第3話 魔法使いの爺さん

 ダルアーに経験値を貸し出して、回収してを初めてから2ヶ月程経過した。


 ダルアーから取得した経験値は既に1712に達している。


 スキルの効果自体は単利なのだが、回収する度に俺の経験値は増えそれを全て貸し付けているので、実際には複利と変わらない。


 そのせいでダルアーの総取得経験値の10%程の経験値を2ヶ月で徴収してしまったのだ。


 このペースで貸し付けて行くと30日も経たない内にダルアーの総取得経験値は0になってしまう。


 さすがにそれは不味いと思ったので、一端ダルアーから徴収するのは止めておいた。


 だが、そうなると経験値の取得元が無くなってしまう。


 人様の大切に貯めた経験値を搾取することに多少の罪悪感を感じない訳ではないが、俺はもう搾取されるのは嫌なのだ。


 搾取される側に回るくらいなら、こっちが搾取する側に回ってやる。


 家の外に出て、経験値を貸し付ける相手を探す必要があるな。


 だが、俺はまだ2歳児。


 自由に外を歩き回るのは親の許可がいる。


 とりあえず、外に出る件はエミリアと話してみるか。


「ママ、僕お外に出たいんだけど」


「あら、じゃあ一緒にお外に出ましょうか」


「違うんだ。僕一人でお外に出たいんだよ」


「だめよ。まだ危ないわ」


「えー、じゃあいつになったらお外に出ていいの?」


「そうね、3歳になるまで我慢しなさい」


「3歳になったらお外に出ていいの?」


「3歳になったらね」


「わかった」


 ふむ、どうやら3歳になったら外に出てもいいようだ。


 しかし、3歳になるまでまだ10ヶ月程かかるぞ。


 家で運動していても経験値は僅かしか手に入らないし、さてどうしたものか。


 そんな事を思っていたら、ある日、魔法使いの爺さんがやって来た。


「おお、お主がシンゴか。ワシはお主の爺ちゃんのローレンスじゃ」


 ローレンスと名乗った爺さんは、エミリアの父で俺の爺さんになるらしい。


 爺さんがいるなんて初めて知ったぞ。


 エミリアとオライアスの会話にも出て来なかったしな。


「新しく見つかったダンジョンを攻略していたら、3年ほど経っていたのじゃ」


 どうやら、ローレンスは冒険者で世界のダンジョンを攻略して回っているらしい。


 数年に一度くらいしか連絡が来ないようで、エミリアが最後に会ったのも結婚する前とのことだ。


 危険な事をしていて何時死ぬかも分からないので、俺の前では爺さんの話はしたことがなかったようだ。


 そしてこのローレンスはかなりの経験値を持っていた。


 名前 ローレンス

 総取得経験値 1,099,742


 身内から経験値を搾取するのに抵抗のあった俺だが、ローレンスから経験値を搾取するのには抵抗を覚えなかった。


 こんだけ経験値があるんだ、ちょっとくらい頂いても良いだろう。


 俺はローレンスに経験値を全て貸し付けた。


 ついでに魔法も教えてくれないかなと思った俺はローレンスに頼んでみた。


「じいちゃん、魔法教えて」


「おお、シンゴは魔法使いになりたいのか。よしよし、爺ちゃんが教えてやろう」


 俺達は早速庭に出て、ローレンスから魔法の指導を受けた。


「よいか先ずは体内の魔力を感じるんじゃ」


「体内の魔力?」


「ふむ、言葉で説明するのは難しいの。シンゴ、じいちゃんの手を握ってごらん」


 俺はローレンスの手を握った。


 すると、次の瞬間、握った手から何か不思議なものが流れこんでくる感覚を得る。


「今シンゴの身体に少量の魔力を流しておる。わかるか?」


「うん、何か流れている感じがする」


「よし、じゃあ魔力を流すのを止めるからぞ」


 ローレンスの手から魔力が流れて来るのが止まった。


「シンゴ、体内に魔力が流れる感じはわかったな。次はその魔力を自分で体内で動かすのじゃ」


 俺はローレンスに言われた通り、さっき体内で魔力が流れていた感覚を思い出し、その感覚が再現するように魔力を動かす。


 すると、体内の魔力が循環するように体中を回り出した。


「じいちゃん、出来たよ」


「おお、本当か。こんなにも早くできるとは、シンゴは天才じゃの。よし、次はその魔力を体内に放出するのじゃ」


「放出ってどうやるの?」


「イメージじゃ、魔力を体内から放出するイメージでもって魔力を放出するのじゃ。慣れれば全身から放出できるが、先ずは手のひらから放出するイメージでやってみるのが簡単じゃぞ」


 イメージか。俺は手の平から魔力が放出するイメージを持って魔力の放出を試みた。


 すると、体内にあった魔力が吸い出されるように手のひらから飛び出していった。


 飛び出して行った魔力はすぐに霧散して消えてなくなった。


「おお、これもすぐに出来るようになるとは、シンゴは本物の天才じゃ!」


 ローレンスは何か喜んでいるが、俺は魔力が抜けて放出した瞬間からかなり怠かった。


「じいちゃん。何か怠い」


「体内の魔力を放出して少なくなったせいじゃな。よいかシンゴ、魔力がなくなると怠くなると覚えておくとよいぞ」


「体内の魔力が空っぽになったら?」


「空っぽになると気を失うから気をつけるのじゃぞ。今日はもう止めておいた方がいいの」


 なるほど、そう言えばローレンスに経験値を貸し付けているからレベルが1なんだった。


 レベル3くらいの経験値は残して、体内の魔力量を高めよう。


「爺ちゃん、明日からも魔法を教えてくれる?」


「ああ、シンゴが一通り魔法の基礎を覚えるまではここにおるぞい」


 次の日からも俺はローレンスに魔法の手ほどきを受けた。

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