物思いの夜火
Bminor
第一話 【 夜と不良少女 】
深夜のコンビニは割と好きだ。
誰も居ないそこは、一人の孤独を感じなくてすむ、唯一の場所の様に思えた。
日中の騒々しい空気感から弾き出されたかのような、何も要求されない静かな光が、俺を誘うように引き寄せる。
最近は、午前3時にコンビニ来ることが増えた。
眠れない夜が嫌いで、買い出しと、少々の気分転換を兼ねていくことが多い。
今日も買い出しを終え、コンビニ添え付けの喫煙コーナーで、カフェオレを片手に慣れた手つきでタバコに火をつけた。
日の落ちた町は、色を失い、寂しさが入り混じった風が吹いている。
明滅した信号機だけが、役割も無い仕事を果たしているだけで、見るべきところもなく、気になる変化も無い。
あぁ、なんて心地の良い事か・・・。
このまま、空気に溶け込んでしまいたい。
何も無かったかのように、仕事を休んでしまおうか・・・。
普段は許さない、馬鹿げた考えと共に煙の味を楽しむ。
はずだった・・・。
「ねぇ、タバコくれない?」
夜の風に吹かれたフルートの様な透き通った軽やかな声が左から聞こえた。
急な言葉に驚きつつも、声の主を確認すると、白のワンピースを着た黒髪の可憐な少女がそこに居た。
電話でもしているのか?
でも、“タバコくれない?”を電話越しに聞くか?
もしかして、俺に言ってるのか?
「・・・くれない?」
「俺に言ってるのか?」
「他に誰かいる?」
そういって、私の顔を下から覗き込んできた。
その顔は、笑うでも、顰めるでもなく、一切の感情を表に出すことのない。真剣な表情だった。
「お前、歳は?」
「・・・タバコくれない?」
どうみても、成人していない少女は、頑なだった。
「タバコ買う金も無しに、コンビニに来たのか?」
「財布忘れた」
「これで買ってこい。まぁ、買えたらの話だが・・・」
少女は、手渡された1000円を見つめていた。
ここのコンビニのオヤジが、未成年へのタバコや、酒の販売を断っているのをみたことがある。
直ぐに買いに行かない所を見ると、やはり未成年か・・・。
社会や、人間関係に嫌気がさしている俺でも、ガキにタバコを吸わせてやる程、腐っちゃない。
さっさと、諦めてどっかいってくれないか?
この時間は、俺にとって明日を迎える儀式なのだ。邪魔をされては困る。
明日も、良い人間を上手く演じれるよう、ここで一人、人に見せれない自分を煙に乗せて吐き出す。
だから、こんな不良少女に構っている余裕など、俺にあるわけもない。
「もういい」
そう言って、俺の方から視線を外した少女は、コンビニの壁に背をついて、落胆するでもなく、ただジッと変化の無い夜に目を向けた。
喫煙コーナーで何をするでもなく、俺の隣で静かに立ち尽くす少女は、少々気味が悪かった。
何なんだ?こいつ・・・
俺は、吸いかけのタバコの火を消し、白のワンピースを着た夜の似合わない少女の後を去った。
―翌日 同時刻―
「ねぇ、タバコくれない?」
そいつは、懲りずにやってきた。
昨日から、俺だけの夜に突如現れた不良少女。
まったく、面倒な奴に目を付けられたものだ。
不良少女の方を向き、正直に言い放った。
「お前、成人してないだろ。ガキにタバコはやらん。それだけだ。いいな」
「・・・」
不良少女は少し黙って、ばつが悪そうに口を開いた。
「夜が嫌い・・・だから」
「は?」
「夜は見えなくて、怖い」
なんだ、こいつ?
思春期独特のセンチメンタル的なやつか?
訳が分からん。
でも、そんなのに付き合う理由もない。
無視だ、無視。
「でも、ここは好き」
「あぁ、そうかい。だったら楽しめ。俺は帰る」
「タバコくれない?」
「タバコはやらん」
そういって、俺は一人歩きだした。
後ろから刺さる視線を無視して、帰路につく。
何が目的で、タバコをそんなに欲しがるのか?理解できん。
ヤニ切れってわけでもないだろう。
そもそも、手に入らないくて困っている感じだし。
気付けば、明日への儀式など忘れて、あの少女の事を考えていた。
俺は偽善者、人の事など興味はない。
なので、これは興味などではない。
当たり前の日常に発生した問題を解決するために、半ばしょうがなく考えているだけだ。
そう、俺の悩みを考えているだけだ。
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