第34話 作戦

 水面をたたいた槍は水柱を高々と打ち上げる。打ち上げられた水は周辺に雨を降らせ魔鳥は浴びた水のせいか蒸気が昇る。


「どう?やった?」


 レナが結果を確認するために塀から乗り出して確認する。


 魔鳥の金属板の隙間から漏れる鈍い光は消えていない。うごめきより防御しやすい体制を取ったように見える。


「あー。これはやりきれなかったわね」


 レナは悔しそうに声を漏らした。ユウトはあの速度と威力の魔槍の一撃をしのいだ魔鳥の反応速度と判断力に驚く。


「いや。十分だよ」


 落ち着いた声をかけたのはクロノワだった。


「確実な痛手を与えた。ヤツはもう飛べないだろう。ディゼルもなんとか撤退できた」


 レナの一撃によって魔鳥は光線の発射を取りやめていた。ディゼルはその間に門の内側まで撤退するのをユウトも見ている。


「支援感謝する。あれは切り札だったんだろう」


 クロノワは真剣な面持ちでレナに正対し落ち着いた口調で語り掛ける。


「どういたしまして。構わないわ。こういう武器はここぞって時に惜しまず使っとくものだしね。ギルドの方からまた作ってもらうわ」


 レナはさっぱりとした様子だった。しかしすぐに真剣な面持ちに変わる。


「これからどうするつもり?あの魔鳥を倒しきる算段はあるの?」


 レナの真剣な問いにクロノワはなにかをたくらむ不敵な笑顔で答える。


「君のあの一撃のおかげで光明が見えた。時間も人員も足りないができることから始めよう。まずはそちらからこれをやった者に協力を要請したい」


 そう言って焼き切られたロングソードの切れ端をクロノワは差し出した。




 食堂の道を挟んで反対側にある兵舎。その一階にあるホールに大机を騎士、兵士、ユウトたち小鬼殲滅ギルドの面々が囲んでいる。魔術灯の黄色がかった明かりがそれぞれの表情を照らしていた。


 今この集会は慌ただしい。数人の兵士が常に部屋を出入りしては机の上に何かを書き込んだ紙を置いたりクロノワに報告を行っていた。


 その慌ただしさがひと段落してクロノワは口を開いた。


「今から橋上の魔鳥討伐の作戦会議を始める。まずは現状の確認を」


 指示を受けて机を囲む最前列の兵士の一人が報告を始める。


「魔鳥は橋上ほぼ中央で静止。右翼の損傷大、背面頸部の損傷中と目測されます。現在魔鳥とその周辺に霜が見られることから周辺から熱、または魔力を取り込み自己修復を行っている可能性があると大工房魔術師ヨーレン殿から報告がありました。人的被害は今のところなし。対岸の砦に信号灯で被害状況の確認を行いましたが被害はないそうです」


「橋の損傷具合は?」


 クロノワは兵士に交じっている非武装で初老の男性に話を振る。


「現在の損傷は軽微。ただ魔鳥の重量次第ではひずみの発生が考えられる。また時間が経てば崩壊の危険性あり。早急な撤去を望みます」 

「わかった。皆現状は理解できたな。では私から作戦立案がある。まずは聞いてくれ」


 クロノワはそういうと砦、河、橋を上から見た図が描かれた紙を中央の大机に広げた。


「今、魔鳥は橋の中央にいる。我々は何とかしてこれを排除したい」


 そう言いつつ図の中の橋中央に簡単な魔鳥の絵を描き込む。


「問題は二つ。あの魔鳥の攻撃を防ぎつつどう近づき、どうやって破壊するかだ。

 幸い我々にはあの鳥の攻撃を防ぐことのできる盾とあの金属のような装甲に損傷を与えることができる剣がある。

 盾はさっきその効果を実証したディゼルの魔術盾。

 そしてもう一つは小鬼殲滅ギルドメンバー、ユウトの魔術剣だ」


 クロノワはそう言いながら焼き切られたロングソードの剣先を机上に置いた。


 それを見たその場にいる会議の参加者たちは一斉におお、と感嘆の声を上げる。


「よろしく頼むよ。ユウト」


 クロノワは視線をユウトの方へと向けた。その視線をたどり皆はユウトを見つける。


 最前列で会議の様子を見ていたユウトは突然の視線の集中に驚き肩が震え、挙動不審になる。


「ど、どうも・・・よろしくです」


 緊張に耐え切れずしどろもどろに挨拶をする。もじもじしているユウトを見ていた者たちが少しずつざわめき出した。注意してみるとユウトが普通の人ではない違和感に気づく者が現れる。不安を感じた者の連鎖が始まりそうになったその時、ざわめきを遮って声をだした者がいた。


「ユウトは事情があって姿が特徴的になってしまっているが人なのは間違いない。空中の魔鳥を彼がいち早く発見してくれたおかげで対処の時間を確保できたのだから僕は信用できると判断する」


 ディゼルの発言が響く。すると兵士たちの中から「城壁の上から叫んでたやつか!」と、声が上がり皆あの時の驚きへ話題が移りだしてそれはそれでユウトは恥ずかしさがこみ上げた。


 しかしユウトは冷たかった視線が和らいだと感じる。困惑していた空気が冷静さを取り戻していった。


 ユウトがディゼルに視線を向けるとディゼルはそれに気づきにこやかな表情で手を胸元まで上げて小さく一振りする。ユウトも少しぎこちなく小さく手を上げて返した。

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