第44話 装備充実

 カイは、ベリアルから鉄化の杖を8万Gで受注し、さらにザザから転移の魔道具(右手にメイス、左手に盾を持っているザザのために腕輪タイプにしました)を同じく8万Gで受注したことで、16万Gは売上を上げることができました。


 転移の腕輪は、術式に改造を施しました。通常の座標指定型転移魔法では、転移先の座標に岩塊などがあると、中に閉じ込められて死んでしまうという問題があるのです。


 これを回避するために、転送印などでも用いている、出現先に物体がないかを検索してから実体化する技術を応用して、転移した座標に邪魔なものがあれば、空間が空いているところまで出現位置を適度にずらすようにしたのです。


 これで、戦闘中に窮地に陥った際には、緊急脱出手段として、転移の腕輪が安全に使えるようになりました。僧侶のザザがパーティ・メンバーの体力を見て、それ以上もたないと判断したら、すぐさま転移の腕輪で戦闘から離脱することで、生存率は格段に上がります。


 ラシャは、グレーターデーモンの爪を磨きに出して、ダガーを新調しました。これまでの鋼のダガーを軽く上回る切断力で、薄い鉄板なら切断したり貫通したりできるようになりました。窒息の魔道具として魔法石も移植し、『窒息のデーモンダガー』ができあがりました。


 そして、グレコは、グレーターデーモンの革をなめして、上半身を守る革鎧と、籠手、すね当てを作りました。青白い見た目が悪魔っぽくて気持ち悪いので、黒く塗装したようです。柔軟性がありながら、耐刃性能、形状保持性能が高く、普通の剣では裂くことも貫くこともできず、衝撃吸収性も高い、優れた防御力を持った代物となりました。名付けて、『悪魔の黒鎧』です。


 盾も同様に製作し、ミスリルの円盾の上からグレーターデーモンの革をかぶせて『悪魔の黒盾』ができあがりました。


 こうして、装備も充実したベリアル隊は、この街の冒険者ギルドではトップレベルとみなされるようになったのでした。


 しかし、カイの胸中は複雑でした。グレコが冒険者として強くなり、悪魔やドラゴンすら相手取ることができるようになってきた中で、今までのように、自分の店の赤字補てんのための小物狩りにつきあわせるのが、どうにもバツが悪くなってきたのです。


 これまではベリアル隊とも面識がなかったので、そちらの都合は考えずに、呼びたいときにグレコを呼びつけ、狩りに同行させていましたが、ベリアル隊の活動がこれまで以上に活発になる今、グレコを呼びつけるのに引け目を感じてしまいます。


 正直なところ、今のグレコなら、コボルト30匹ぐらいは、補助魔法も必要とせず、無傷で全滅させてしまえるでしょう。ジャイアント・クラブの甲羅だって一刀両断です。カイが必要とする赤字補てんのためのモンスター狩りには、グレコはすでにオーバースペックなのでした。


「グレコの代わりを見つけるべきなのだろうか・・・?」


 ベリアル隊が強くなって、グレコのことを心配しないで済むようになった代わりに、別の心配事に悩まされるようになってきた、カイなのです。

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