第117話 聞く必要は無い

 次の日、イフリータの言うとおり、アニカが目を覚ました。

 なにがあったのかを話し、エイルを探しに行くことになったと告げた。

 勿論強要は出来ない。

 ついてこなくても文句は言えない。

 時子と離れれば今までどおり精霊と暮らせるようになる。


「アニカはどうする。残るか?」


 その方がアニカにはいいと思った。

 他意は無い。


「なんでそんなこと聞くんだい! 行くに決まってるじゃないか」

「いいのか?」

「当たり前だよ。エイルさんを連れて帰ろうよ」

『時子と離れられれば、精霊たちと暮らせるんだぞ』

『そうかも知れないけど、エイルさんの方が大切だよ』

『っふふ。鎌鼬ワールウィンドが聞いたら発狂しそうだな』

『どうしてだい?』

『気にするな。こっちの話だ』


 さて……となると残るは1人。

 聞くだけ無駄だろうけど。


「ナームコはどうする?」

「わたくしを置いていかれるおつもりでございますの?!」

「連れて行く理由も無いしな」

「兄様?!」

『そのお兄さんだって死んじまったんだろ。いつまで俺を代わりにしているつもりだ。これ以上付き合う必要は無い』


 本当なら、今回の旅もついてくる必要は無かったんだ。


「わたくしはスズ様の面倒を見るという大役があるのでございます」

「鈴の?」


 どんな大役だ。


「そうだな、娘」

「はい、お願いします」

「鈴に無理矢理言わせているんじゃないだろうな」

「そんなことしていないのでございます。スズ様からも、仰ってほしいのでございます」

「パパ。ナーム叔母さんに居てほしい」

「鈴、正直に言っていいんだぞ。どんな弱味を握られてても、パパが守ってやるからな」

「兄様?!」

「違うよ。鈴はナーム叔母さんが居ないとダメなんだよ」


 そんなにも懐いているっていうのかっ。

 ナームコに子供心を鷲掴みにする才能があったとは……


「そっか……分かった。鈴がそう言うんなら、連れて行こうか」

「兄様!」

「ナームコも叔母さんとしての自覚が芽生えたってことか」

「兄様?!」


 思惑とは違ったけど、こうなることは分かっていた。

 それでも自分の世界に帰りたく存じるのでございますとか言ってくれないかなーと、ありもしない可能性に賭けてしまった。

 もう諦めるしかないのか。


「それじゃ、行ってきます。必ず見つけて引きずってでも連れて帰ります」

「終わるまで待っていてもいいんですよ」

「居場所くらい教えろって話です。それにこの船なら簡単に往復できますから」

「そうですか。また寂しくなるわね」

「すみません。でもフブキが居ますから」

「連れて行かないんですか? 私に遠慮しなくていいんですよ。フブキも行く気満々みたいですし」


 あー、さっきからゴツゴツと鎖を鳴らしてわふわふ吠えているのは分かっていたけど。

 連れて行ったら本当に1人になってしまう。

 職人さんが居るとはいえ、あくまで従業員。

 どんなに親しくしていても、そこは分別つけないと。


「動物は人より毒素の影響を受けやすいんですよね」

「もう2度も外に行っているんですよ。それにあの子も置いて行かれそうになっていることに腹を立ててるみたい。だからお願いします」

「分かりました」


 フブキのところへ行くと、今にも飛びかかってきそうな勢いで鎖がピンと張っている。

 木製なのによく切れないな。


「フブキ、そんなに行きたいのか?」

「わふ!」

「そっか。置いていこうとしてごめんな」

「わうぅ」

「うん、一緒にあのバカを連れ戻そう」


 フブキを連れていくと、トレイシーさんに戯れ付いて別れの挨拶をしている。

 今までそんなことしたことないのに。

 ……したくても出来なかったんだっけ。

 それにしたって今生の別れじゃないんだぞ。

 必ず帰ってくるから。


「兄様、トキコ様にはお聞きなさらないのでございますか?」

「なにを?」

「共に行くか行かないかをでございます」

「聞くだけ無駄だよ。一緒に行くことに変更はない」

「そうなのでございますか?」

「ああ。そうだろ、時子」


 そう言いながら繋いでいる手を持ち上げる。


「うん」


 この手が繋がっている限り、別行動をすることはない。

 何処へ行くにしても、行ったとしても、離れることはない。

 特別なことはなにもない。


 手を繋いで共に歩む。


 これまでも、これからも、ずっとそうしていく。

 少なくとも、先輩が見つかるまではそうしている。


「パパ、ママ!」


 ああそうか。

 これからは間に鈴ちゃんを挟んで3人で歩いて行くんだった。

 鈴ちゃんを預けていくことも考えた。

 でもそうすると絶対〝鈴は要らない子〟って思い込む。

 どんなに違うと言っても深く刻まれたものを埋めるのは時間が掛かる。

 だったら多少危険でも連れて行った方が鈴ちゃんは幸せだ。

 前回そう決めたのに、結局悩んでしまう。

 悩んだところで結論は変わらないのに……だ。

 タラップを降ろして船に乗り込む。


「オバアさん、バイバーイ!」

「鈴。〝バイバイ〟じゃなくて、〝行ってきます〟だぞ」

「行ってきまーす!」

「行ってらっしゃい。気をつけてね」

「うんっ!」

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