episode18 緑風の紡ぐ空

 冒険者ギルドに戻るとだいぶ人が減っていた。

 恐らく、昼食を終えて帰ったのだろう。ひとまず、ここにいるはずのミィナ達を探す。


「さて、ミィナ達は……いたな」


 人が少ないので、ミィナ達はすぐに見付かった。

 だが、中には見覚えの無い人物が二人いた。恐らく、『緑風の紡ぐ空ブリズドアイビー』の残り二人のメンバーだろう。


「待たせたわね」

「いえ、さっき食べ終えたところですよ」


 ミィナがこちらを向きながら答える。


「その二人はさっき言ってた?」


 そして、見覚えの無い二人の人物がこちらに視線を向けて来る。

 とりあえず、自己紹介をした方が良さそうだ。


「俺はエリュ」

「ボクはシオンだよ」


 俺達はいつものように軽く自己紹介をする。


「私はアリナ。『緑風の紡ぐ空ブリズドアイビー』のリーダーだよ」


 そう言って自己紹介をして来たのは十七歳前後と思われる燈色の瞳をした少女だった。

 髪は赤色のセミロングヘアで、何か意味のありげな文字のようなものが刻まれた髪飾りを着けている。

 金属製の鎧に籠手、脛当を装備しているが、どれも薄手で動きやすさが重視されているようだ。

 そして、背中には大剣に剣、盾が装備されている。


「次はあたしだね。あたしはステア。『緑風の紡ぐ空ブリズドアイビー』のメンバーだよ」


 次に勝ち気な口調で自己紹介をしたのは銀髪のショートヘアの黒い瞳をした十五歳前後と思われる少女だった。

 ショートショーツに半袖の服という軽装だが、腰には短剣が据えられていて防具はしっかりと装備している。

 防具は動きを阻害しない薄手の軽量の物のようだ。


「『緑風の紡ぐ空ブリズドアイビー』のみんなはこの後の方針は決まった?」


 と、ここでルミナが『緑風の紡ぐ空ブリズドアイビー』のメンバーに今後の方針を尋ねる。


「うん、決まったよ。今日はルミナさんの店に泊まっていきます」


 リーダーであるアリナが答える。

 ミィナが少々強引に話をしに行っていたが、無事に話は付いたらしく、どうやら今日はルミナの店に泊まっていくことにしたようだ。


「あら、今日だけなの?」


 そう聞いたルミナは少し残念そうな様子だ。


「とりあえずね」

「この街にいるときぐらいいつも泊まって行ってくれても良いのよ?」

「でも、それをルミナさん無しで決めるのはどうかと思って」


 どうやら、そのことについて話を付けていないだけで、常時泊まることも考えているようだ。


「なるほどね」

「だから、後で良いかな?」

「分かったわ。ところで、『緑風の紡ぐ空ブリズドアイビー』のみんなはどこか寄るところはある? 無ければこのまま店に戻ろうと思うのだけど」

「特に無いよ」

「それじゃあ店に向かいましょうか」


 そして、『緑風の紡ぐ空ブリズドアイビー』のメンバーと共に冒険者ギルドを後にした。






 冒険者ギルドを出ると相変わらずの快晴の青空が出迎えた。

 もう昼過ぎだからか、降り注ぐ日差しは午前中のものよりも強くなっている。


「冒険者稼業は順調かしら?」


 ルミナがそう言って『緑風の紡ぐ空ブリズドアイビー』のメンバーに話を振る。


「とても順調だよ」


 アリナが迷う事無くそう答える。どうやら、冒険者家業はだいぶ順調なようだ。


「レリアが大活躍だからね」

「はい! 紹介してくれて大助かりです!」


 ステアとミリアもそれに続いて答える。


「そうでもないですよ。皆さんの活躍もあってこそです」


 レーネリアはそう言いつつも少し照れ気味だ。


「レリアは紹介されたのか?」

「そうだよ。パーティのメンバーを探していたときにエルナさんが紹介してくれたんだ」


 ルミナが紹介したのかと思ったが、紹介したのはエルナだったらしい。


「そもそも、『緑風の紡ぐ空ブリズドアイビー』はどう結成されたんだ?」

「そうだね……折角だしそのときの話でもしようかな」


 そして、アリナは当時のことを語り始めた。


「最初は基本的にはソロで活動して、必要なときは臨時パーティを組むという形でやってたんだ」


 今はパーティを組んでいるが、最初はソロで活動していたらしい。


「でも、臨時パーティだと何かと不都合なことが多いから、正式なパーティを組むことにしたんだ。それで、良いメンバーがいないかをエルナさんに聞いてみたら、三人を紹介されたってわけ」

「なるほどな」


 それで、パーティを結成したということか。


「三人もそれまではソロで活動していたのか?」

「そうだよ」

「ええ」


 ステアとレーネリアがそれぞれ答える。


「ミリアはどうなんだ?」

「私は冒険者登録を終えてどうするかを考えていたところで、エルナさんに声を掛けられたんです」

「それでパーティに入ったのか」

「はい」


 そして、『緑風の紡ぐ空ブリズドアイビー』が結成されたということか。

 それはそうとして、気になることが一つ。


「そう言えば、パーティを組むことに何かメリットはあるのか?」


 パーティを組むとは言うが、そのことに何か特別なメリットはあるのだろうか。


 昼食前のミーシャの発言からパーティというものはギルドに記録としてあり、勝手に名乗っているものではないようだった。

 であれば、パーティの結成には正式にギルドへの届け出が必要になるだろう。


 そう考えると、パーティというものは単に一緒に行動するというだけものでは無いように思える。


「それは私が説明するわね」


 そう言ってルミナが話に入って来る。


「パーティには個人の冒険者ランクとは別にパーティランクというものがあるわ」

「パーティランク?」


 冒険者についての話は昼食前にしたが、その単語には聞き覚えが無い。


「簡単に言うとパーティとしての冒険者ランクと言ったところかしら。パーティとして依頼を受けるときはパーティランクを参照して依頼を受けられるわ」

「と言うと?」

「そうね……例を挙げると、まず『緑風の紡ぐ空ブリズドアイビー』のパーティランクはCランク、アリナの冒険者ランクはCランクで他のメンバーはDランクよ。この場合アリナ以外のメンバーはDランクだから個人ではCランク以上の依頼は受けることができないけど、パーティとして依頼を受けるとパーティランクが参照されるから、その依頼を受けることができるわ。もちろん、パーティとして依頼を受けるときはパーティメンバー全員の参加が必須になるわ」

「なるほどな」


 パーティを組むことにもそれなりのメリットがあるということか。

 とりあえず、非常に分かりやすい説明で助かった。


「早く私達もCランクに上がりたいですね」


 ミリアが呟くように言う。


「確か、アリナは最初からDランクだったよね」

「そうだよ」

「そうなのか? ルミナさん、Dランクからでも始められるのか?」


 普通に考えればFランクからのスタートになるのだろうが、アリナは始めからDランクだったらしい。

 とりあえず、この中で一番詳しそうなルミナにそのことを聞いてみる。


「普通は最低ランクのFランクから始まるけど、信頼できる人物でかつ実力が認められれば上のランクからも始められるわ」

「そうなのか」


 条件付きではあるが、上のランクからも始めることが可能なようだ。


「と言うことは、いきなりSランクということもあり得るの?」

「上のランクと言っても普通はDランクまでね。そもそも、飛び級スタートすること自体が珍しいから」

「そうなんだ」


 やはり、基本的にはFランクからのスタートになるようだ。


「ルミナさんは飛び級スタートだったの?」

「私とエルナはCランクからだったわ」

「そうだったんですか!?」

「そうだったの!?」

「そうだったのですか!?」


 『緑風の紡ぐ空ブリズドアイビー』のレーネリア以外のメンバーが驚き声を上げる。

 レーネリアは知っていたのか無反応だ。


 まあ彼女のことはルミナが三年ほど面倒を見ていたらしいからな。

 そのことを知っていてもおかしくはないだろう。


「Cランクスタートってかなり凄いじゃん!」


 そもそも、飛び級スタートすること自体が珍しい上に普通はDランクまでと言っていたので、Cランクスタートというのは相当なことだろう。


「ふふっ。そうね」


 ルミナもそう言われて悪くなさそうだ。


「やっぱり、ルミナさんって凄かったんですね」


 アリナが感心するように言う。


「レリアは知ってたの?」

「はい。以前に聞いたことがあったので」


 やはり、レーネリアは既にこのことを知っていたようだ。


「ところで、これからルミナさんの店で泊まる件ですけど……」


 話は変わって、『緑風の紡ぐ空ブリズドアイビー』のメンバーの宿泊の件になる。


「構わないわよ。どうせ部屋は余っているから」


 そう言ってルミナはあっさりと承諾する。


「これで生活費は必要無さそうだね」

「それはダメだよステア。それぐらいは出さないと」


 リーダーであるアリナが諭すように言う。


「それでルミナさん、生活費とかの話だけど良いかな?」

「生活費とかは別に構わないわよ」

「でも、そういうわけにも……」

「構わないって言ってるんだから、気にしなくて良いの! さて、店まで急ぎましょうか」


 そう言うと、ルミナは無理矢理話を切り上げるかのようにして、足早に歩を進めて行った。


「待ってよー!」

「あ、待ってくださーい!」


 ミィナとミリアがその後を追い掛ける。


「うーん……まだ話は終わってないんだけどなぁ……」


 どうやら、アリナは納得していないようだ。


「本人がああ言っているし、遠慮しなくても良いのではないか? そういうことは望んでいないだろうしな」

「そうだよ! ボク達なんて色々と買ってもらったし」

「そんなものなのかな」


 どうやら、俺達の話を聞いて少しは納得してくれたようだ。


「早くしないと置いて行きますよー」


 先に行ったミィナがこちらを向いて声を上げる。


「置いて行かれる前に早く行くとするか」

「だね。みんなも早く行こ!」


 そして、置いて行かれないように足早にルミナの店へと向かった。

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