第95話 居るべき存在が居ない理由

 羊飼いと言われても、山奥でおじいさんが孫達と羊を飼っているアニメでしか見たことないな。


「勇者小説では度々出てきました」

「詳しくはないが、一応知っている。それがどうした」

「羊は狼に襲われるそうですね」

「そうだな」


 定番ネタではある。


「では、狼から守らなくてはいけません」

「そうだな」

「羊は糸の素材になる羊毛が取れるそうですね」

「ウールってヤツだな。確かにある」

「羊は食卓にも上るそうですね」

「俺は食べたことないが、ラム肉とかマトンとかあって、かなり独特な匂いがするらしい」

「そうなのですか。それは存じませんでした」

「それがどうしたっていうんだ。なんの関係があるんだよ」

「ここには人間が居ます」

「……あ?」


 羊飼いじゃなくて人間?


「そして人間は魔物に襲われると死んでしまいます。そうですね」

「なんだよ、突然。まあそうだな。大抵の人間は抵抗する暇もなく殺されるんじゃないか」

「人間は結界を作ったり様々な製品を作ることが出来るそうですね」

「〝そうですね〟って、わざわざ聞くようなことか?」

「人間は食卓にも上がるそうですね」

「はあ?! お前、なに言っているんだ。そんなわけ――」

「魔人の食卓に上がることがあるそうですね」


 〝魔人の食卓〟……

 〝魔神まがみ〟ではなく〝魔人〟か。

 ということなら……


「……ある。それがどうしたってんだよっ」

「おや、まだ分かりませんか」

「なにがだっ」

「ふむ、ダイス様はお気づきになられたようで御座いますね」

「だからなにを……え、ダイスさん?」


 なにか強い衝撃でも受けたのか、俯いて放心している。

 気づいた?

 羊の話をしたと思ったら人間の話を……待てよ。

 いや、そんなことが?

 でもそう言っているとしか思えないぞ。


「おや、船長もお気づきになられたようで御座いますね」

「いやいやいや。そんなわけ……」

「あるはずないとお思いになられたいのでしょう。ですが、これは事実です。ですよね、ナームコ様」

「わたくしは最初からそう申し上げていたではございませんか。でございますのに時期尚早と仰られて否定されていたではございませんか」

「誤解しないでください。あくまであの時点では時期尚早というだけのこと。否定したのではありません」

「屁理屈なのでございます」

「わ……私たちは〝家畜〟だというのか。貴方は私たちを牛や豚と同じ〝家畜〟だというのか」

「人間は羊を狼から守ります。魔神まがみ様は魔物から人間を守ります。人間は羊を素材にして利用します。魔神まがみ様は人間を結界の維持や食料として利用します。人間は羊が一定の数より減らないように繁殖させます。魔神まがみ様は――」

「もういいっ!」

「やはり両者の共生など、夢物語だったようです。しかし、奴らはもっと短絡的だと思っていましたが、意外と冷静な――」

「デイビー、もう止めろ」

「……失礼いたしました」


 家畜?

 そう言われると全てが繋がってしまう。

 繁殖させて育てる。

 知識は必要無い。

 自給自足させればエサを用意する必要も無い。

 そしてある程度育てば出荷する。

 なんとなく感じていた違和感が。

 あのとき、ナームコが言っていた異様な光景の正体が。

 ここに足りない存在。

 それは……


『もしかして異様な光景って、年寄りが1人も居ないことか?』

『そのとおりでございます』

『考えられるのは2つですね。1つは医療技術がつたなく、そこまで生きられないこと。もう一つは、年老いた生物の肉は総じて硬いものです。そうなる前に、つまり食べ頃になったら食肉としていたのでしょう』

『食肉とか言うな』

『ですがここではそれが現実です』

『分かっているっ』


 なんでこの2人はこんなにも冷静で居られるんだ。

 そりゃ人間だって牛や豚を家畜として飼育し、食肉にしている。

 ここではそれが人間に変わっただけだ。

 俺が人間だから憤りを感じるだけで、魔神まがみからしたら人間が牛や豚にしていることを人間に対してしているだけのことなんだろう。

 それは理解できるけど、でも俺は人間だ。

 そんなこと許せない。

 大体、お前ら元人間なんだろ。

 なんで人間を食べることに抵抗が無いんだよ。

 しかも人間だった頃は一緒に住んでいたんだろ。

 意味が分からないよ。

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