉を開けて冒険者ギルドに入って来た。
「一か月振りね、エリュ、シオン」
冒険者ギルドに入って来たのはルミナだった。そのまま俺達に駆け寄って来る。
「ああ、そうだな」
「久しぶりだね、ルミナさん」
「元気にしてた?」
「ああ」
「うん」
色々とあったが、何だ
「と言うか、俺達が帰って来ていたことを知っていたのか?」
「あなた達が依頼を受けたときにエルナから連絡を受けたわ」
「なるほどな」
それで、俺達が帰ってきたことを知っていたのか。
「ルミナ、二人から回収しておいた修理費です」
ここでエルナが俺達から回収しておいた店の修理費をルミナに渡す。
「あら、修理費なんて別に良いのに」
そう言って渡されたお金をそのまま俺に渡して来る。
「ルミナ、それは甘やかしすぎです」
「大した金額じゃないし、別に良いわよ」
「そういう問題ではありません。ルミナはそういうところが甘すぎます!」
そして、二人が軽く口論になる。
「ならば、俺達で必要な分だけ受け取って、残りを修理費に充てるということでどうだ?」
このままだと本当に喧嘩になりそうなので、俺から一つ提案をする。
俺としても店の修理費を払わないわけにもいかないからな。このぐらいの提案が妥当だろう。
「分かったわ。それじゃあ半分だけ受け取るわね」
「ああ、そうしてくれ」
そして、ルミナに硬貨の入った袋を渡すと、袋をひっくり返してその中身をカウンターの上に出した。
「結構あるわね」
「結構どころかかなりあるな」
「うわっ!? こんなにあったの!?」
確認すると全部で三百万セルトもあった。
思えば、レッサーワイバーン一体で三十万セルト近くするので、そのぐらいの金額が妥当か。
「それじゃあ半分の百五十万セルトを貰っておくわね」
「ああ」
そして、半分である百五十万セルトを取ると、残ったお金を袋に戻して返して来た。
「中々の報酬だけど、何の依頼を受けたの?」
「レッサーワイバーンの討伐だ」
「レッサーワイバーンの討伐って……大丈夫だった? 怪我は無い?」
「ああ」
「ボク達は大丈夫だよ」
結局、無傷で倒すことができたからな。特に怪我はしていない。
「そう、それなら良いわ。それとエリサ、二人を預かっていてくれてありがとう」
「別に大したことはしていないわ。気にしないで」
ここでエリサも会話に加わる。
「それと、二人に色々と教えてあげたのはエリサかしら?」
「いえ、教えたのは私じゃないわ」
「じゃあアーミラかアデュークかしら?」
「アタシじゃないよ」
「俺でもないぞ」
「そうなのね。直接お礼をしてあげたかったけど、本人がいないんじゃ仕方が無いわね」
それを聞いたルミナは少し残念そうにしているようだった。できれば、直接お礼がしたかったのだろう。
それはそうと、ここで聞きたいことが一つ。
「二人のことも知っているのか?」
二人というのは、もちろんアーミラとアデュークのことだ。
「ええ、もちろん知っているわよ。時々街に来るし、注文も受けたことがあるから何度も会っているわ」
「そうだったのか」
てっきり面識は無いものだと思っていたが、そうでは無かったようだ。
「それでエリサ、二人はレッサーワイバーンを無傷で倒せるほどにまで成長したみたいだけど、何を教えてあげたの?」
「大したことはしていないわ。基本である魔力のコントロールの基礎を徹底的に学ばせただけよ。一応、実戦向けの訓練も多少はしたわね」
エリサの言う通り、俺達は魔力のコントロールの練習を徹底的にしていただけだ。
……まあその「徹底的」がこれでもかと言うほどの厳しい内容だったわけだが。
「と言うことは、もしかして今回が初の実戦だったのかしら?」
「ええ、そうよ」
一か月間も基地に籠っていたからな。今回が初の実戦だ。
まあ籠っていたと言うより、外には強力な魔物がいるので出られなかったと言うのが正しいのかもしれないが。
「色々と話をしたいところだけど、積もる話は後にしましょうか。それじゃあ全員で店に行くわよ」
「……私達もかしら?」
「ええ、折角だからあなた達も来ると良いわ。それじゃあ付いて来て」
そう言うと、ルミナは足早に出入り口へと向かって行く。
「それじゃあ私達も行きましょうか」
「だね」
それにエリサとアーミラが続く。
「用は無いし、行く必要が無いと思うが?」
だが、アデュークは乗り気では無いようだ。
「あら、そうかしら?」
「……ルミナに何か用があるのか?」
「教えてくれるかどうかは別として、彼女に聞けばレグレットのことが分かるでしょう?」
「それもそうか」
それを聞いて納得した様子で付いて行く。
「俺達も行くぞ」
「うん」
そして、ルミナの後を追って店へと向かった。
店に入ったところで、ニ階のリビングへと向かった。
ニ階は俺とアリナの喧嘩でほとんどの物が壊れて滅茶苦茶になっていたが、すっかり元通りになっていた。
「適当なところに座って。折角だから昼食を用意するわね」
時刻を確認すると、今の時刻は昼前だった。今から昼食を作ればちょうど良い時間になりそうだ。
「ミィナ、リーサ、ちょっと良いかしら?」
ここでルミナが通信用の魔法道具を使って、部屋にいると思われるミィナとリーサを呼び出す。
「はーい」
「何?」
そして、少ししたところで、呼ばれた二人が廊下から部屋に入って来た。
「……って、エリュにシオン!? 帰って来てたの!?」
俺達を見たミィナが驚いた様子で声を上げる。
「ああ、つい先程な」
「さっき帰ったよー」
ソファーに深く座ってくつろぎながら答える。
「ふーん……帰っていたのね」
それに対して、リーサはあまり関心が無さそうだ。
「リーサ、ちょっと冷たいよ! もっと歓迎してあげなよ!」
「ただ二人が帰って来ただけじゃない。全く……またうるさくなりそうね」
「……うるさくなりそうで悪かったな」
何と言うか、リーサは相変わらずだな。
「ちょっとリーサ! 二人が行った後は、あの二人大丈夫かしら、とか言って心配してたじゃない!」
「そうなのか?」
「ミィナは余計なことを言わないで!」
声を上げたリーサがミィナの頭を掴む。
「痛い! ちょっと止めて!」
ミィナは何とか引き離そうとしているが、魔力強化の心得があるリーサの手を引き離すことはできない。
「放してやったらどうだ?」
仕方が無いので俺が引き離してやることにした。
俺はリーサの手を掴んで、無理矢理引き剥がす。
「ちょっと、痛いじゃない!」
「すぐに放さないからだろ」
そう言いつつソファーに座り直す。
「何よ! 悪い?」
リーサは腰に両手の甲を当ててこちらを見下ろし、威圧するように言って来る。
「それとだが、もう少し素直になってみたらどうだ?」
「何の話よ?」
「心配してくれていたのだろう? 悪かったな、心配掛けて」
立ち上がってからリーサの頭にそっと手を乗せて優しく撫でる。
「な、なな……何よ! 別に心配したりなんかしていないわよ!」
リーサは叫ぶようにそう言うと、顔を赤くしながら部屋を飛び出して行ってしまった。
「リーサ、どこに行くのよ! 戻って来なさい」
ルミナが呼び戻そうとするが、それが聞こえていなかったらしく、戻って来る気配は無かった。
足音や扉の開閉音から察するに、自分の部屋に入って行ったようだ。
「ええっと……あたしが呼び戻して来ようか?」
「いえ、少し待ってからで良いわ」
まあ今呼びに行っても戻って来そうに無いしな。顔を赤くしながらベッドで布団を被っている姿が容易に想像できる。
「ところで、何でエリサとアーミラとアデュークの三人がいるの?」
話は変わって、エリサ達三人のことになる。
「別に大した理由じゃないわ。一緒だったから折角ならと思って連れてきただけよ」
「そうだったんだ」
本当に大した理由ではないな。まあルミナのことなので、そんなことだろうとは思ったが。
「それはそうと、アーミラはそのケープを脱いだらどう?」
アーミラは今は普段は着ることの無いケープを羽織っている。
もちろん、理由も無く羽織っているわけでは無い。ケープを羽織っているのは背中の翼を隠すためだ。
街中で
「それもそうだね。えいっ!」
そう言うと、アーミラはケープを脱いで、それを空間魔法で収納した。
そして、背中にちょこんと生えた可愛らしい翼が
「ところでルミナさん、何であたしを呼んだの?」
「二人には昼食を用意してもらおうと思ったんだけど……リーサが戻って来てからで良いわ」
「昼食ならあたしだけで作るよ。八人分で良いんだよね?」
「ええ、そうよ。後でリーサも手伝わせるわ」
「分かったよ。それじゃあぱぱっと作っちゃうね」
ミィナはそう言ってキッチンに向かうと昼食の準備を始めた。
「さて、私達は昼食ができるまで待ちましょうか。それで、何を聞きたいの?」
ここでルミナがエリサに用件を尋ねる。
どうやら、話があることを見抜いていたようだ。
「……分かっていたのね」
「何と無くそんな気がしたから」
「なら話が早くて助かるわ。私達が知りたいのはレグレットの情勢よ」
「具体的に何を知りたいの?」
「そうね……一番知りたいのは覇権争いをしている貴族達のことね」
覇権争いをしている貴族達というのはエンドラース家、ルートライア家、ハイスヴェイン家の三家のことだろう。
「分かったわ。それじゃあ早速……と言いたいところだけど、資料を用意した方が良さそうだし、後で良いかしら?」
「ええ、それで構わないわ」
「他に何か聞きたいことはあるかしら?」
「私からは特に無いわ」
「そう、分かったわ。それじゃあ私は資料を用意して来るわね」
そして、ルミナは資料を取りに向かおうと席を立った。
「少し待ってくれるか?」
だが、それを俺が呼び止める。
「何かしら、エリュ?」
「この刀を直して欲しいのだが、良いか?」
刀を鞘から抜いてルミナに見せる。
「あら、罅が入っているわね」
「ああ」
用というのは刀の修理だ。レッサーワイバーンと戦う前は罅は入っていなかったのだが、戦った後に確認してみると罅が入っていたのだ。
「これは魔力を込め過ぎて魔力許容量を超えたことが原因ね」
「分かるのか?」
「ええ、罅の入り方を見れば分かるわ」
俺には分からないが、錬成魔法の使い手であるルミナは見ただけでそういうことが分かるようだ。
「それで武器を新調したいのね」
「いや、先程も言った通り修理して欲しいだけなのだが」
武器の新調となるとお金が掛かるので、お金に余裕があるときにしたい。
半分を店の修理費として持って行かれたとはいえ、百五十万セルトも稼いだのでお金に余裕があるように思えるかもしれないが、魔法装備は高価なのでこの程度のお金は簡単に吹き飛ぶ。
ルミナの服も買おうと思ったら億は行くらしいしな。
「魔力の込め過ぎで壊れたのだから新しい武器に変える必要があるわ」
「直すだけだとダメなのか?」
「ええ。魔力を込めたら壊れたということは、今のあなた達には合っていないということよ。この武器だと全力を出せないでしょう?」
確かに、この武器だと全力を出すと壊れてしまうので、新調するのが一番良いのだろう。
「ただ、そうは言っても武器を新調するだけの金が無いのだが」
だが、先程も述べた通り武器を新調するほどの資金が無い。
「それは後払いで良いわよ。少しずつ払ってくれれば良いわ」
「良いのか?」
「ええ。それぐらいは構わないわよ。とりあえず、今使っている武器は買い取ってあげるから、全部渡してくれるかしら?」
「ああ、分かった」
言われた通りに今使っている武器を全て渡す。
「どの武器にするかは後で選ぶと良いわ。とりあえず、私は資料を取って来るわね」
そう言うと、ルミナは今度こそ資料を取りに一階へと向かって行った。
「さて、私達はのんびり待つことにしましょうかね」
「そうだな」
そして、そのままリビングでくつろぎながら昼食ができるのを待った。
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