もしも友達なら 3
おめでとう?
「もうっ!」
言いながら横を向いて顔を隠してしまう。ロベリアが投げつけた何かが、マリィのスカートにぶつかって地面に転がった。
「……」
軽くはたきながら拾い上げると、紫の花のブローチだった。一瞬、花屋のおかみさんが作ったものかと思ったけれど、針金が歪んでいるのに気付く。おかみさんの作ったものはもっと繊細だ。
「これって……、ロベリアが?」
「おめでとうって……言わなきゃって……だって……」
俯いたまま言葉を紡ぐロベリアの声は、少し涙が混じっているようだった。
ロベリアの腕を引いてこちらへ向かせると、赤いままの顔でやはり少し涙ぐんでいた。
「あの王子と婚約なんてしたら……、マリィが……王都へ……行ってしまうかもしれないって……。行ってしまったら……おめでとうも……何も……言えなくなるかもって……」
涙を振り払うためか、フルフルっと顔を振ると、ふわふわとした赤毛も揺れて、まるでトイプードルみたいだ。そういえば、顔も少し似ているかも。
「…………ロベリア?」
ロベリアの本心を聞くのは、初めてかもしれなかった。
手の中には、花のブローチ。きっと時間だってかかったのに、私に贈ってくれようとしてる。そんな風に思われているなんて、考えたこともなかった。
ブローチを握りしめる。
王都へ。エルリックには姉君も弟君もいる。王権がどうなるかはわからないけれど、いずれ王都へ住むことにはなるだろう。
「私がいつ王都へ行くことになるかはわからないけれど、……私も、あなたと離れるのはさみしい」
ふふっと笑ってみせると、ロベリアは涙ぐんだまま口をへの字に曲げた。
ひとしきり涙を拭いてから、ロベリアはこちらへ向き直る。
いつもの顔だ。マリィに突っかかってくるときの、いつもの顔。
「それで、どうしたのよ」
夕陽が学校の窓に反射して、チカチカする。
結局最後には、このお節介さんはマリィのことばかり心配するのだ。
「急に婚約って言われて、どうしたらいいのかわかんなくなっちゃって」
えへへぇと頭をかきながら言うと、やっぱり強気な呆れ顔が返ってきた。
「そんなこと、あの王子があなたを選んだのだから、あなたは気楽にそのままでいればいいでしょう」
簡単に言ってくれる。できないから困ってるのに!
でも、そんなあっけらかんとした強い顔で言われると、何故だか気持ちはさっぱりとした。私ったら何を悩んでたんだろう。自然でよかったんだ。いつも通りができなくても、きっとそのままでいいんだ。
「そうかな」
「そうよ。それだけのことでしょう」
なんだか笑えてきて、笑い出すと止まらなくなった。きっと嬉しかったんだ。そんな風に安心させてくれる人がそばにいることが、きっと嬉しかった。
「ロベリア、ありがとう」
ロベリアは腰に手を当てた格好で、マリィの姿をじっくりと眺めた。
「マリィ、おめでとう」
まだ瞳を潤ませながら夕陽の中でニカッと笑うロベリアは、マリィに元気をくれる花みたいだ。
「もしもあなたがあたしの友達だっていうなら、困ったときはいつでもうちに来なさい。いつだって、店は開けてるから」
友達。そっか、友達か。
「そうね、もしもあなたが私の友達だっていうなら、いつだってあなたに会いに来るわ」
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