第20話 そういうとこ

 よし、一応用も済んだし、船まで帰ろうか。

 ということで、来たときと同じく3人でまたフブキに跨がろうとしたのだが……


「えー、また荷台に乗るのかい?! ボクフブキちゃんに乗りたいな」

「なんでだ?」

「でしたらわたくしも一緒に乗りたいのでございます」

「お尻が限界だって話したでしょ! まだ痛いんだからねっ」


 あー、そんなことを言っていた気もする。


「でもさすがに4人は乗れないしな……んー」

「兄様、アニカ様をお数えになられるのをお忘れでございます」


 重さ的に余裕でも、背中の広さには限界がある。


「えー、ボクではなくてナームコさんですよ」


 今でも時子のお尻がはみ出しそうで俺の背中にがっしり掴まっている状態なんだぞ。


「アニカ様より愛すべき可愛い妹を優先させるのは当たり前なのでございます」


 本人は気にしていないみたいだが、その度に俺の背中はいつも以上に神経がザワついて大変なんだ。


「そんなことありません。モナカくんがおばさんに興味あるとは思えません。ねーモナカくん!」


 毎回のことだけど、だからって慣れないよ。


「貴様、兄様の妹を捕まえておばさんと言ったか!」


 しかも前には鈴ちゃんが乗っている。


「ナームコさん、言葉遣いが……」


 非常に危険な状態だ。


「ハッ、失礼したのでございます」


 万が一にも鈴ちゃんが〝お尻に硬いものが当たる〟とか言いだしたら、人生終わるかも知れない。


「わたくしがおばさんと仰るならば、兄様はおじさんになると存じるのでございます」


 とにかくそんな状態だ。


「ナームコさんがモナカくんより年上なことはみんな知ってます」

「アニカの代わりに誰が降りろと? やっぱり俺か?」

「兄様?!」


 妥当な選択といえば選択なのだが……


「パパが降りるんなら鈴も降りるー」

「なら私も……」


 えっ、時子まで?!


「いや、時子は付き合う必要無いぞ。鈴は俺の膝に座らせて抱っこしていればなんとかなるけど……ああそっか。時子も膝に――」

「そ、そんなんじゃなくて! その、手が……繋げなくなるから。それだけよっ!」

「――……鈴を座らせて抱っこしたかったんじゃなくてそっちか」

「え……」

「ん? 違うのか?」

「はぁ……なんでもないわ」

「マスターのバカ」


 なんでタイムにバカにされなきゃならないんだ。

 人が気を遣って譲ろうとしただけなのに。

 もしかして。


『鈴ちゃんは時子より俺の膝がいいって言うから譲ったらダメってことか』

『……そういうとこだよ』


 ? 〝そういうことだよ〟の言い間違えかな。


「とにかく全員が入れ替わるしかないぞ」

「う……ならいいよ。我慢する」

「そうか? デイビーはどうなんだ?」


 一応全員に聞いておかないとな。


「僕は荷台で構いません」

「そうか。悪いな。じゃあ来たときと同じ組み合わせで」

「兄様っ、わたくしのお尻も心配してほしいのでございます」

「ん? 荷台はイヤか?」

「兄様の後ろに乗りたいのでございます」

「そうか、健康のために歩きたいんだな」

「兄様?! ……荷台に乗りたいのでございます」

「そっか」


 歩くというか、走ることになるだろうからな。

 いや、全力疾走か?


「あんたって人は……」

「ん?」

「なんでもない」


 手を繋げなくなるといえば、フブキに乗っているとき以外は鈴を挟んで時子と3人でずっと繋いでいたのに、ワンさんたちや王様からなにも言われなかったぞ。

 初めての人はなにかしら反応してくるんだけど……ここだと普通なのかな。

 狩猟協会だとエイルと三角関係がーと騒がれたこともあったくらいには弄られる。

 そういえばエイルが残ったと報告したとき、〝ついに決着か〟なんて言ったヤツが居たっけ。

 隣のヤツにどつかれてたけど。

 鈴のことまでバレたらどんな噂が立つのやら。

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