大石橋砦の襲撃
第25話 対策
朝日が昇り、野営地最後の夜を過ごした隊員たちは帰還のための最後の準備を始めている。後始末を終え、跡形もなくなった広場。その中央に皆集合し隊長であるガラルド、副隊長のレイノスの二人へ視線を向けていた。
ガラルドが一歩前に出る。言葉の少ないガラルドがこういった状況で何を語るのかユウトには興味があった。
「皆の参加に感謝する。帰還してくれ」
たったの二言。ユウトの予想を裏切らない。周りの隊員たちの反応を見るに相変わらずといった様子で苦笑気味だった。
それからレイノスの事務的な連絡事項が続き解散となる。何台もそろった馬車へそれぞれが散り散りになって乗り込みだし、出発し始めた。
ユウトたちの乗る馬車は途中で道を逸れるため最後尾で動き出すのを待っている。
「あんた正気なの?大工房までどれだけ距離があるか聞いてたじゃない」
レナが呆れた様子でユウトに問いかける。
「僕も流石に無茶だと思うよ」
ヨーレンも心配そうに尋ねる。
「大丈夫、大丈夫。ダメそうなら乗り込むから」
すっきりした様子でユウトは返答する。
大工房までの道中。レナと同じ荷台で過ごすかという難題に対してユウトの出した回答が馬車の後方を走って付いていくというものだった。今ユウトは念入りな準備体操、ストレッチを行っている。
「ガラルド隊長も何とか言ってやってください。体を壊しかねません」
ヨーレンはすでに荷台に乗り込んでいるガラルドに決意の固いユウトを説得するよう助けを求める。ガラルドは興味深そうにユウトを眺め。
「その踊りは何だ?」
全くヨーレンの意志を汲まない質問を投げかけている。ユウトが準備体操についての役割と意図を簡単に説明しガラルドが関心するやり取りをしている内に最後尾で待機していた大工房行きの馬車の順番がやってきた。御者がユウトたちに声を掛けてくる。ガラルドが発車を許可したのでそのまま馬車は走り出した。
ユウトは一晩かけて考え、この結果に落ち着いていた。荷台の屋根に乗る、御者と一緒に前の座席に座ることも考えたのだが前者は強度が怪しく、後者は雇われの御者がゴブリンの姿を怖がってしまうため却下していた。
レナからある程度距離を取り、とにかく体を動かすことで余計な妄想を発散させるため走るという作戦。もう一つは現在のゴブリンの身体の単純な体力の限界を知っておきたかったということもあった。
ともあれユウトは馬車に付いて走り出す。何度か馬車が通ったからだろうかうっすらと馬車の轍が道を形成していて走りにくさはない。森の木々を縫うように走っているせいか馬車の速度はそれほど早くなく軽めのランニングのようだった。
朝ということもあり森の大きな木々によってあまり光は届かず薄暗い。その景色がしばらく続いた。景色の変化のなさに少しユウトが飽きてきたころ、木々は途切れて平原にでる。景色は一気に広がりユウトは風を感じた。日の光が温かく汗はすぐに乾く。平原に出たことで馬車の隊列の速度が少し上がった気がした。
平原といってもそれほど広さはなく緩やかな起伏と点々と生えた木々がコントラストを作っている。風に撫でられた草原の草が揺れていた。
ユウトはその景色に学生時代の美術の教科書で見た風景絵画が思い起こされる。
体力にはまだまだ余裕がある。以前の身体であればとっくにばてて景色どころではなかったはずだった。走りにくいからとマントとセブルは馬車に預けたため日の光が少しまぶしい。それでもユウトは気分よく走り続ける。
日が高くなりだしたころ先を走る馬車の隊列が右に曲がっていくのが見える。そのまま少し進むとガラルド達を乗せた馬車は左へと曲がり出した。目の前には整地され真っ直ぐのびる道が見える。ここから帰還する本隊と大工房へ向かうユウト達が分かれるということが予想できた。
本隊の後方の隊員たちは逆方向へ進んでいくユウトたちに気づき手を振る。ユウトは少し悩んだが後方に向かって走りながら大きく手を振り返した。
それからしばらくユウトは走り続けるがいまだばててしまうような疲労感はない。路面が多少良くなったことで馬車のスピードは上がっているが余裕だった。時折ヨーレンから水をもらいつつユウトは走り続ける。
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