第60話 バンパイア・ハンター2

 グレコは、まずは盾で防御に徹しつつ、相手との間合いを計ります。


 すると、突き出された爪がびゅるっと伸びてグレコを襲いました。剣で弾いて軌道をそらします。


(爪というより槍のリーチか・・・)


 グレコは、足運びで敵の隙きを伺いながら攻撃の機会を待ちます。


 その背後では、アルハイムと小物のバンパイアとの交戦が始まっていました。アルハイムはアンデッド・モンスターを塵と化す僧侶特有の技法『解呪』の祝詞を唱えます。


「聖なる神よ、我に力を貸し与え、不浄なるものどもの邪な波動を断ち切り給え!」


 その瞬間、床から青い雷光が、バンパイアたちに向かって疾走し、それを受けたバンパイアたちは白い塵と化して床に崩れ落ちました。


 しかし・・・


「一体逃しました!」


 『解呪』の効果を逃れたバンパイアは、アルハイムに爪を立てようと襲いかかります。


「大丈夫か?」


 グレコが背後を気にした瞬間、ヴァンパイア・ロードの右腕から赤い爪が射出されます。


(それは見切っていた!)


 グレコは、自らも左足を踏み込んで体を半身にし、盾で爪を滑らせて防御しながら、一気に間合いを詰め、下段からカシムの剣を振り上げました。

 ヴァンパイア・ロードの右腕が床に落ち、怪物は痛みに悲鳴をあげます。


 踵を返したグレコは、アルハイムに襲いかかるバンパイアに背後から袈裟懸けで切りつけます。その斬撃は、深々とバンパイアの背中をえぐり、背骨も断ち切ってしまいました。アンデッドといえども、この深手では、もう戦闘能力はありません。


「アルハイム! 大丈夫か?」


 しかし、アルハイムは返事をしません。見ると、ローブから小さな血痕が浮き上がっています。バンパイアの爪で刺されたのでしょう。傷としては浅いですが、麻痺の状態異常を受けたようです。


「チッ! 残りは一対一か!」


 と、アルハイムを抱えていたグレコの背中に、バンパイア・ロードが残っていた左腕の爪を伸ばして突き立てました。爪は『悪魔の黒鎧」に弾かれましたが、軌道を変えて、露出したグレコの首筋を切り裂きます。


 麻痺毒が流れ込み、グレコは一瞬体の感覚を失いそうになりましたが、『自動浄化の首飾り』が発動して、浄化の魔法で状態異常を回復させました。

 ただ、グレコの体から血液とともに体力が吸い取られるような倦怠感を受けました。

 バンパイア・ロードのエナジードレインです。


 バンパイア・ロードは、吸い取ったグレコの血液と体力を使って、切り飛ばされた右腕を再生させました。


 グレコは、『癒やしの杖』を使用します。首からの出血はとまり、少しふらつきは残るものの、まだ戦えそうです。


「へっ、これで仕切り直しってことだ。今度は容赦しないぜ」


 グレコはバンパイア・ロードに突進します。


 バンパイア・ロードは、両手を前に突き出し、同時に爪を射出して攻撃してきました。


「もう種は割れてるんだよ!」


 グレコは鉄化の指輪で鋼鉄と化し、鋭利な爪をはじきます。突然のことにバンパイア・ロードがあっけにとられた隙きを見て、グレコは右手の剣でロードの左爪を弾き、左手の盾で右爪を弾きました。ヴァンパイア・ロードの胸ががらあきになります。


(身動きできないように、ばらばらにしてやる!)


 グレコの連撃が始まりました! 右上段からまず右前腕を切断、さらに、右腕の肘から先の回転だけで、下段から左腕の前腕を切り飛ばします。力の入らない動きのはずですが、カシムの剣の切れ味は、それでも怪物の骨を断ち切りました。


 両手を失ったバンパイア・ロードが最後のあがきで、牙をグレコの首筋に突き立てようと大きく口を開けます。そこに一閃! 右からの水平斬りでバンパイア・ロードの首が真っ二つにされました。さらに、翻した剣が大上段から襲いかかり、切り落とした頭部ごと胴体を縦に真っ二つにします。


 バンパイア・ロードは床に転がって動きを止めました。


 グレコは、アルハイムのもとに駆け寄ります。自分のかけていた『自動浄化の首飾り』をアルハイムに身に付けさせて、麻痺毒の解除を試みます。同時に癒しの杖も使って、爪による胸の傷も塞ぎました。


「う・・・グレコ殿・・・バンパイアは?」


「ああ、あの通りさ・・・」


 ふらつきながらも立ち上がったアルハイムは、バンパイア・ロードのバラバラにされた遺体を見て驚嘆しました。


「何という剣の冴え・・・お見事です。あなたのおかげで命拾いしました」


「何、報酬さえ貰えれば、俺たち冒険者は言うことなしさ」


 冒険者ギルドに戻った二人は、食堂で乾杯をしました。


「拙僧は聖職者ゆえ、酒は飲めませんが」


「うちのパーティの僧侶のザザは普通に飲んでるけどな」


「それは破戒僧です」


 そう言って、二人は笑い合いました。


「このアルハイム、恩義は忘れません。いつでもなにかあれば言ってください」


「ああ、そうか、じゃあ、そのうち、この首都に俺の地元からサラっていう魔道具屋の営業が来るかもしれない。そしたら、話を聞いてやってくれよ」


「それだけでいいのですか? 承知しました。約束いたしましょう」


 こうしてグレコは、カイへのプレゼントの『時計』だけでなく、バンパイア・ハンターの称号も、首都から持ち帰ることになったのでした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る