屋敷の主人 2
アリシアが剣を構えてから、数十分が経った。
「…………?」
サウスも後ろでじっとしている。
「…………?」
「おかしいわ」
「何がです?姫様」
「あのね、サウス」
アリシアがサウスへ向き直り真剣な面持ちになった。
「姫様はやめて。悪魔に姫だなんてバレてしまったら国に迷惑がかかるかもしれないわ」
もうバレているが。
「……何おかしいんです?アリシア様」
また、アリシアは城に向かって剣を構えた。
「こんな風に立っていると、悪魔がバッサバッサしながら出てきてハーッハッハッハとか言いながら戦いが始まるものなのよ」
「いないんじゃないですか?帰りましょう」
サウスは今にも帰りたそうにしている。
悪魔は、屋根の上でゴロゴロとしていた。そばでピィピィと鳥が遊んでいる。
「諦めないわよ。私は」
アリシアはそう言うと、馬を降り、玄関ドアへ向かっていく。
「中に……居るのかも……」
ゴクリ、と喉を鳴らす。
「はぁ……」
それを見て、悪魔は大袈裟なため息をもらした。口から濁った空気が漏れる。食後だというのに、面倒ごとに巻き込まれるとは。
だが、居城を荒らされるわけにもいかない。
屋根の上から、城に障壁を張る。誰からも見えず、誰も城に触れられない。
音を立てずに玄関へ歩いて行ったアリシアは、ボン、と低い音をたて、障壁にぶつかる。小さなうめき声をあげ、後ろへ倒れた。
「これ……は……」
「魔法、ですかね?」
「そうみたい……ね」
触るわけにもいかないと思っているのか、二人は見えない壁をじっと睨みつけた。
人間に障壁を破ることはできないので、悪魔は放置を決めこんだ。
今日も空が青い。
ひとしきりその青さを堪能していると、一際大きな声が、城の前から聞こえた。
「悪魔!よく聞きなさい!私はアリシア!こんな大きな土地を独り占めするのは許されない!私が退治してあげるから!出ていらっしゃい!」
……よく言う。ここに来た人間は全て悪魔が食べ尽くしている。悪魔を見た人間はいない。つまり、人間にはこの城に悪魔がいる確証はない。
障壁で人間ではないことは伝わっただろうが、そんな噂だけでここまでやる人間は信用できない。
無益な殺生は好まないが、食べてやろうかと思う。
そうこうしているうちに、さらに1時間ほど二人はそこにいて、悪魔が出てくるのを待っていた。
いなくなったのはもう昼下がり。風と鳥の声だけになった。
また静かな日常が始まる。と思ったのも束の間。次の日も二人はやってきた。
「ヘイ!悪魔!出てらっしゃい!」
また、どこぞのお姫様の耳障りな騒がしい声が聞こえる。
「……諦めが悪いな」
近くの村に宿を取っているとかで、アリシアとサウスの二人は、それから毎日やって来た。
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