第96話 ギガント・キング

 謁見室へとたどり着いたベリアル隊は、真っ向から侵入しました。


 メイドからの情報通り、鎧をまとったナイトたちが護衛しています。


 ベリアル隊の姿を見て騒ぎ始めましたが、それをギガント・キングが制しました。


「何をしに来た。矮小なる人間の冒険者よ」


 ベリアルが答えます。


「貴殿のダンジョンが魔力を吸いすぎるために、他のダンジョンの主が迷惑をしている。ダンジョンを縮小するか、さもなくば、命をもらい受けに来た」


 アルドウェンからは、ダンジョンの主を倒せと言われていましたが、人間語が通じるため、ベリアルはできるだけ交渉でことを収めようと考えたのでした。


「ふん、あの酔狂な魔法使いアルドウェンのダンジョンか。やつこそ、ただの暇つぶしのためにおおがかりなダンジョンを作りおって」


「ならば貴殿がダンジョンを作った目的は何なのだ」


「それは、宮殿でメイドをはべらせて、ハッピーライフを送るためよ。もともと住んでいた宮殿は、浮気にうるさい妻から追い出されて住めなくなったのだ」


「ろくでもない理由じゃねぇか・・・」


 グレコが頭を抱えます。


「では、夫婦関係の問題を解決し、浮気をやめて、もともとの居城に帰るのだ。そうでなければ、ここで貴殿を倒す」


「ふっふっふ! 矮小な人間どもに、わしが倒せるかな? かかれ者共!」


 戦いが始まりました!


「ダンシング・ナイフよ、『踊れ』 炎の杖 +10 チャージ5」


「『消滅の波動』」


「『爆炎』」


 カイが魔法の杖のチャージに入ると同時に、ザザが念の為に『波動の盾』で相手がかけているかもしれない魔法反射の障壁を消滅させます。


 ベリアルはすかさず最強魔法『爆炎』を放っていました。


 ギガント・ナイトが前線から吹き飛ばされ、ギガント・アークメイジとギガント・アークプリーストも相当な痛手を負ったようです。


 しかし、ギガント・キングは全身の衣服を焼かれ、肌もやけどを負ったにも関わらず、平気な顔をしており、やけどは瞬時に修復して、正常な肌に戻っていきます。


 グレコは倒れたギガント・ナイトの甲冑の隙間から、カシムの剣を突き立てます。ラシャとシャパリュは、アークメイジとアークプリーストに止めを刺します。


 さらに、ベリアルの『爆炎』2発目が炸裂しました。


 高熱で甲冑の中を蒸し焼きにされたギガント・ナイトは倒れます。これで残るは、ギガント・キングのみです。


「ふっはっは。我が親衛隊を軽々と屠る実力は認めてやろう。しかし、不死身の回復力を誇るわしを倒すことはどのみちできんのよ」


 ギガント・キングは、ついに、玉座のかたわらにあった剣を抜いて、ベリアル隊に襲いかかりました。


 ベリアルがカウントを叫びます。


「あと10秒!」


「ふん、後ろにいる魔道具使いが何かやろうとしているな・・・させん!」


 ギガント・キングがカイに向かって全裸で走り始めます。


「何としても止めろ!」


 グレコがカシムの剣で切りかかりますが、ギガント・キングの大剣で薙ぎ払われ、吹き飛びました。直前に鉄化の指輪で防御したとはいえ、すごい衝撃です。


 ザザは一か八か『彫像』の魔法をかけましたが、やはり効きませんでした。


 ラシャの『窒息のデーモンダガー』も不発に終わります。


 ベリアルが焦りの声を上げます。


「くそっ、間に合わないか!? 一か八か、眠りの魔法を・・・」


「その必要はないぜ、ベリアルさん! 『ウィップ』」


 グレコはカイに走り寄ろうとするギガント・キングの足を、鞭で絡め取りました。同時に、カシムの剣を床に突き立て、その柄に鞭の後端を巻きつけます。


「ぐ、動けぬ。こしゃくな縄が・・・」


 ギガント・キングが足に絡まった縄をほどこうとうつむいた時、その視界にダンシング・ナイフがきらめきました。あろうことか、ダンシング・ナイフは、全裸のギガント・キングの最大の弱点、股間のそれをちくりと突いたのです。


「うぐわーっ!!!」


 これは傷の深さがどうとかではなく、大ダメージを与えました。


 そのとき、ついにカイの魔法の杖のチャージが終了しました。臨界点に達した魔法の光をカイが開放します。


「『バースト!』」


 巨大な炎の球がギガント・キングを包み、竜巻状に燃え上がって、その肉体を焼き尽くしていきます。


 魔法の炎が消えた時、ギガント・キングは黒焦げになり動かなくなっていました。


「死んだか?」


 しかし、じっと観察すると、わずかながら、黒焦げの体が修復をしようとする様子が認められました。


「やっぱりほとんど不死身か・・・よし、縛ろう」


 グレコは、手際よく、両手両足を後ろに回し、えびぞりにしたような形で、ギガント・キングの体を緊縛しました。


「普通のロープでちぎられたりしない?」


 ラシャが心配した声を上げましたが、グレコは自信たっぷりに答えました。


「体に力が入らない体勢で縛るから、いくら巨人と言えども抜け出すことはできない」


 その自信たっぷりの様子に、またもやカイは体の芯に震えが来るのでした。

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